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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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スケート! さて、どこを滑る?

 わいわいとやって参りました、ここはスケート場。


「びっっっっしりと予定を書き込んで来たわ。みんな、時間通りに楽しむわよ」

「おーい、誰だ副委員(こんなの)長連れてきた奴は」


 郁己が言うと、和泉が肩をすくめた。


「綺麗どころは多いほうがいいだろ?」

「人によるだろ!?」

「まあまあ。晴乃ちゃんも楽しく行こうよ、ねっ?」


 勇太と楓と夏芽が、晴乃を引っ張っていく。


「ええっ!? ちょ、ちょっと、金城さん、岩田さん、水森さん!? ああっ、予定表が! 予定表が風に飛ばされていくーーーー!」


 予定はフリーダムということになった。

 女子チーム先行、男子チームは後からまったりである。

 今回、女性陣は示し合わせて、みんなミニスカート姿。ストッキングやハイソックスを履いているから防寒はバッチリ。

 どうやら、アイススケートを見た勇太と夏芽が意気投合し、そういう計画になったらしい。

 晴乃は活動的衣装ということで賛成。露出度も、パンスト履けるならいいか、ということらしい。

 楓は上田くんが喜ぶなら……なんて言うので、お熱いことこの上ない。

 ただ、最近は勇太も爆発させられる側に回ったので、爆発しろ勢はその勢力を減じているのである。


 スケートをそれぞれレンタルする。

 専用のこの靴は、いつ穿いてもきつい。

 万一にも外れないよう、ぎっちりと紐で縛るのだが、刃の部分は重いし、細いからちょっとバランスを間違えると足がグキッとなる。


「ひええ、勇、ちゃん、たすけ、て」


 さっそく楓がまともに歩けず、フラフラになっている。

 この子は多分、ピンヒールとかを使えないタイプだ。


「水森さんっ」


 上田がダッシュして支えに行く。


「じゃあ上田君、楓ちゃんをお願いね」

「楓、上田にスケート教えてもらうといいかもしれないわね。手取り足取り教えてくれるわよ」

「手とり、足取り……!」


 上田に肩を支えてもらいながら、楓が顔を真赤に染める。

 この間、二人で楓の誕生日パーティをしたそうで、仲はますます深まる二人である。


「もう……! みんな勝手に動くんだから!」


 ぷりぷりしながら晴乃がやってきた。


「もう、私も自由に滑ってやる……!」


 ドーンとスケートリンクに踏み出す。

 そして、


「きゃー」


 すてんところんだ。


「ば、馬鹿な。私は幼稚園の頃は滑れていたはず……」

「十年前だなあ」


 郁己がツッコミを入れた。

 それだけブランクが空けば、滑れるものも滑れなくなるだろう。


「………」


 気づくと、境山がフィギュアスケートか!? という動きですいーっと滑っていく。

 存在感が無いから周囲の人々もあまり気づかないが、アレは何気にすごい動きだ。

 ムーン・ウォークしながらリンクを一周してきて、何やら晴乃には自分がスケートを教えるというジェスチャーをしている。


 ……ほう。


「じゃあ和泉さん、ここは若い二人に任せて……」

「うむ、俺達は岩田さんと金城さんと楽しむとするよ」


 男たちは親指を立てて、無言で心を通じ合わせる。

 しかし物好きな男もいたものだ、と、郁己も和泉も内心で思う。


「へえ、外側は初心者用で、内側に行くほど慣れてる人が滑ってるんだねえ」


 きょろきょろと見回す勇太。

 そんな仕草をしながらも、既に足元はしっかり氷をキープ。スーッと綺麗な姿勢でゆっくり滑っている。

 その横で、ペースを合わせてのんびりするのは夏芽である。

 二人共ごく自然体で滑れている。

