チョコ(略)ボーイズサイド→運命の当日
途中まで書いたけどあまりにむさいのでボーイズサイドの長さが3分の1になったよ!
「友チョコというものを知っているか!」
「ま、まさか御堂!」
郁己は戦慄した。
ついにこの、女と縁がないサッカー部所属の友人は、狂ってしまったのか。
「落ち着け御堂。友チョコというのは確かにあるが、あれじゃないか。それは女子通しで融通しあうものなんじゃないのか」
「うるせえええ、もらえないくらいなら俺は作るぞおおお!!」
まあそれはそれでいいんじゃないか、という事になった。
郁己、和泉、御堂、上田、境山、伊調の六人は、それなりに大きなお屋敷である和泉邸に集まってお菓子を作ろうとしていた。
なんともむさ苦しい光景である。
「和泉は、義理チョコをたくさん作らなきゃいけないんじゃないのか?」
「馬鹿を言うな。俺は本命女子にしか渡さないぞ」
「本命って誰だよ」
「金城さん」
「おまええええええ!!!」
郁己と和泉が取っ組み合いになった。
まあ、多分割りといつもの光景である。
女子たちの集まりに比べると、実に男スメルのする空間で、彼らは悶々としている。
「水森さんにもお返しを作りたくてなあ」
「それって、ホワイトデーにお返しすればいいんじゃ」
「…………」
「グフッ、境山くん器用だねえ」
男たちがキャッキャウフフしながらお菓子作りに励むのだが、どうにも絵にならない。
育ち盛りの少年たちである。
味見と称して、半ば調理が終わったものが胃袋の中に消えていったりする。
途中でオリジナリティ溢れる味付けをしようとして、混沌としたものが誕生したり。
夕方の時間をいっぱいに使い、結局完成したのはそれぞれ一箱。
本命の相手に渡す分しか出来上がらなかったのである。
「本……命……!?」
「どうした、御堂」
「俺の、俺の本命って、ウゴゴゴゴゴゴゴ」
「いかん、御堂がまた壊れた」
……と、気がつけば当日である。
なんとはなしに甘いチョコの香りが、校内を漂う今日という日。
男たちは登校時からソワソワしている。
和泉恭一郎は登校と同時、下駄箱を開けてウンザリとした表情をした。
そこにはぎっしりと、手紙付きのチョコが入っているのである。
「気持ちはありがたいんだが……。俺が本当に欲しい一個は、絶対に手に入らないしな」
和泉の本命は親友の彼女。
絶対に自分に靡かないと分かっているからこそ、より好きになってしまう。
手が届かない者を強く欲してしまう自分が、実に業が深いと分かっていつつも止められない。
「さて、本命友チョコはどうしようかね」
それを欲しがる女の子なんて、校内には何人もいる。
だが、彼女たちの手に、この和泉の気持は絶対に届かないのであった。
「水森さん!!」
生き様そのものがオープンな男、上田悠介は一年二組に飛び込む。
まだ朝のホームルーム前である。
女子の名を呼びながらの登場に、クラスの注目を集める。
「上田、くん」
そんな彼氏の奇行はいつものことだし、そういうところも含めて好きな楓。
初めて出逢った頃のようにはうろたえない。
にっこり微笑んで手を振る姿は様になり、今では女子たちも、彼女に一目置く。
「どうしたの? チョコ、はあるけど、お昼休み、にね」
「うひょお! 水森さんのチョコ!! 俺は幸せです!! あ、あと俺も友チョコっていうかなんかお返し持ってきてね」
ゴソゴソとかばんを漁る上田。中からは、リボンの付いた袋が飛び出してきた。
「俺の気持ち……です!!」
「上田君、が、作ったの!? ありがとう」
男女ともにホッコリする光景である。
この凸凹カップルは、今日も仲睦まじい。
「義理チョコだよぉ」
「義理チョコよ!」
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
御堂は、梨里と小鞠から義理チョコをもらい、涙を流さんばかりに喜んでいた。
尻尾があったら振っていただろう。
クラス全員にばらまくと宣言した梨里と小鞠だったが、想定以上にチョコの量が少なかった。
二人で、味見味見と口寂しい時に食べてしまい、厳選された男子に渡す分しか残らなかったのである。
その一人に選ばれたのが御堂だった。
彼はかばんから、本命用のチョコを取り出し、
「では、お二人に……」
静々と差し出した。
「え、御堂くんチョコ作ったの?」
「へえ、やるじゃない」
二人は包を受け取ると、その場でガサガサと開く。
中に入っているのは、星型のチョコが二つである。
ただし、X軸、Y軸、Z軸の厚みが等しい。
星形だったが、それは非常に分厚いチョコであった。なんというか男らしい。
「ガッツリ系……!」
「男の子ねぇ……!」
案外、二人からの反応も悪くはなかった。
「……作ったんだけど」
「………ありがとう」
「え、境山くんのお返し? ……ありがと」
なんとなく言葉少ない二人。
付き合うまではいかなくても、お互い意識しあっている。
この先の関係になるまで、カウントダウンと言えよう。
だが、押しの弱い境山と、実は結構ヘタレな晴乃はその一歩を踏み出しきれない。
このバレンタインが切っ掛けに……なんてどちらともなく思ったが、まだまだそんな事は無いようだ。
プレゼント交換をして、掛ける言葉を探して二人で沈黙。
やがて始まったホームルームに、また離れ離れになる。
「金城さん、これあげるよ」
和泉からもらった包を、どうしたものかと勇太は考えていた。
断るのも悪いからもらったが、一言、
「ありがとう和泉くん。でも、物は受け取れるけど、気持ちは受け取れないよ?」
なんてきつい言葉を返してしまった。
彼は良い奴だし、自分が男だったとしても、好感を抱いたかもしれない。
今も好感はあるが、それは友達としてのそれであって、異性に対する好意ではない。
勇太は最近、薄々感じていた。
どうやら、自分はモテるらしい。
しかも、様々なタイプの男子から、満遍なくモテる。
リア充タイプの子、スポーツマンタイプの子、ちょっとオタクっぽい子、人見知りする子。
「俺、フランクに接してるつもりだったけど、これって勘違いさせちゃうのかもしれないな……」
「そこが勇のいいところだけどね。でも、罪な女よねえ」
女子からのチョコを沢山受け取った夏芽が、カラカラと笑った。
「うーん、なんか私最低っぽくない?」
「そんなこと無いわよ。だって勇、思わせぶりな態度絶対取らないじゃない? 入学した最初からずっと、あなた一人の男の子しか見ていないんだもの」
目配せする夏芽の視線の先には、ぼーっとした顔の郁己の姿。
今、小鞠が走ってきて、義理チョコを投げつけた。
郁己が顔面に食らって椅子ごとひっくり返る。
「彼もそれなりかもね。何もしなければモテないタイプだけど、坂下くんは何かとやってのけるもの。だんだん評価を得て行って、徐々に女子にモテ始めるタイプ。だけど、最初から彼は、一人の女の子しか見てない」
罪な二人、なんて夏芽は他人事のように言って笑っていた。
勇太は考えこんでしまう。
郁己を買ってくれるのは嬉しいけど、なんだか自分も含めて、褒められた気がしないなあ……なんて。
まあ、今日もきちんと、勇太への操を貫いた郁己を観察してきて、
「しょうがないなあ。帰ったらご褒美をあげるか」
最初からそうしようと決めてい癖に、一人呟く勇太だった。
放課後は目の前で、バレンタインのプレゼントを作ってやるのだ。




