終業式、後カラオケ大会!
やはり終業式、校長の話が長い。
彼は最近、トレッキングを始めたらしく、終業式後に早々、ハワイへ行ってトレッキングしながら年を越すとかそういうどうにも共感できぬ、どうでもいい話題で一人盛り上がる。
山もなく意味もなくオチもない30分のひとりがたりを、奮然と壇上に上がっていった教頭が力づくで止め、今年も無事に終業式は終了の運びとなる。
「いやー、今回も校長ひどかったねー」
勇太の発した言葉がクラスメイト全員の意思を代弁している。
校長に選定される条件とは何なのだろうか。話の長さで選別しているんだろうか。
ともあれ。
成績表が配られ、いつもの面子は概ね成績アップ。
相対評価じゃなくて絶対評価だから、頑張れば頑張った分だけ評価される。フェアである。
女子達はテンションも高く快哉をあげる。
担任教諭は、基本的にはまっすぐ家に帰ること。
ただし、城聖学園の学生である矜持をキチンと守り通せるならば、ある程度の自由を許す旨を告げて颯爽と教壇を去っていった。
「よーし、行くぞ野郎ども!!」
郁己が声を発すると、
「おーっ!!」
十一人が応えた。
クラスの仲間達が、やたら元気な彼らのグループを見送る。
「いっつも元気だよね、あの人たち……」
「ちょっとやり過ぎってくらいに学園生活をエンジョイしてるよね?」
女子達が羽織る可愛らしいスクールコートは色とりどり。
亜香里野と共通で扱っている専用のものは、ベージュとグレーと藍色の好きな色合いを選べる。
布地を選定してからデザインに仕立てなおしていくから、それなりにいいお値段がするものの、彼女たちの成長に合わせて仕立て直すことだってできるから、結果的には安上がりになるのかもしれない。
男子達は既成のコートである。
「なんかよ、男の制服だけ投げやりじゃね?」
御堂が言う。
「そりゃ、城聖学園って偏差値的には中の上くらいだからなあ。テスト結果はある程度で、他は面接がかなりの比重だって聞いてるぞ」
「女子達は制服が可愛いって言うんで、競争率は凄いみたいだけどね。でもお陰で、引くようなキャラの子っていないだろ?」
城聖学園に通う女の子たちのレベルは高い。
ある程度の成績があれば、あとは面接と内申書で人となりをきちんと精査されて選ばれる。
成績は入学さえしてしまえば、あとからどんどん上げることが出来る。
逆に、人間性は変えられないわけだから、ここをチェックすることに重点を置く城聖学園は、ある意味では非常に信頼できる教育機関なのかもしれない。
面接は、男子は一日、女子はなんと四日間に分けて行われ、一人の生徒に十分以上の時間をかけるらしい。
それだけの時間、自分よりも人間経験豊富な面接官と相対して演技できる中学生などいない。
というわけで、城聖学園高等学校の本校を卒業したというだけで、女子にとってはちょっとしたステータスなのである。
そうこうしてる間に……。
「到着! ここがカラオケボックスだ!」
和泉が声を張り上げた。
駅前である。
「わーっ!!」
一斉に拍手する十一人。
とても目立つ。
でも、いつもは引っ込み思案な楓や、真面目ちゃんな晴乃だって、終業式終了直後のテンションに巻き込まれて一緒に騒いでしまうのだ。
「あのー、十二人で予約していた和泉ですけど」
受付カウンターで案内され、カラオケボックスの最上階、パーティルームへご案内。
ワンドリンク制だけど、今日は特別。
親からはこの日のためにお小遣いをもらっているし、ちょっとしたパーティーなのだ。
たっぷりと、ポテチやポッキー、マシュマロやチョコボールなんかが用意され、みんな注文した思い思いのジュースを手に。
「じゃあ、坂下、音頭を頼む」
「え、俺か!? 企画は和泉じゃないか」
