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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
84/107

カラオケ大会、採点は果たして!

 悠然と上田はリクエストを入れた。

 誰もが知らない歌……。

 だが、上田はドヤ顔であった。楓だけがクスクス笑っている。


 マイクを持って、構える姿勢は直立不動。

 まるで軍歌でも歌うのか!? という様子で……流れだした音楽に誰もが耳を疑った。

 これは……良く聞いたことがあるCMソングだ……!


「これは……下手ではない、下手ではないが……」

「ええ、微妙……! 微妙な感じね……!」


 場の空気を上田が支配する。

 決して上手くはないのだが、こう……。

 人を盛り上げる才能があるのだろう。

 一同がヒートアップし始めた。

 なんかわけが分からず盛り上がり、点数で『79点』が出てまた盛り上がった。


 次で和泉が流行りのラブソングを歌ってあの凄い歌声を披露して別の意味で盛り上がり、『55点』を叩き出す。


「ひどい! 和泉くんひどすぎる!」


 勇太が歯に衣着せぬ物言いで、爆笑しながら転げまわる。

 和泉は髪をかきあげながら、涼やかに微笑んで席に戻った。

 自分の音痴すらネタにする。

 その心意気や天晴だ。

 続いて、御堂が行く。

 彼は少し前のサッカーワールドカップの主題歌。

 108人位いるダンスユニットの歌で、これはなかなかメジャーな曲。

 最近街中で音楽を聴くことが無くなったとはいえ、テレビをつけていれば流れてくる。

 知っている歌ともなれば、誰だってちょっと楽しいものだ。

 手拍子、足拍子、肩を揺すって楽しむ。

 点数は『77点』


「それなりか……! じゃあ、次は境山……」


 境山は頷くと、スッと晴乃にもう一本のマイクを手渡した。


「え、境山くん、本当にやるの?」


 決然として境山は頷く。

 流れだす曲はなんと、昭和のデュエット曲である……!


「境山くん、大胆……!」

「ひゅー、境山やるぅ」

「むむむ、シチュエーションで攻めるのねっ」

「え、あの二人そんな関係だったの?」


 勇太、利理、小鞠、夏芽がそれぞれに反応を返す。

 普段はだんまりな境山だが、別に喋るのが苦手なわけではない。

 喋る前に頭を働かせてものを考えるために、結局口を開く前に状況が終わってしまっているのだ。

 そのため、彼は無口キャラとして浸透している。

 彼としてもその方が楽なので、最近では風評を利用させてもらっている面も多い。


 だけど、今日くらいは影キャラをやめさせてもらう。

 この場のテンションにしたがって、前々から晴乃にお願いしていた歌をうたうのだ。

 幸い、晴乃には歌へのこだわりは無い。

 古い歌だって、お願いすれば検索し、練習して覚えてくれるくらいの勤勉さはある。

 それが故のデュエットである。


「やるな、境山……!」

「スケートを切っ掛けにしていたんだなあ」


 和泉と郁己が感心する。

 御堂はギギギ、という感じ。くやしいのう。

 歌は普通くらいだが、そもそも晴乃はカラオケ自体がほとんど経験が無い。

 二人で歌をハモるというのが楽しいらしくて、段々と乗ってくる。

 結構な盛り上がりになって、一曲終了。点数は『88点』となかなか。


「境山くん、やるじゃない」

「……和田部さんも……素敵だった」

「素敵なんて、そんな」


 なんかちょっといい感じになっている。

 さて、ここで夏芽の出陣である。


「別に得意ってわけでも無いんだけどねえ」


 なんて言いながら、洋楽のメタルである。

 流暢な英語が彼女の唇から飛び出す。

 激しいシャウト、そしてデスヴォイス!

