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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
75/107

期末テストに挑め! 父のお話といよいよ本番。

 翌日になると、楓と上田がやってきて、いつもの面子でテスト勉強会となった。

 そして今回はビッグゲストをお招きしている。


「特別講師の、金城尊教授です、みんな拍手ー」

「わー!」

「わあー」

「うおー」


 ぱちぱちぱち。


「どうも、ご紹介に預かった金城尊です。勇の父親をやっています。専攻は考古学だけれども、みなさんの社会分野のテスト勉強の一助になれれば嬉しいよ」


 現役大学教授による講義が始まる。

 これはなかなか貴重な体験である。


「テスト勉強というものは、基本的にその場限りの知識、暗記を基本として行われることが多いね。

 確かに、そういった短期記憶による道具としての知識もまた有用だ。

 だが、僕らが学ぶものは、先人たちが辿った軌跡でもある。その歴史や土地にどのようなドラマがあり、そこに人々がどのような思いを馳せたのか。

 血の通った知識として理解すれば、それは君たちの人生にとっても財産となるだろう。

 まずは、何のために知識を得るのか。それを思いながら、僕の講義を聞いてほしい」


 あらかじめ、郁己からもらったテスト範囲を使用し、講義形式にアレンジしたテスト勉強講座である。

 ユーモア混じりの尊教授の講義は面白く、勉強が苦手な勇太や上田も聞き入ってしまう。

 テスト内容の知識周りに、また雑学的なエピソードが加わる。

 知識を、そういう単語としてではなく、物語として脳に記憶させていく作業が、尊教授の講義であった。

 思わず、郁己も唸りを上げる。


「すげえ」

「うん、俺も父さんの授業がこんなに面白いとは思ってなかった」


 息子が一番父親の実力を知らなかった。


「とって、も、おもしろ、かったです」

「うん。すっげえ勉強になりました! びっくりするくらい、スルッと頭に入ってきた!」


 大好評のうちに、勉強会は幕を閉じた。

 去り際、尊さんは郁己に言った。


「恐らく君ならば分かっていると思う。勉強とは何のためにするのか、だね。郁己くんは選びとる道を決めているかな? もしそうでないならば、僕のゼミは君のために門戸を開けておくつもりだ」


 ぽん、と肩を叩き、教授は愛しき妻の待つ居間へと消えていった。


(勉強をする意味……か。いい大学行って、いい会社に勤めて、それで結婚して……って、なんかマニュアルみたいだよな)


 勉強会が進む中、時折、郁己は上の空になる。

 視線の先には、和気藹々と友人たちと会話しながらノートに向かう勇太。


(それってこいつのためになることなのかな……? 誰かが生きた時の、そいつが作ったモデルケースなんじゃないのか? だったら、俺がやること、俺じゃなきゃできないことって何だ……?)


 勉強というのは目の前のテストや試験を超えるためのものではない。

 もっと先に向かうための足がかりであり、己の人生の選択肢を増やすための武器でもある。

 尊さんがその事を郁己に話した意図は分からない。

 勇太のことを思ってかもしれないが、底知れない人だ。


 だが、少しずつ考え始めた未来の姿が、僅かだがはっきりしてくるのを、郁己は感じていた。



 テスト開始である。

 五月の中間テストでは、真っ青な顔をしていた勇太が余裕の表情。

 それを見て、夏芽や小鞠、利理が異常事態だと騒ぐ。

 勉強嫌いの勇太が進んでノートを開き、事前の勉強をしているのが珍しいらしい。

 いや、たしかに珍しい。

 長い付き合いの中で、こんなに勉強をしてる勇太は受験の時依頼かもしれない。

 その顔には、あの時には浮かんでいなかった笑顔がある。

 自分が、勇太にこの笑顔を浮かべさせられなかった事が、ちょっと郁己は悔しい。


 テストが進行していく。

 一日目が終わり、二日目、三日目と順調に消化していく。


「勇太、調子はどうよ?」


 テストの帰りに尋ねてみると、彼女はうーん、と考えこんだ。


「なんか、分からないところはあるんだけど、分かるところはスルスルっと自分の中から答えが出てくるんだ」


 知識が自分の血肉になっているということだろう。

 一度身についた知識は、生半なことでは失われない。

 これぞ、正しい教育の姿である。

 郁己はそれを見て、我流の限界を感じた。


「なんか、俺も思うところがあってさ。ちょっと勉強しなおしたほうがいいかもしれない」

「ええっ!? だって、郁己って超勉強できるじゃない」

「学校の勉強ってやつは出来るよ。でも、それって記憶力が良くて、多少計算がやれれば誰だって出来るんだよ。俺は別に、勉強が楽しくて仕方ないからやってるんじゃない」


 それが、勇太の助けになると思うからやっている。

 今思うと、きっとそうなのだ。

 だが、この間の講義を受けて変わった。


「俺はさ、俺のための勉強をやってみたくなったんだ。一生かけてやるような、そんな勉強がしてみたい。でもまあ、まだ正直な所何をやればいいかなんてのはさっぱりだけどな」


 郁己が笑うと、勇太も微笑んだ。

 期末テストは、今までのテストで一番、何事も無く終了した。

 後日発表された成績順では、勇太の順位が40位まで上がっていたらしい。

 上田は43位で、勇太に抜かれたと悔しがっていた。

 郁己は、自分の1位よりも、勇太の40位を眩しく感じていた。


「さあ、諸君! テストが終わったら、分かっているな!?」


 和泉恭一郎の声が響く。

 彼は大きなカバンを持ってきていて、やる気十分。


「スケートに行くぞ!!」


次回スケート

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