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二月、聖バレンタイン戦争の予感

 三学期というのはとにかくあっという間に過ぎる。

 二月。

 一年で最も短い月である。

 そして、一年で最も寒い季節であり、同時にある意味、一番熱い月である。


「チョコ……」

「チョコ………」

「チョコ…」


 女子達が寄り集まって、今年の計画を立てている。

 高校一年生になって最初のバレンタインである。

 意中の男子がいる娘たちも増えてきていて、そこここで、どんなチョコを、どんなタイミングで、誰に渡すのか。

 そんなことが囁かれている。


「利理はどうすんのよ」

「んっふっふっふー。小鞠んよく聞いてくれましたぁ。私は、愛の天使になるのぉ」

「……は?」

「恵まれない男子達にぃ、チョコを配ってあげてぇ、女神として崇められるのぉ」

「天使じゃなかったのかよ」

「そして、私が配ったチョコからぁ、男子達の心を奪ってしまってぇ、私を取り合って何人ものイケメンがぁ」

「おーい、戻ってこーい」


 義理チョコしかあげるものがない人たちだっているが、必ずしも誰かにあげなければいけないわけじゃない。友チョコっていうのだってあるわけで。


「お前らはみんな敵だ」


 御堂は孤独な表情をして言い放った。


「どうしたんだ御堂。なんだか世界を敵に回したような顔をしているぞ」

「坂下、貴様が言うのか!! クラスベストカップルの貴様が!!」

「……落ち着け」

「境山ぁ!! お前だけは信じていたんだぞ! 返せ! 俺の信頼を、俺の純情を返せえええ!!」

「あれだ。御堂は便秘なんだろう」

「残念だったな! お通じは絶好調だよ!! っていうか納得いかねえ! なんでお前まだ続いてるんだよ! しかもすげえ仲良さそうじゃねえか!!」

「グフッ」

「あー、伊調はまあ、そうね」


 男たちの間にも格差というものが生まれてしまう。

 恐ろしい事に、このイベントでリア充へとランクアップする者もいる。

 イベントとは、思いを伝える絶好の機会でもあるのだ。


 城聖学園では、バレンタインデーにチョコを持ち込む行為は禁止されていない。

 これは、学園のイメージによる。

 校風は自由を謳っており、バレンタインという機会を使って自分の思いを表現する事に制約は無いのだ。

 ……お菓子メーカーの企み? 知らんがな……って感じで、なんと購買コーナーではオリジナルチョコまで販売される。

 毎年売れ行きは好調らしい。


「正直、この季節は毎年憂鬱なんだよな」

「おっ、和泉くん言うね~」

「色男は持てて大変そうねえ」

「お二人さんが俺にくれるなら、本当に嬉しいんだけどね」

「残念だけど、私からは義理かなあ」

「私はそういうのやらない主義なのよ」


 心底残念そうに和泉は溜息をつく。

 男からすると、本命チョコらしきものを山程もらう和泉は敵以外の何者でもないのだが、自分の本命からは決してチョコを貰えない運命みたいなのを、この男は幼い頃から繰り返してきたらしい。

 意にそぐわぬチョコなど嬉しくもない、ということなのだそうだ。

 どうやら、彼はまだ勇太に気があるらしい。


 果たして、彼女たちはどんなチョコをプレゼントするのだろうか。

 自作?

 既成品?

 自作と言ったって、加工用チョコを湯煎して形を整え、トッピングとラッピングでオリジナリティを出す世界。

 一年一組の女子達は、全体的に女子力が非常に高い。

 自分磨きとかネイルとかそういうのではない。

 真の意味で、女子としてこれができれば、男たちのハートをキャッチできるであろうというスキルに、ナチュラルに長けているのだ。

 即ち、ほぼ全員が自作派であった。

 一般的な作り、オリジナリティ溢れる作り、愛を込めた作り。

 恐らく、このクラスだけであらゆる種類の自作チョコが出そろうことであろう。


「まさか、利理ちゃん全部の義理チョコを自作するの……?」

「あったぼうよぉ……!!」

「すげえ」


 流石に勇太も小鞠も、半分呆れ、半分尊敬の目を向ける。


「あの、私も今年は……」

「晴乃ちゃんも一緒に作ろう!」


 つまり、金城邸で四人の女子が自作チョコに挑戦するということなのだ。

 二月序盤から、女達の戦いは始まっている。


 ビター、スイート、ミルクは多めか少なめか。

 フレーバー、トッピング。チップにパウダー、デコレーション。

 この季節に訪れるデパートなんかでは、山程のチョコレート用品が溢れている。

 群がっているのは恋する乙女たち。

 恋する相手がいなくったっていいのだ。

 このシーズンだけは、彼女たちだけの祭典なのだから。


 手にしたカゴに、山程の材料を詰め込み、四人はレジに急ぐ。

 軍資金は四人の財布からそれぞれ供出。

 果たしてそれは、一人を除けば明らかに、彼女たちがあげようと思う相手の数を大きく超えた、大容量の買い物であった。

 失敗するパターンを考えているのだとしても、多い。


「まあとりあえず、これだけ買っておけば色々試せるでしょー」

「それにしたって多すぎない?」

「実はね、後一人増えるんだよ」

「ああ、水森さんでしょう?」

「当たり!」

「ぬっふっふぅ、私が女神になれるチョコを作るわぁ」


 つまり、訂正すると、金城邸で五人の女子が自作チョコに挑戦するということなのだ。

 二月序盤、女子たちのチャレンジが始まった。


 どうやら半分くらいは、自分たち用のようだけれども。

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