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勇者はたった一人死んでいくはずだった。
死して、虎の愛する世界に戻り、生まれ、魔を追い払う存在になるはずだった。
しかし、勇者は恋をした。
育ってきた世界の人を愛してしまった。
間違った世界で生きる理由を自ら得てしまった。
稀なる力を秘めた勇者。
このまま勇者がこの世界に留まれば、その稀なる力は無意識に使われることなる。
“魔”を倒すことのできる力を失う訳にはいかなかった。
虎は、勇者を強制的に自分の愛する世界に連れてこようとした。
しかし、それを邪魔をした者がいた。
勇者に愛を教えた者だ。
愛を乞う勇者に必要なのは、神の代弁者である虎の愛のはずだったのに。
虎は、自分の作った世界を勇者に見せて、その世界に勇者を引きこむはずだった。
それをカノ者が邪魔をした。
虎は怒り、自分の目の前に現れた者に“帰れ”と告げた。
自分が欲するのは勇者だと。
勇者には自分の代わりに“魔”と戦ってもらわねばならないのだ。
勇者が愛するようにカノ者も勇者を愛していた。
愛する者が、自分の世界から消えるばかりか、戦いに身を投じなくてはならない。
その夢のような現実を知り、その者は言った。
『自分が勇者の代わりに戦う』と。
『自分から勇者を奪わないでくれ』と。
どんなことをしても“魔”を倒すから、勇者を危険に晒さないでくれと。
懇願するカノ者を虎は退けようとした。
しかし、虎の主人である神が動いた。
『お前の愛が真実ならば、勇者の代わりに戦ってみよ。だが、ただの人であるお前に“魔”は倒せず、お前は死に、勇者は戻すことになる。』
カノ者は、勇者とは違い、なんの力もないただの人。
それでも勇者を失いたくなかった。
神も虎もその者の強い思いと心に譲歩した。
『お前が、勇者にも誰にも、何も語らず、現実の世界での仕事をこなしながら、夢の中で“魔”を倒す旅を続けるならば、その日数毎に防御と攻撃の魔力を与えよう。』
カノ者は偽勇者として、虎の愛する世界に降り立った。
異世界の慣れない戦いは、カノ者の身体に無数の傷を作り、体力を消耗させていった。
現実の世界で何時もの通りに生活をし、夜寝ている間に異世界で“魔”を倒す。
ただの夢だと思っていたことが現実だと知った時、その者は勇者のために戦うことを改めて神に誓った。
本物の勇者ではないために、彼は疲弊していった。
心配する勇者に気遣うこともできないほどに・・・。
やがて、カノ者は“魔”に倒された。
偽者であったが故の当然の結果だった。
現実の世界の彼、武瑠が「勇者:冴」の目の前で倒れた。
心配停止となった武瑠と共に冴は救急車に乗り込んだ。
神に祈る。
彼を助けて欲しいと。
どんなに淋しくても冷たくされても彼を愛しているのだと。
そう祈った時、彼女は一匹の虎の前にいた。
虎は語る。
武瑠の真実を。
それを知り、冴は旅立ちを決意する。
彼を失うわけにはいかない。
彼を自由にしなければならないと。
「何か望みは?」
虎は問う。
「彼の中から私の記憶を消してください。彼がこの世界で生きやすいように、私以外の誰かを愛せるように・・・。」
冴は、治療が成されている武瑠を異空間から見ていた。
虎は頷き、冴の世界は閉じ、新たな扉が開いた。
おわり
よう分からん話になってもうた。
自分で自覚しておりますので、誹謗・中傷は受け付けません・・・勘弁してください。
お疲れ様でした。




