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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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フィギュア選手じゃありません! スケート場で昼食を

「ちちち、違います! 俺、じゃなく、私達は普通の女子高生ですー!」


 何が普通の女子高生か。

 人の輪に揉まれていた楓と上田を助けた出した所、勇太達のとんでもない大立ち回りが明らかになったわけである。

 あんな物凄いアクションをする女子高生がどこにいるというのだ。

 だがまあ、熱狂も長くは続かないだろう。

 一応助け舟は出すが、和泉の時ほど影響は無いと、郁己は考えた。


「お待たせー! 勇、岩田さん待った?」

「郁己ー!」


 郁己を見つけた勇太が、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。

 そして、てててててっと走ってきてジャンプ、抱きついてくる。


(やばいよ、俺たちやり過ぎた! 度を超えるとダメだね……!)

(本気だすなよ!)

(いや、俺たちっていうか、境山くんが俺たちよりも全然凄くて)

(マジか……)


 とりあえず、魅せつけるようにラブラブ演技をしてやる。


「ハハハ、待たせてしまったみたいだねハニー」

「ううん、全然待ってないワ、ダーリン」


 そんなことをやってると、ギャラリーの男たちが、「ギギギ、バカップルか」

 って顔をして離れていった。

 彼らと一緒に来ていた女性たちも戻っていく。

 和泉を追っていた少女たちは、目当ての男性が消えていることに気づき、散り散りになっていく。

 自然と人波は消えた。

 後に残ったのは、小学生とかそれよりもっと前くらいの少年少女たちだ。


「お姉ちゃんたちすごかった……! 私もああいうことできるようになるかな?」

「ああ。毎日ちゃんと身体を鍛えて、よく食べ、良く寝て、よく運動すれば誰でも私のようになれるわよ」


 夏芽が確約している。

 君のようになるには圧倒的に才能が必要なのではないか。

 郁己も和泉もそう突っ込みたかったが、いたいけな少女の夢を壊すこともあるまい。


「ほんと!? じゃあ私、頑張って体を鍛える!」


 小学校低学年くらいの子が夢に燃えた瞳をしながら、奥で待っている親御さんたちの元へ駆けて行った。


「またね、お姉ちゃんたちー!」



「境山くん、その……私も貴方みたいにかっこよく滑れるようになるかしら」

「………………今年は無理だ」

「何よばかー!! 夢くらい持たせてくれたっていいじゃない! 境山くんのばかー! ウスバカゲロウ!」


 境山が副委員長の淡い夢を粉々に砕いたらしい。

 女心がわからんやつめ。


「そこは郁己も人のこと言えないと思うな」

「うっ」

「あはは、勇も言うようになったわね。坂下は確かに分かってないわよね」

「ぐさぐさっ」

「大丈夫さ、坂下。経験を重ねれば分かるようになる。そして手玉に取れるようになる」

「和泉は……女の敵だよね、正直いって」



 そんな大騒ぎの午前中が終わり、さて昼食だ。

 食堂はそれほど大きくはないから、混んでいる。

 ここはリンクの外側のベンチで、カップラーメンでも食べようと言うことになった。


 勇太と郁己が定番のカレーヌードル。

 和泉と境山がシーフードヌードルで、夏芽はきつねうどん。

 上田と楓は醤油ラーメンで、晴乃は謎のカップラーメン、トマトナポリタン。


「いただきまぁす」


 それぞれめいめいに食べ始める。

 リンクの氷を保つために、ひんやりした空気をたたえたスケート場。

 この場で食べる熱々のカップラーメンは格別だ。


「午後こそは中級者コースで滑ってやるわ……!」


 力強く宣言する晴乃。

 初級者コースを普通に滑れるくらいの腕にはなってきているらしい。

 対する楓は、上田と手をつなぎながらなら、なんとか初級者コースを滑れるくらい。


「上田、くんがいや、じゃ、なければ、私は、外側を、ぐるっとまわり、たい、な」

「うん、じゃあエスコートするよ」


 そんな風に喋って微笑み合っている。

 こちらのカップルも、きちんと関係を進めていっているのだ。


「時に上田」


 和泉が囁いた。


「キスはしたのか」

「ぶはっ!? し、してねえよ……まだ」


 まだそこまでの関係では無いらしい。しかし、ズバッと切り込む和泉だが、こういう際どい質問を楓に聞かせないようにする辺り、心遣いができている。