 やはりスペックが高い。


「郁己、一緒に行く?」

「まずは岩田さんと一緒に回ってきたらどうかな」


 上目遣いになって聞いてくる彼女に提案。

 郁己に気を遣っているのはわかるが、身体はもう、リンクを走りたくてうずうずしているのが丸分かりだ。


「そぉ? ごめんね、じゃ、俺行ってくる! 夏芽ちゃん!」

「オッケー、ぐるっとひと回り行きますか!」


 郁己の許可が出るまで待っていてくれる、物分りのいい親友とともに、勇太は中級者以上向けコースまで滑り出した。


「ほう、着実に絆が深まっていっているな」


 和泉がうむうむ、と頷きながら言う。


「何がだよ?」

「五月に比べて格段の進化だってことさ。親しい友人が幸福になるのは嬉しいからな」

「クサイこと言ってるなよ」


 郁己は苦笑を返し、のんびりと、初心者と中級者の中間くらいのコースを回り始めた。


「とりあえず、軽く長そうぜ和泉」

「ああ。俺もちょっと、スケートは久々すぎて怪しいしな」


 このスケート場でも、和泉の容姿は女性たちから注目を集める。

 まだ十六歳という年齢だから、お姉さま方からはとても可愛い男の子という印象だが、高校せいから小学生くらいまでは、立派に恋愛対象の男性として見えるわけで。


「……なんか、塊がついてくるんだけど」

「あー……。済まんな、坂下。目出し帽とか被ってくるべきだったか」

「それは怪しいって。でもこれはやばいな。何か対策は……。おお、勇ー、ちょっとこっちに来てくれえ」


 中々の速度でくるくるリンクを回っていた勇太を発見。

 早速声をかけて手招きした。


「何ー? って、うひぇぇ、とんでもないことになってるねえ」

「そうなのだ。なんで、ちょっと和泉に変装させたい。時間を稼いでくれ」

「オッケー! 夏芽ちゃん、手を貸して!」

「ほいきた」


 うら若き乙女たちが、和泉を追う塊になったことで、リンクにもそれなりに隙間があく。

 勇太はそこをスイスイ滑り、徐々に速度を上げていく。

 ああ、これは、あれだ。フィギュアスケートの……。


 跳躍。

 くるくるっと空中で二回転する。


 スケート場に上がるどよめき。

 恋する少女たちの目が一瞬、勇太に向く。

 着地前に、勇太を夏芽がキャッチして、かっこ良くホールドしながらスイーッと滑る。

 フィギュアのペアだこれ。

 なんてみんなが思って、我知らず拍手を始めてしまう。

 勇太は夏芽からぽーんと飛び出し、バックワード(後方へ滑る)にて夏芽に先行する。

 二人が少しずつ、その場で回転を始めて、くるくるくるくるくるくるくるくる……。

 会場が目を離せなくなったところで、いつの間にか中央にいた男が、回転しながら前に滑りだして、跳躍。


 アーッ! トリプルアクセル!


 見事な着地である。

 びしっと三人でポーズを決めて、盛大な拍手が始まった。

 境山がドヤ顔で周囲に手を振っている。

 あまりにも意外な特技である。特技というかお前はオリンピック候補の強化選手か何かか。


「す、すごい……!」


 さっきまで境山に手を取られて、初歩の滑りを教わっていた晴乃が呻く。

 彼女の中で、境山のランクが結構上がったらしい。


 スケート場内が、唐突に始まったフィギュアのショーに見とれている隙に……トイレに逃げ込んだ郁己と和泉は、マフラーと手袋を交換。

 和泉は適当な帽子を買って被り、ダテメガネを装着した。

 黒縁は顔の印象を非常に大きく変えるが、それでもなお、悔しいことに和泉はいい男である。

 だが剥き出しのいい男から、やや衣装に隠れたいい男くらいにはなったのではないだろうか。


「よし、これで行くぞ」

「坂下、感謝する!」


 二人はスケート場に繰り出した。

 そして、なんだかお客さん達に囲まれて賞賛を受ける勇太達を見て目を丸くすることになるのである。

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