教師と生徒の格の違い
声を上げたのは高城さんだった。
高城 シェリー。名前の通りアメリカ人とのハーフだという彼女は、青みがかった黒の瞳に金髪の両サイドをクルクルに巻いた髪型で、その日本人離れした美しい容姿はかなり目立つ存在といえる。
生まれも育ちも日本のため英語はほとんど話せないそうだが、親がお金持ちのボンボンだったそうで、いつも身綺麗にしている。
同じクラスでありながらほとんど話したことのない女子生徒だ。もっと言えば、あまり関わりたくない人物だ。
風貌や言葉遣いは上品なのだが少々怒りっぽい性格で、アメリカ人譲りの自己主張が強い性格なのか、言いたいことはズケズケという。
簡単に言うと品のない金持ちといった雰囲気だ。
当然周りも触らぬ神になんとやらで当たり障りのないよう気を使っているのだが、本人はそれを全く理解していないのか、理解しようとしないのか、不遜な態度のままだ。
「先生はこの学園から逃げるなとおっしゃいますが、ここはあまりに理不尽な場所だと思います。
私たちは何の選ぶ権利もなく才能があるというだけでここに連れてこられました。そして命を懸けて同じ境遇の生徒と戦うことを強いられてます。人権蹂躙も甚だしいんじゃありませんか?
呼刀君が逃げ出す気持ちもわかります。なぜ私たちはこんなことさせられてるんですか?」
これはまた面倒なことになりそうだな。いまさらゴネだす奴ってのは命が惜しくないのだろか。それともまだ法治国家や義務教育の考えが頭から離れないのだろうか?
「まあ理由は人それぞれですが、発現者は強くならないと生きていけないからですよ、高城さん。発現者の社会は理不尽なものです。だからそのことをここで学び、強くなる方が安全じゃないでしょうか。
法律の通じない社会では人権蹂躙なんて言葉は役に立たないんです。わかってもらえたかしら」
「いいえ、納得できません。こんなやり方は私は許しません。今すぐ学園長を呼んできてください。先生では埒があかないので学園長と話します」
うわっ、こいつ大丈夫か? クレーマー気取りだけど霧真者先生に殺されちまうんじゃないか?
「ほお、高城。お前いつからそんな偉くなった?」
元ヤンの霧真者先生がブチ切れてしまわれたようだ。彼女の本性を知らない周りの生徒たちは一瞬、息を飲む。
その体からは急激に魔力が溢れ出したかと思うと教室中の隅々にまで溢れ返るように張りつめ、ガタンッガタンッと生徒たちの机が軽く跳ね上がる。
なんだこりゃ……1人の人間がこんなに大量に魔力を放出できるものなのか? いや、放出しているわけではない。これでも先生は自分のなかに押し留めているみたいだ。でなければ彼女の体があんなに眩しいくらいのオーラを放つはずがない。
完全に格の違いを見せつけられた高城さんの体は小刻みに震えている。
「ゆるさないってんならどうするつもりだ? 高城」
教壇から降り、ゆっくりと霧真者先生が高城さんへと近づく。
先生が歩くたび、その方向から何かに押されるような感覚が全身に伝わる。気のせいかとも思ったが、周りの生徒の体もビクッと実際に揺れている。
高城さんが座る席の前で止まると、静かに彼女を見下ろしながら尋ねる。
「どうするんだ? 能力使ってあたしとここでやり合うか? そんくらいの覚悟はあってふざけた口利いたんだよな」
先程の余裕顔はたちまち消え、血の気の引いた顔の高城さんは震えながら、先生から顔を背けるように下を向いている。
先生の表情は恐らくは鬼のような形相をしているのだろうが、わからない。確認しようにも怖くて目を向けられない。
僕の席は高城さんとはかなり離れているほうだが、それでも感じるプレッシャーで肩を掴まれているかのように体が重く、動けない。
かろうじて視線は高城さんに向けられはするが、その隣に立っている女教師の方は見ることができない、というか見たくない。
今、少しでも霧真者先生と目が合えば、その視線だけで頭を射抜かれるのではという恐怖を覚える。
「はひっはっはいっいっ、いえっ、ひいぃえっ、えっ!」
金髪の女子生徒は泣きながら必死に首を横に振っているが、過呼吸でもうなにを言ってるかわからない。
「どうなんだ高城っ!」
女教師が叫んだ途端、教室中を圧迫していた空気が一気に1人の女子生徒に向けられる鋭い感覚。
同時に先生の体から輝く魔力オーラが”ズドッ”と目の前にすわる高城さんの胸に突き放たれた。
「ひぐぁっ」
っと小さく呻いたかと思うと、その体は全方位から押しつぶされて行き場を失ったかのように肩をすくめて”ビグッ”と硬直し、彼女は天井に顔を向け、泡を吹きだす。椅子に座ったままだらんとした手足を投げ出して気絶したのか、ピクピクと不規則に身体が律動している。
水音がし、椅子から雫がボタボタ滴り始める。失禁したようだ。
先生の体から溢れる光が徐々に弱まり、教室に張りつめていた空気もどこかへと消える。
”ウゥーン”というエアコンのかすかなモーター音だけが聞こえてくる。
誰一人、音を立てるものはいない。
静寂のなか、霧真者先生は教卓に戻り、いつもの笑顔で言う。
「はい、では他のみんなはわかったかな? 学園の敷地からは出ないように。不審者がいたらすぐに憑依して避難、そのあと先生たちに知らせるように。
以上の2つを守ってください。それでは解散でーす」