「なん、の、はなし?」

「ななななな、なんでもないよ水森さんっ!!」

「ほんとう、に?」

「ほ、ほほ、ほんと」

「嘘。私、上田、くん、嘘ついてるとき、わかる、よ?」


 おおっ、と郁己と勇太が身を乗り出す。

 楓が積極的である。

 和泉が空気を読んでスススーっとフェードアウトした。

 なんか、楓と上田がいい雰囲気である。

 結局、午後も一緒に滑ろうねっていうことでまとまったようだが。


「うわあ、水森さんって積極的だったのね……。全然そういうイメージなかったんだけど……」

「人も時が経てば変わるものよね。副委員長は今日の目的は違うんでしょ?」

「岩田さん、私の目的って、別に私はリア充の方たちみたいなことが羨ましくってここに来たわけじゃ……」


 羨ましかったらしい。

 ちなみに和田部教諭は、今日は城聖の若手教師仲間と連れ立って、女子大生と合コンらしい。

 きっと兄に対するやっかみもあったのだろう。

 だが、彼女の春はまだまだ遠そうだ。

 少なくとも、近くにいる男の気配に気づく様子がない。

 まあ、その男もクラスで一番気配の無い男なのだが。


 その後、つるつる二人で滑ってる勇太と夏芽に、何やらスカウトらしい男たちがやってきたのだが、


「いえ、私はバレー一筋なんで」

「わわ、私は彼氏一筋なんでえ」


 勇太はよりにもよって非常に恥ずかしい言い訳をして断り、ずーっとその事で、夏芽にからかわれることになる。

 そりゃ勇太は言い逃れ出来るほど、打ち込んでるものは無いもんなー。

 あえて言えば、文芸か、なんて郁己は思う。


 楓と上田は、子どもたちに混じって楽しそうにゆっくり滑っている。

 時々転びそうになる楓を抱きとめたりしてるのは、役得か。いや、楓も嬉しそうだから、お互いにとって役得なのかもしれない。

 今日のスケートで、二人の関係がまた少しだけ進んだようだ。


「……おい坂下」

「お?」


 和泉に肩を叩かれて振り返る。

 そこには、中級者コースギリギリをこわごわ滑る晴乃がいる。

 すぐ脇を、それなりの速度で走っていく人たちがいるから、かなり怖そうだ。

 境山がさりげなく周囲を滑って、彼女のコース周りに人が入ってこないようにキープしているのは分かっているんだろうか。

 あの顔は自分に必死で分かっていないだろう。

 存外、晴乃はダメ子であることが判明し、今後境山は苦労する事が確定している。


「ま、苦労するうちがまた楽しいって言うな」


 郁己が言うと、和泉は、それは理解できないっていう顔をした。


「……そういうものなのか? 俺はあまり煩わしいのはダメだな」

「そうだなあ。 ……なあ和泉、お前あんまり本気になったりしないよな?」

「まあな……。実際、向こうから来られると、醒めるのも早い」


 モテる男の悩みである。


「前にも言ったと思うが、俺の理想のタイプは金城さんなんだよ。あんまり女ってのを前面に出して来られても、そういうものをたくさん見てる分だけ、粗ばかりが見えちまってな」


 和泉にとって、女性とは減点法で見るもの。

 勇太のように規格外だったり、夏芽のように、端から和泉に興味が無いような女性の方が、一緒にいてホッとするらしい。

 女に対して気を使わなくていいからだ。


「勇はやらんぞ」

「バカヤロウ、親友の彼女を横取りして、お前を失くしたらそれこそ俺の人生最大の損失だよ!」


 男同士の友情はもっと大事。

 場合によっては、これは一生続くものだ。それが和泉のスタンスだった。


「ま、そんなわけで……俺は目当ての子ができたら、自分からガツガツ行くが……そん時は協力を頼むぜ、親友」

「おうよ」


 スケートの時間が終わる。

 八人は心地よい疲労とともに、帰途につくのである。 

 郁己は帰り際、


「頑張れよ、境山。何でも協力するからな」

「…………ありがとう」


 無口な男ははにかんだ笑みを見せた。

 和泉とは余計に交わす言葉も必要ない。

 夏芽は明日からまた練習漬けの日々で、楓と上田は一緒に帰るらしい。

 晴乃は、


「まだこんな時間だし、バカ兄貴は帰ってないだろうなあ。んもう」


 とか言ってるので、途中のバーガーショップなんかに誘って一緒に夕食ということになった。

 とりあえず、この子、色々フラストレーション溜まってるなーという感じである。


「今日は何気にメガネ率高かったよね。郁己でしょ。楓ちゃんでしょ。晴乃ちゃんでしょ」

「そう言えば確かに」


 なんて話が盛り上がりつつ……。

 波乱の次回に続くのであった。

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