壊れた心
街に戻ったセシルは、クラブでジェシカと落ち合うと、ビールで乾杯していた。
「それにしても疲れたわね。あんな硬いベッドで寝かされて、腰が痛くなっちゃった」
「まぁ、テントよりはマシだけどね」
セシルとジェシカはアウトドアは好きではなかった。しかし、ライアンの「ボランティアに協力すれば補習を免除する」とゆう交換条件で、仕方なく参加していた。
「それで…、ジュリとは話したの?」
「別に、話すことなんてないわよ」
セシルはバッグから携帯電話を取り出すと、マットからの着信を確認している。
「ところで、ジュリは?」
「ムカついたから、モールに置いてきちゃった」
その言葉に、ジェシカは瞬時に青ざめた。
「そんな! どうして…」
すると、セシルは手にしていた携帯電話をバッグに投げ入れると「悪いのはジュリよ」と、怒りを露 (あら)わにした。
怒りの発端はキャンプの夜、マットと樹里が抱き合っているところを目撃したジェシカが、セシルに告げ口したからだった。「あの二人は絶対に怪しい…」と。―ジェシカはマットに恋心を抱いていたが、誰にも打ち明けられずにいた。だからこそ、マットとセシルとの仲に亀裂が生じることを期待し、大騒ぎしたのだった。
ジェシカは「ちょっと…」と席を離れると、急いでマットに電話をした。しかし、なかなか繋がらない。諦めかけたそのとき、眠たそうな声のマットが返事をした。
「いるなら、早く出なさいよ!」
ジェシカは苛立ちを隠せなかった。
「…ジェシカ?」
「すぐに、サンタモニカに行って!」
その態度にムッとしたマットが言い返そうとしたそのとき、…ジェシカは涙声で訴えた。
「ジュリが―」
受話器を置くと、マットは樹里を探すため、ショッピング・モールへとクルマを飛ばした。
樹里は、ただひたすら歩いていた。歩き疲れたならバスに乗るか、タクシーに乗ればいいと思っていた。しかし、足を止めることが出来なかった。立ち止まると、そこから動けなくなりそうな気がしたからだ。だけど、不思議と何も感じなかった…。
しばらくすると、1台のクルマが急停車した。クルマから飛び出してきたのは、マットだった。マットは樹里を抱きしめ言葉をかけるが、まるで返答がなかった。知らない土地で放置され、よほどのショックを受けたのだろうと思い、樹里を自宅に連れて帰った。
放心状態から、次第に正気を取り戻すと、樹里はマットにお礼を言って、そのままソファーで眠ってしまった。そんな樹里を、マットはずっと見守り続けた。
時計の針が0時を指す頃、樹里が目を覚ました。マットはセシルのこと打ち明け、心から詫びた。しかし、樹里は「そんなこと、気にしてないよ…」と微笑んだ。
「それなら―」
そのとき、樹里はマット胸に飛び込んだ。そして…キスをした―。




