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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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除夜詣。鐘の音はいつ?

 神社周りは、それなりに人が多く、まるでお祭りのよう。

 女子達はわいわいとそれぞれのグループに分かれ、それに男子が追随する形になった。


 天幕だけが貼られたタイプのテントが幾つも立ち並び、よく見れば夏祭りとは異なった形式の、こじんまりした露店がいくつか。

 甘酒を配っているところがあったので、勇太と楓、上田と一緒に近づいていく。

 いい匂いが漂っている。


「なんか、あまーい匂いがするねえ」


 勇太が鼻をくんくんさせる。

 そんな華やかな格好をして、その仕草はやめなさい。

 郁己が頭……はセットされてるから避けて、首筋にチョップをして突っ込む。


「えへへ、なんかお腹すいちゃって。夕御飯食べてきたんだけどな」

「うん、あったか、そう。私も、興味、あるなあ」


 女子の意見は一人につき、男子百人分に相当する。

 大意に沿って、一行は甘酒に近づいていった。


「こんばんはー」


 声をかけると、甘酒をかき回していたおばちゃんが気付いて目を細めた。


「いらっしゃい。おやまあ、可愛らしい振り袖の子が二人も。お兄さんたち隅におけないわねー」

「うへへ」

「うへへ」


 勇太と上田が照れる。

 上田はともかく、勇太はそんな声を出したらいけない。君は今和服の美女なのだ。

 楓はニコニコとしていて、夏頃と比べると、随分肝が据わったなと思う。


「よっしゃー! あたりー!」


 遠くから、小鞠の威勢のいい声が聞こえてくる。

 小鞠、晴乃、利理の三人組で、多分近くに境山が潜んでいるはずだ。

 夏芽と和泉はどこだろうか。奴らは男の友情という感じでそれなりに仲がいい。


 視線を戻すと、勇太と楓が甘酒を受け取り、顔を見合わせてニコニコしている。

 寒い中、指先を紙コップで温めているようだ。

 空気を読まず、甘酒を一気飲みする上田。


「かーっ! 効くーっ! もういっぱい!」


 一口啜ると、暖められた甘酒の、酸味ある香りが口いっぱいに広がる。

 喉奥を通って行く暖かさが心地よく、腹の底からじんわりと、温もりが染みこんでいくようだ。


「やっぱ、寒いところで飲むと、特別に美味いもんですよね」

「そうよねえ。これを飲みながら毎年、年越しをするのも楽しみだわ」


 おばちゃんは笑って言った。

 立ち寄る人々も、甘酒を一杯もらってこの辺りをぶらつくようで、本殿へ続く道はそれなりの賑わい。

 さして有名な神社でもないが、参道が長くてちょっとだけ登る石段が、夜明かりに照らされてなかなかいい雰囲気。

 これが好きで毎年通う人もいるとのこと。


 もう一口、甘酒を含む。


「おーい」


 和泉と夏芽が戻ってきた。

 露店みたいなのを一通りぶらついてきたらしい。


「まあ、お祭りってほどじゃないのは仕方ないわよね」


 二人は食べ物を調達してきている。

 夏祭りに行った和泉曰く、内訳はあまり夏祭りと変わらないそうだ。この辺りの商店街の人々は、季節を通してだいたい出し物が同じなのかもしれない。

 焼き鳥やらお好み焼きをつついていると、女子三人組+1もやって来る。


「そろそろ除夜の鐘かしらね?」

「んー? 小鞠んスマホ置いてきたの?」

「そりゃそうよ。だって無粋じゃない?」

「小鞠んそういうところ、こだわるよねぇ」


 わいわい言いながら、二人は甘酒をもらってグッと一杯。


「ああぁーーーー、温まるわぁー」

「なぁーんか、こう、色々ほぐれるよねぇー」

「おっ、甘酒か。こういうのって普通、新年明けてからだよな」

「和泉も硬いこと言わない。あ、私も一杯くださーい」


 わいわいがやがや。

 晴乃が甘酒の湯気でメガネが曇ってしまい、慌てて外してキュッキュと拭いている。

