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魅惑な夜

 マットは樹里と手を繋いだまま学内を歩き、駐車場までやってきた。

「どうぞ」

 と、クルマのドアを開けてエスコートしてくれた。しかし、そのクルマは派手なメタリック・ブルーのスポーツカー。樹里は少し躊躇したが、促されるままに助手席へ座った。そして、大きなエンジン音を立てると、マットはクルマを急発進させた。


「どうしてロスに?」

 マットは前を見たまま、樹里に話しかけた。行動とはうらはらに、とても落ち着いた口調だった。

「…前にも、来たことがあるのよ。そのときに―」

 と言いかけたとき、樹里のお腹がグゥ~っと鳴った。

「お昼、食べてなかったから…」

 樹里はお腹を押さえてうつむいた。

「それじゃ、ご飯食べに行こうぜ」

 と、マットはクルマをUターンさせた。


 到着したのは、大学近くのバーガーショップ。DINERのネオンサインに、赤と白を基調としたオシャレな店内。マットは店長さんらしき、人柄の良さそうな小太りの男性と楽しげに会話を交わしている。そして、マットが注文したのはグルメバーガーとドリンクをふたつ。

「マットは食べないの?」

 樹里の質問に、マットはニヤッと笑うだけ。しばらくすると、ボリューム満点のハンバーガーが運ばれてきた。山盛りのポテトフライも添えられている。


「…こんなに食べられるかな?」

 樹里の不安を見越してか、マットは、

「大丈夫。食べ切れなかったら、俺が食べるから」

 と、ポテトフライをつまんで食べた。樹里はバーガーを両手でつかむと、大きく口を開いてガブッと食いついた。…だけど、半分も食べないうちに、お腹はいっぱいに。ドクターペッパーを一口飲んで、マットの顔を見ると、樹里の食べかけのハンバーガーをペロリと平らげた。それから、ふたりでポテトフライを食べつくした。


「マットは、何かスポーツやってるの?」

 樹里はマットの立派な体格と食欲に、聞かずにはいられなかった。 

「あぁ、サーフィンを…」

 すると、樹里は「カリフォルニアだもんね」と微笑んだ。


「私…、サーフィンって、やったことないの」

「それなら―」

 すると樹里は、マットの言葉をすかさず遮って、

「だって、泳げないから…」

 と、肩をすくめた。「でも、海は好きよ。波の音を聞いていると、心が落ち着くの」と、つぶやいた。

「それなら、ヴェニスに行かなきゃ」

 

 そう言って、マットは西海岸のヴェニス・ビーチへとクルマを飛ばした。


 砂浜にパームツリー。ビーチ沿いには、たくさんの露店が立ち並んでいる。そこでは多くの観光客が、買い物を楽しんでいた。

 

 ビーチでは、ちょうど夕日が沈みかけていて、とてもロマンチック。たくさんのカップルが散歩を楽しんだり、砂浜に寝転がったりして、このムードに酔いしれている。ふたりも、芝生に腰をおろして海に沈む夕日を眺めることにした―。

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