 カラオケルームは一挙にインフェルノと化した。

 みんな呆然、勇太だけノリノリ。

 彼女は洋楽大好きな子だったらしい。そんな素振りなど、少しも見せてはいなかったのに。

 点数は『90点』。かなりの高得点だ。


「いやあ、別に内容正確にわかって歌ってるわけじゃないんだけどね。英語って普段使わないから、聞いてても音みたいに聞こえて、試合前の精神集中に使ってるのよ」


 とのことだ。

 次なるは郁己。

 前期に放映されたアニメーションの主題歌を朗々と歌い上げる。

 正直、実に郁己らしい選曲に誰もが納得する。

 それに、最近のアニメの曲ってなかなかバカにできない。

 男性ボーカルの歌は少ないけれど、合うものを歌えればきちんとしたポップスに聞こえるのだ。

 点数は安定して『90点』。かなり歌い込んでいるようだ。


「卒なく終わらせやがったな……」

「俺は和泉や上田みたいにネタに徹しきれないからな」

「えっ、俺真面目にやったんだけど!?」


 いよいよカラオケ大会の一巡も終わりに近い。

 楓がマイクを受け取ると、流れるのは懐かしのフォークソング。

 彼女の唇が紡ぐ歌声は、耳を撫でるそよ風のよう。

 美声であった。

 歌にもなれば、彼女が言葉をつっかえることもない。

 きっちりと音程が取れた歌声は、流れる音楽にあつらえたようにマッチする。

 人が歌う時に生まれる、ゆらぎみたいなものも全く無い。

 キッチリと必要な所で必要な分だけ歌声が乗り、誰もが息を呑む中、歌唱が終わった。

 点数は……『100点』。


「おおおお………」

「おお……」


 カラオケ的に完璧な歌い方なのである。

 普通の歌唱と考えると少し味気ないくらいなのだが、カラオケで点数を取ろうと思えばこの歌い方こそがジャスティス。

 それと知らず、楓は自然とこれを行っていたことになる。


「やったね、水森さん!」

「楓ちゃんやるう!」


 みんなから拍手喝采を受け、とても照れる楓。

 セミファイナルを務めるのは小鞠。

 選曲は懐かしき、90年代バブル時代末期の名曲だ。

 ダンスサウンドに乗って、歌詞よりも言葉のリズムが大切とされた頃。

 体の奥底からビートを呼び起こす響きが、みんなを熱くする。

 小鞠の可愛らしい歌声は、曲とちょっとミスマッチだが、これはこれでいいのかもしれない。

 汗だくになって、飛び跳ねて、彼女が叩きだした点数は『92点』。

 今のところ第三位である。


「小鞠ちゃん、お疲れ様!」

「ふう……こんなもんかしらね。それじゃあ勇、あなたの出番よ。あたしに凄いとこ見せてみなさい!」

「もちろん!」


 すっかり良きライバル感覚の二人。

 拳をこつんと突き合わせて、勇太は壇上へ向かう。

 流れるのは、数年前に流行った、誰もが知るアニメ映画の主題歌。

 家族で見る作品だったから、この歌を知る人もとても多いだろう。

 朗々とのびやかな歌声が誰もを魅了したが、本編とEDで歌う人間が違ったことが物議を醸しだした。


 勇太の唇が、深く悲しい叙情を秘めた歌声を紡ぎだす。

 かすれながら漏れた声が、曲調の変化にあわせてアップテンポにリズムを刻む。

 徐々に盛り上がり、盛り上がり、そしてサビの部分。

 伸びやかに歌声が広がっていく。

 高音も綺麗に、出しきって、繰り返しのサビも、まるで自分の持ち歌のように歌い切る。

 これは、かなり練習している……!


 叩きだした点数、『98点』。

 惜しくも楓には及ばなかったが、誰もがざわめき、どよめいた。

 実力は本日歌ったメンバーの中でトップであろう。

 認めたくは無いが、僅差で伊調である。


「くっ、悔しいけど……あんたの勝ちね、勇……!」


 小鞠は最後には笑みを浮かべて、戻ってきた勇太の肩を小突いた。

 さて、カラオケ大会も一段落、あとはめいめい好きな歌を入れて歌い出す。

 和泉が、大会の商品だと言って、楓と勇太、伊調にお菓子を差し出してきた。

 輸入物のお菓子である。


「わっ、ちょっと嬉しい!」

「グフッ、金城さんの次ならボクも報われるというものですよ」

「良かった、ね、ふたりとも」


 背後では、郁己と御堂と上田が、下手くそなラップを歌って女子たちを爆笑させている。

 咬み合わないラップはまるで不協和音である。行き過ぎると笑えてくるものだ。

 そもそも彼ら、多分この曲をうろ覚えである。


「やー、楽しいねえ。和泉くんは企画してくれてありがとう!」

「なんのなんの。金城さん、楽しいのはこれからだよ」


 和泉は不敵な笑みを浮かべると、カバンから新たなセットを取り出した。

 それは、番号が振られた十二本の割り箸で、不透明な缶ケースもセットである。


「さあ、後半戦、王様ゲーム行ってみようか」

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