 虚空からメガネ拭きが現れたから、多分あのへんのどこかに境山がいる。


「うぇへへへー、郁己ー」


 柔らかいものが寄りかかってきた。

 勇太である。

 なんだか赤い。


「まさか、勇太、お前……ベタにもほどがあるだろう……!」

「なんでもないよぉー。甘酒っておいひいねえ」


 甘酒はほんの少しだがアルコールを含んでいるから、酔いやすい人には効果があると聞くが。

 楓や夏芽、利理はケロっとしている。

 和泉はまあ、酔っても酔わなくてもキャラが変わることはないだろう。

 上田も同じだ。元からべろんべろんに酔っ払っているような男だ。

 郁己はと言うと、ちょっと身体がホカホカしているものの、それだけの事。

 どうやら目の前の恋人は、随分とお酒に関して省エネな身体をしているようで。


「うふふー、郁己あったかぁい」

「ちょっとー、勇は見せつけないでよぉ。ちょっとくらい坂下をあたしに貸しなさいよー」


 小鞠、お前もか。

 和泉がこちらを見て微笑みながら、親指で首を掻き切る仕草をした。

 あれか、お前羨ましいのか。ざまぁ。……じゃねえ。


「どうどう、落ち着け、落ち着けふたりとも。晴れ着が汚れてしまうだろう……!」

「汚れた時のために保険はいってるもーん! 小鞠ちゃん、ねーっ」

「ねー! だから坂下は、あたしたちを安心して揉みくちゃにしなさいっ」

「ひぃぃーーー」


 郁己は走りだした。

 あんな所にいられるか! 俺は一人で石段を駆け上がるぞ!!


 ちなみに、昔はお寺と神社の境目があまりはっきりしていなかった頃があったそうで、この神社はお寺とくっついているハイブリッド神社である。

 除夜の鐘から初詣、花祭りに七五三を全部ここで出来るというすぐれものだ。

 なので、この石段を登り切ると、その先には鐘つき堂と本殿がある。

 石段をゆっくり登る人々が、駆け上がる郁己を見て目を丸くする。


「まてえ郁己ー!!」

「坂下まちなさーい! あたしを振った責任をとりなさーい!」


 やめてえ! そんなこと公の場で叫ばないでえ!

 郁己は耳を塞いで必死に逃げる。

 人間、限界になると体力の上限が変わるものらしい。普段だったら簡単に息が上がってしまう石段を、すさまじい速度で駆け続ける郁己。

 三枚のお札があれば、奴らに投げつけて逃げ切ってやるのに!


「うう、あたしもうだめ……。勇、後は任せたわ……」

「小鞠ちゃん! ううう、俺が君の遺志を継ぐよ……!!」


 一人脱落したが、残ったのは体力お化け。あれは絶対に脱落しない。

 振袖姿とは思えぬ速度で迫ってくる。

 むしろ、晴れ着が動きの邪魔をするから、今は勝負になっているのだ。


「うおおおお、あい、きゃん、ふらーいっ!!」


 郁己は叫びながら、石段の最後を飛び越え、境内に着地した。

 すご背後まで迫っている追っ手は、


「逃がすかあああ」


 と叫びながら続いて最後の一段を飛び越えようとして、どうやらさすがに、草履が限界を迎えた模様。

 鼻緒が切れて、躓いてしまった。


「あっ!」


 倒れ込もうとする勇太。

 郁己は反射的に彼女を受け止める。

 深く、胸に彼女を抱きかかえる姿勢になって、じんわりと互いの温もりが感じられた。


「むにゅ……。あったかい。最初からこうしてくれれば良かったのに」


 満足気に勇太が呟いた時、脇の方から、腹に響く鐘の音が、太く……長く響いた。

 除夜の鐘だ。

 もうすぐ、今年が終わる。

 来年がやってくる。


 鐘が鳴る中、仲間たちが登ってくる。

 利理に肩を支えられた小鞠。長い石段を軽々登る夏芽。

 楽しそうに鼻歌交じりで来るのは和泉。和気あいあいと、少しずつ上がってくる楓と上田。

 境山は、ぐうぐうと眠る晴乃を背中に背負っている。境内に辿り着いた後、彼は晴乃を揺すり起こした。


 最後の除夜の鐘が鳴る。

 しばしの静寂のあと、


「あけまして、おめでとうございます!」


 誰からとも無く、声が響いた。

 新しい一年の始まりである。

これにて12月は終わり。

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