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目覚めると灰色の空間。
濃い霧が視界を遮っている。
(私は…死んだの?)
ゆっくりと体を起こすとサラリと肌を滑る布。
アイボリーのワンピースを身に纏っていた。
肌触りから高級品であることが分かる。
『癒しの乙女よ…、漸くソナタに会えたな。』
頭に響く太くて低い声に身がすくむ。
『恐れることはない。』
濃い霧が晴れていく。
冴は、ゆったりと高台に座っている一匹の虎と出会った。
言葉を無くした冴に虎が言う。
『癒しの乙女よ、お前の夫を助けたいか。』
たちの悪い冗談だと彼女は感じた。
(早く夢よ、醒めろ。)
この時の私は心から思っていた。
武瑠の元に一刻も早く駆けつけたいのに、自分は何を暢気に夢など見ているのかと冴は自分にイライラしていた。
最近、心に疲労を抱えていた冴は、何をしても楽しくなかった。
かと言って気分転換の買い物などもする気が起きなかった。
(これは、ストレスが溜まった証拠かな・・・現実離れした夢を見るなんて。)
毎晩のように武瑠の夢を見ていた。
彼に別れを告げられる夢、清水の腰を抱いて去っていく彼の夢。
冴は夢を受け入れようと思っていた。
銀の虎は語り始めた。
その声で我に返った。
語られる話に冴は、自分の夢の中とは言え、良く出来た話だと思った。
虎は神の使いだと言った。
神が虎に与えた世界は、虎にとって大切な世界となった。
人々は虎を崇め、虎はその世界で神となった。
人に知恵と魔力を与えた虎は、人々の心の中に微かな魔が育ち始めていることに最初は気付いていなかった。
微かな魔も、人々の良心が押さえ込むこと、消滅させることもあったため、油断していたとも言えた。
魔は虎の目を掻い潜り、巨大化し、人々の生活に影響を与え、争いが増えていった。
荒れていく大地と心、虎への信心も薄くなり、虎は世界を失いかけた。
その時、虎の主人である神が、“魔”の影響を受けていない異世界の一人を勇者に選んだ。
元々は虎の世界に生まれるはずだった命。
神はその命を“魔”に支配された時の切り札、勇者とした。
勇者は稀なる守護の力を宿していた。
その勇者の夢の中に虎の愛する世界を繋ぎ、“魔”を倒させる。
それが、神と虎の考えだった。
虎は、神からその人間こそが、魔を取り払うことができると聞いていた。
自分の世界のことに異世界の住人を巻き込むことに虎は躊躇したが、元は自分の世界に生まれるはずだった勇者。
ならば、問題ない、その者に関った者達の記憶を消せば良いだけなのだから。
虎は、まず勇者を産んだ母の命を終わらせ、次代に魂を転生させた。
その次に父の命を同様に次の世代に転生させた。
勇者が元の世界に戻りやすくなるようカノ者を孤独にする必要があった。
生きがいだった勇者の弟も同じように次代に送った。
勇者が間違って生まれ育った世界の神が、虎のすることに何も言ってこなかったことが幸いした。
つづく




