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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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カラオケ大会……? 波乱の王様ゲーム

 和泉が持ちだしたのはまさに悪魔の道具であった。


「王様ゲーム……!?」


 首を傾げる女子達に、和泉はにこやかに笑う。


「勿論、引いちゃうようなきつい命令は拒否してもいい。それくらいの軽い感じで行こう」

「まあ、余興だしな」


 郁己もそれならば、と賛成する。

 これくらいの悪乗りなら、まあいいのではないだろうか。

 この辺りの時間で、そろそろ夕刻だ。


「グフッ、悪いけど、ボクはこの辺で……」

「おっ、伊調お疲れー」

「伊調くんまたねー」

「おっ、もうこんな時間ー。私もぉ、次の約束があるのぉ」

「利理おつかれー」


 二人所用で帰宅していった。

 残された十人が、ゲームに挑む参加者となる。

 ルールに関するレクチャーを和泉に受けた後、


「王様だーれだ!」


 みんなで一斉にくじを引いた。


「俺か……」


 御堂がにやりと笑った。

 そして、周囲を睥睨して考える。

 女子が多い。自分が王様である以上、2分の1以上の確率で女子が当たるだろうと。

 ならば、賭けてみる価値が有るのではないか。


「4番が……いや、6番が王様にキスをする……!!」


 その場に衝撃が走った。

 そうか、そういう命令ありなのか。

 そして、6番がもし女性だった場合……!


「ろ、6番だーれだ」

「俺だな」


 涼やかな声をあげて、和泉が立ち上がった。


「アッーーーー」


 御堂はファーストキスを奪われた。

 御堂脱落である。

 真っ白になって痙攣している。


「和泉お前、今躊躇なく行ったな」

「このゲームを発案した責任者だからな。俺がやらねば誰がやるのだ」


 郁己は心から、この男を恐ろしいと思った。

 何だか、勇太が赤くなってブルブルしている。いや、女子達全員、さっきのキスで何やら意識しているようだ。

 反面、男たちは郁己、上田、境山の三人が青ざめている。


 ゲーム再開である。


「王様だーれだ!」


 今度は、小鞠が王様をゲットした。

 彼女はフフンと笑うと、


「それじゃあ、7番が1番にデコピンしなさい!」


 フンッと反り返るように胸を張って言い放った。


「7番と1番だーれだ」

「な、7番よ」

「ひえっ……い、1番、です」


 夏芽はギョッとして、立ち上がった楓を見た。

 楓がおでこを出して、ギューっと目を閉じてプルプル震える。

 夏芽、ゴクリと唾を飲んで、果たしてやっていいのか悪いのか、葛藤する。

 小鞠も、やべえっていう感じの顔をした。

 和泉はどうしてそんなに満足気な顔をしているんだ。


「坂下。人の内面に潜む闇や秘めた思いが明らかになる。良いゲームだと思わないか」


 このゲームで闇が深まるんじゃないのか?

