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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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12月31日、集う振り袖

 来るべき日がやってきた。

 懸念ごとも片付いて、それどころか、心強い味方まで出来てしまった。


「郁己、随分ご機嫌ね?」


 夕食も終わり、母が声をかけてくる。

 今日は今年最後の日。

 大晦日の晩には、昨年までは家族揃って特番や歌番組を見ていたのだが、今年は違う。


「ね、ね? どうかな。おかしくない?」


 綾音は振袖姿で、姿見の前でくるくる回る。

 鮮やかな色のモダン柄は、紫から白へのグラデーション。今年の成人式に使ったものだけど、バイト代を貯めて、そのあらかたを使い果たして買ったもの。

 こんな機会に使わなければ勿体無い。


「ぬうー! お父さんはまだ許してないからな!」

「はいはい。今年は私たちは二人きりですからね」


 今からお蕎麦を用意しているらしい。

 両親を後に、綾音だけでなく、郁己もまた初詣に向かう用事があるのだ。

 正確には、除夜の鐘に合わせて行くから除夜詣。元日詣は今年はやらない予定。


「だって、年が変わる時を一緒に過ごせたら、ロマンチックじゃない?」

「姉貴がロマンを語ってもなあ。去年はリアリストだったじゃん」

「私だって、まさか年末に転機が来るなんて思ってなかったもの。人生ってほんと、何があるか分からないわよねえ」

「それは同感」


 本当に、どんでん返し、またどんでん返しの年末だった。

 勇太に始まり、勇太に終わったというか。

 でも、一年間を過ごしてきて、培ってきたものが実を結んで、最後に助けに来てくれた。


 そこで、坂下家のチャイムが鳴った。


「はーい!」


 弾んだ声を上げ、綾音が飛び出す。

 振袖姿なのにはしたない……とは思うが、気持ちは実に良くわかるので、大目に見ておこう。

 だって今夜は年の瀬。大晦日なのだ。


 扉の向こうには車が止まっていて、和田部教諭がちょっとおしゃれな服を着て待っている。

 晴乃が、親から車を借りてるんだよなんて言っていたのを思い出す。

 いそいそと綾音が助手席に乗り込み、二人はどこまで行くのやら。


 郁己の待ち人も、そう遅くなることは無いだろう。

 ……というか、こっちから迎えに行ってしまってはどうだろう。

 そうだ、それがいい、そうしよう。

 ということで、郁己は金城邸にやってきた。


 すぐに通されて、家の居間にやってくると、大きなコタツが出されていた。

 上には様式美通りの山盛りみかん。

 心葉がすっぽりとコタツに収まって、テレビを見ながらみかんを食べていた。


「あら、郁己さんこんばんは」

「心葉ちゃん堪能してるねえ」

「冬といえばこれですからね。今年は年越しそばを食べて除夜の鐘を聞くまで、ここから出ないつもりです」

「そうかあ……」


 なんだか、らしいといえば非常にらしい。

 律子さんの姿はなく、尊さんの帰りはもう少し遅くなるとのこと。


「母さんなら、勇太の着付けを手伝ってますよ」

「ほう」


 意外と苦戦しているんだろうか。

 待ちきれずやってきてしまったが、まだ勇太が迎えに来る時間ではない。


「じゃあ、俺も」

「どうぞどうぞ」


 コタツにちょっと入らせてもらうと、心葉がみかんを勧めてきた。

 ありがたく頂戴して、甘味の強い小さなみかんを堪能する。


「大晦日ですな」

「全くですね」


 別に面白いわけでもない特番を見つつ、まったりと過ごす。

 少しずつ眠気がやって来た頃、いよいよ待ち人がやってきた。


「心葉ー! 心葉ー! どうかなー!」


 ばたばた走る音がする。


「勇太、振り袖で走ったらだめよ!」


 律子さんの声の直後に、衾がドンと開いて、彼女が姿を現した。

 ピンクの地に、色とりどりの花模様が散らされた、目にも鮮やかな華振である。髪はまとめて、この間プレゼントしたバレッタを櫛のように使って留めている。

 どうやら、バレッタに合わせて着物の柄をチョイスしたようだ。

 顔には化粧が施され、夏に見た巫女姿の勇太を思い出す。

 確実に言えるのは、もっと、彼女は女らしく変わっていた。

 紅を引かれて強調された唇が、驚きの形を作る。


「い、郁己!? なんで来たんだよー! 不意打ちしようと思ってたのにー!」

「お、お、おう、凄く綺麗だぞ、似合ってる」


 こちらも呆然として、その華やかさを凝縮させたサムシングと化した幼馴染に、なんとかそれだけ告げる。

 すると、勇太はむき出しになった首筋まで赤くなって、


「もう……ばか郁己! ………ありがと」


 とか言うので、もう駆け寄って全力で抱きしめたくなる。