「このメンバーを繋いでるのはお前だろ。逆にお前以外、誰がやるっていうんだよ」
「郁己!」
勇太が手を振る。
「かっこよく頼むぜ!」
郁己の頬がちょっとにやけた。
「おう!」
辺りから冷やかすような声が聞こえる。
郁己は気を取り直して、シュワシュワ泡を弾けさせるメロンソーダを掲げる。
「みんな、二学期お疲れ様! 色々あったけど、まあなんとか乗り切った! 来年も、みんなで乗り切ろう! そういうことで……」
長い御託などいらないのだ。
今はみんなで盛り上がる、それこそが大事。
「乾杯!!」
グラスとグラスが打ち合わされて、あちこちで小さな音が鳴る。
利理が早速、入力端末をゲットして、曲を入れている。
「うおお、竹松さん反応はええ」
御堂が驚愕する目の前で、入力されたのは昨今の流行り。
ご機嫌なアップテンポのユーロビート……風和製ポップスだ。
「いっくよぉー!!」
いつもの気怠げな様子などウソのように、超ハイテンションで利理が叫ぶ。
「イエーーー!!」
勇太と小鞠と夏芽と和泉と上田と御堂が叫び返し、めいめいにマラカスとかカスタネットとかタンバリンを手にする。
備え付けられていたらしい。
「す、すごい」
「水森さん、マイペースで行きましょ。あ、ポテチおいしい」
楓と晴乃はそういうノリでは無いが、曲に合わせて身体を揺すったりしているから、楽しんではいるようだ。
「あれ、この曲……この春やってたアニメの挿入歌だよな……」
「グフッ、流石は坂下くんです。竹松さんのチョイスもマニアックですな」
郁己と伊調が二人でボソボソと会話する。
境山は無言で、みんなの分のお菓子を平等に取り分けている。
ノリノリで利理が歌いきり、演奏も終了。
わーっとみんなから拍手が上がる。
凄く上手いという訳ではないが、カラオケで歌い慣れていて、盛り上げ方が分かってる歌い方だ。
すると、その直後に画面がダララララララっというドラムロールとともに回転した。
「!?」
注目する一同。
『84点』
ダンッと点数が出た。
なんと、採点システムが起動しているではないか。
一同は戦慄した。これは変な意味でプレッシャーがかかる……!!
「あー、悪くないけどイマイチだったねぇ」
利理が笑いながら席に戻ってきた。
そして、境山がサーブしたお菓子皿を受け取り、
「おっ、境山くん気が利くじゃん。あんがとねぇ」
さて次なる曲は……、
「グフフッ、ボクだね……!」
戦慄を振りまきながら、伊調守が立ち上がる。
選曲は70年代アニソン。
勇太と楓を除く女子勢ドン引きである。
郁己を除く誰もが聞き覚えの無いメロディライン。
映る映像は、なんと放映当時の特撮画面である。
そう、アニソンではない。特撮番組の主題歌だったのだ。
「………これは……!?」
「うそ……、超上手い……!」
小鞠と利理が戦慄する。
「えっ、美声……!?」
「意外すぎる……!!」
「?」
夏芽が呆然とし、その完璧な歌い方に晴乃が驚愕。楓はそもそも状況がわかってないので、ひとりで頭にはてなマークを浮かべて、歌に合わせて手を叩いている。
ルームに響き渡るバリトンボイス。そして叩きだした点数、『97点』である。
一瞬会場が沈黙に包まれる。
伊調は悠然と席に戻り、コーラを口にした後、にやりと笑ってみせた。
「うおおおおお! 伊調、お前すげえよ!」
「やる時はやる奴だったんだな!」
「うーむ……伊調の意外な特技というか……」
「………」
「渋いなあ、あれ超鉄人18だろ?」
一人だけ冷静な郁己のコメントに、分かってるね、という顔で応える伊調であった。
「よーし、それじゃあどんどん行ってみようか」
郁己が冷静に場を仕切る。
この混沌とした状況を打開するのは……やはりこの男しかおるまい。
マイクは……上田悠介に渡った。