 そこへ、楓を庇って上田が飛び出してきた。


「王様ーっ!! 直訴でござる、直訴でござる!! デコピンなら、この俺が!!」

「うっ、上田、くん……!!」


 驚きのあと、感激がこみ上げてきたらしく、楓が目に涙を溜めて口元を抑える。


「君は、俺は守る……!」

「許可するわ」

「ほいっ!」

「げばぁっ」


 夏芽の容赦無いデコピンが上田の意識を刈り取った。

 上田と、彼を看病する楓がリタイアである。


「わ、私知らなかったんだけど、こんなにハードなゲームだったの……?」

「うう、なんか怖いよう」


 晴乃と勇太が怯えている。

 その後、ゲームの順番が回り、炭酸飲料を一気とか、腕立て伏せ十回とか、そういう感じで王様の命令は下されて行った。

 みんな報復を恐れ、あまり強烈な命令を下さないのである。

 業を煮やしたのは和泉である。


「そんなんじゃ駄目だ! よしっ、今度は俺が王様だぞ! 盛り上がる王様ゲームっていうのを見せてやる……!! 2番と7番がポッキーゲームだ!」

「に、2番……」


 郁己が立ち上がり、


「7……和泉、あんた正気……?」


 真っ赤になって挙動不審になった小鞠が立ち上がる。

 ザワッとする室内。

 和泉は動じない風に、フッと笑った。


「早くやりたまえ」


 二人の唇の間に、一本のポッキーが渡される。


「あわわわわ」


 勇太は目を塞いで、こんなの見てられないーと顔を伏せるが、指の間からバッチリ見てしまっている。

 郁己と小鞠が、息がかかるくらいの距離で見つめ合っている。

 互いに心臓の鼓動が高鳴る。

 女子たちも、固唾を呑んで見守っている。


「始め!」


 罰ゲームが始まってしまった。

 ポッキーが落ちないように固定するには、相手の肩や腕を掴んでいなければならない。

 自然と、甘めのハグみたいになっていて、ポッキーを食べ進むたびに、その距離は詰まっていく。


「ひええええ」

「おおお」


 リタイアした上田と楓も、目を離すことが出来ない。

 小鞠の息が、不規則に荒れる。

 緊張とかそういうのを通り越して、不整脈を起こしたようだ。

 ポッキーの長さがあと数センチというところになって、小鞠が膝をおってぶっ倒れた。

 白目を剥いて、ぶつぶつ言っている。


「小鞠ちゃんもこれでリタイアだね……」


 勇太はどこかホッとしながら呟いた。

 だが、彼女が抱いたのは危機感である。

 このゲーム、いともたやすく、えげつない行為が行われてしまう。

 だから、運を天に任せるとはいえども、上田のような崇高な行為は必要なのだ。

 今度は介入しよう、と勇太は心に誓う。

 そんな天の意思があったのか、王様晴乃が選別したのは、なんと3番の郁己と4番の勇太。


「命令は、ええと、うんと、じゃあ、ほっぺとかに軽くキスなさいな」

「キス!」

「キスだと……!」


 その言語にだけ、二人は激しく反応した。

 人前でやれというのか!

 だがしかし、王様の命令は絶対……!!


「よ、よし、行くぞ! 覚悟しろよ郁己……!!」

「お、おう」


 勇太の目が据わっている。

 彼女はグッと距離を詰めてくると、郁己の身体を強く抱きしめ、背を伸ばす。


 周囲が、え?

 という顔をしたところで、郁己が彼女の方を向いた。


 勇太の唇が、郁己の唇に強く押し付けられる。


「……………!!」


 場の空気が固まった。


「あの、その、ほっぺたでいいんだけど……」


 王様の命令も効力を持たない。

 郁己が抱き返して強烈にキスを返したから、大変なことになった。

 勇太の足がへなっと力を失う。

 すると、まるで押し倒して強烈にキスをするような姿勢になってしまった。

 無限のような時間が流れる。

 実際にすれば、ほんの三分程度なのだが、三分間キスし続けるというのはかなり長い。


 郁己が唇を離すと、二人の間に透明な橋がかかった。

 勇太はボウッとした顔で郁己を見上げている。息が荒い。

 郁己も肩で息をしながらへたり込んだ。


「長すぎだろう」


 和泉が冷静に突っ込んだ。

 終業式の余興はこれで終了となったのである。


「あれか、坂下、見せつけてやろうぜっていう感じでやっただろ、今の」

「馬鹿な! 俺たちはあれがファーストキスだぞ!? 唇にやるやつはだけど」

「ファーストキスで、あんな……!」

「ほっぺにキスはしてたのか……!?」

「うっ、俺のファーストキスは和泉なのに」


 夏芽が衝撃を受け、上田はほっぺにキスで楓をちらっと見て、目が合ってしまって強烈に意識しあってしまったり、御堂がトラウマに泣き崩れたりする。


「し、舌とかは」


 なんとか回復した小鞠が尋ねると、勇太は心ここにあらずと言った様子で、


「ポッキーの味がした……」

「ひえっ」


 自分なら失神していると小鞠は恐れおののく。

 恐らく、自分と郁己のポッキーゲームを見て決意したのだろうと小鞠は理解した。

 これは彼女が、彼を掴まえて離さないという宣言ではないだろうか。


「全く、勝てないわね。完敗だわ……!」


 少なくとも自分には、人前であそこまでディープに、しかもファーストキスをする自信などない。

 いや、勇太たちも決意を固めてはいたが、明らかになりゆきによる事故っていう雰囲気だったが。


 ともかく、そういうことで、会は解散である。


「それじゃあみんな、良いお年を!」

「大晦日、初詣で集まってもいいかもね」

「いいねえ、振り袖着る?」

「勿論でしょ!」

「勇、ちゃん、私、がんばる、ね」

「あの、ここまで頑張らなくていいよう。うう、まだ唇がじんじんする」

「坂下、俺がんばるわ」

「上田、がんばれよ」

「………」

「ち、違うわよ、境山くん人聞きが悪いわね!? 私にそんな意図ないってば!」

「あああ、うううー」


 バラバラと散っていく。

 女子達はあの後、初詣の約束をしたらしい。

 恐らくすぐにでも、男子達にお誘いがかかることだろう。


 駅に向かう道すがら、郁己は隣をぽてぽて歩く恋人との距離感を強く意識する。

 さっきのあれは強烈だった。

 すっかり暗くなった道を二人で行くが、時折冷たい風が吹いてきて、寒がりの勇太は無意識にこちらへくっついてくる。


「うーむ」


 思い出すと、こう、身体の一部分が固くなるような。


「ひえっ」


 身体を前に乗り出してくっついてきていた、彼女のお尻に当たったらしい。

 勇太は睨んでくる。

 寒さのせいだけではなく顔が赤い気がする。


「あっ、あれはたまたまだからねっ! 今度からはあんな簡単にはやらないんだからなっ!」

「お、おう」


 ちょっと残念だが、そういうものかもしれない。

 思えばこの間の混浴でそういう事になりそうだった気もする。

 結局、二人は帰宅するまでの時間を、お互い強く意識しあいながら過ごすことになった。

 さて、この先どうなるのか。

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