 なるのだが、そうすると着物の形とか崩れてしまいそうなので自重する。


「うちにも、私が使っていた振り袖があったのにねえ」

「母さんのはなんか、格調高すぎるの! 俺が見てもこれよりも、一桁くらい高いでしょ!?」

「いいじゃない、似合うのに」

「俺にはまだ早いよ! 着物に着られちゃう!」


 二人はわいわいきゃあきゃあ騒ぎながら、出立の準備をする。

 白いショールに、髪には同じ色の花飾り、レンタルしてきた草履まで履いて、さあ出発である。

 横に並ぶと、彼女の背丈がまたちょっとだけ伸びたのが分かる。

 見下ろしていると、ん?って感じで見上げてきた。

 近くで見るとまた、ドキッとする。

 これはやばい。


「い、いこう」

「うんっ」


 ごく自然な仕草で、勇太が郁己の腕を取った。

 二人並んで、夜の道を行く。

 電車に乗り込んだ時、先にいた乗客たちが目を丸くして勇太を見ていたのが印象的であった。

 いつもは元気な女子高生が、すっかり和服の美女である。

 着物効果なのか、勇太もいつもより大人しい気がした。


「なんか……俺、和装の方が落ち着く気がする……」

「そりゃ普段、道着でいることも長いしなあ」

「だよねえ。高校出たら、ずっと和服で過ごそうかなあ」

「それもいいなあ。俺も和服姿の勇太は嫌いじゃない」


 っていうか好きだ。大好きだ。


「ふふふっ」


 勇太はいつもの癖で、こてんと頭を郁己の方に預けそうになり、慌てて踏みとどまった。

 今は髪もセットしているのだ。

 こういうところ、律子さんの腕は良い。なんでも美容院をやってる友達の技を、見よう見まねで覚えたらしい。

 カットはできないらしいが。


 何駅か行くと、上田と楓が乗り込んできた。

 電車の車両を指定していたから、ここが途中の集合場所でもあるのだ。


「いよー! うおおお、金城さんもすげえ綺麗!」

「勇ちゃん、似合ってる、よ。素敵」

「ううん、楓ちゃん可愛い! メガネは外したんだね!」

「うふ、この日の、ために、コンタクト、練習した、の」

「お、おう。上田、お前ち○こもげろよ」

「なんだと坂下! もげるのはてめえだ!」


 思わず友人に呪詛を吐いてしまうほど、楓はコケティッシュで、けしからん可愛らしさだった。

 水色の地に、淡赤や金色を纏った花柄が散らされている。髪の毛は美容院で結い上げてきたそうで、きっちりまとまり、青の花を髪に差していた。

 メガネを外してぱっちりとした楓の目が、思いの外大きいことに気付く。


「たまにね、メガネ、探して、顔を撫でちゃう。ちょっと目がしょぼしょぼする、けど、終わりまで、は、大丈夫かな」


 一応メガネは持ってきていて、初詣が終わったらメガネに戻すそうだ。

 上田は終始、でれでれと締りのない顔をしっぱなしである。


 他愛もない会話に花を咲かせつつ、やがて電車は目的の駅に到着する。

 駅前では、仲間たちが待っていた。

 ひときわ目立つのは、紫地の振り袖の夏芽であろう。

 あの上背でシュッとかっこよく着物を着こなし、なんだか外人さんが振り袖を身につけたようなそんなイメージすらある。

 小鞠の振り袖は真っ赤で可愛らしく。髪も何やらごてごてデコっている。いかにも自慢気に胸を反り返らせているが、今日ばかりはその癖はやめたほうがいいと思う。

 利理の振り袖は黄色地。目にも鮮やかな明るさで、花柄は白。イメージらしくもなく、明るく健全な佇まいだが、彼女が実は耳年増で恋愛経験がほとんど無いことは実証されている。

 晴乃は白地の振り袖姿。一見するとシックだが、黒と金と白の花が散らされて、帯も金色だからよくよく見るとゴージャス。彼女は楓がコンタクトをしてるのを見て、一瞬目を見開いたが、すぐに俯いてしまった。晴乃はいつものメガネのままである。

 すると、横に境山が唐突に出現して、晴乃に何か囁いた。

 着物が白いから、晴乃の顔が赤くなるとすぐ分かる。

 晴乃が境山をぽかぽか叩きだした。境山が嬉しそうに笑っている。


 それをみて、何故か勇太がニンマリしていた。

 男衆は後一人。和泉を待つばかりである。

 御堂は少し遅れてやってきて、明らかに時代を間違えた革ジャンに皮の手袋姿。

 女子たちの艶姿に、一瞬立ち止まり、キョロキョロ周囲を見回し、女子たちを二度見し、バタバタと走りより、


「ヒェッ」


 近くで見て悲鳴をあげた。

 その直後に夏芽にアイアンクローをかけられて悲鳴を上げた。


「よう、諸君! 待たせたな」


 やってきた和泉、こいつはなんと……黒の紋付袴姿だった。

 郁己は、しまった、と地団駄を踏む。

 俺も着てくれば良かった……!!

 想像以上に女子達が、勇太が綺麗だったのだ。似合いすぎるのが悪いのだ。

 来年こそは、とリベンジを誓う。

 そんな集まりで、さて、これから初詣なのである。

 除夜の鐘が鳴る時間は、刻一刻と近づいていた。

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