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月曜日の朝、久しぶりに見た夫の疲れた顔に思わず声をかけた。
彼は驚いた顔をした後、これまた久しぶりの笑顔をみせた。
「冴、心配してくれるの?」
ニッコリ、嬉しそうな表情をした武瑠に今度は冴が驚いた顔をした。
「そりゃまぁ一応…。」
以前、自分に向けられていたような熱い目に冴は思わず茶碗に視線を降ろした。
しかし、その視線も顔を上げた時には、その熱は消えていたから、冴は自分の勘違いなんだと思った。
武瑠の朝は、元々普通とは違い、沢山食べる方だったが、ここ最近の彼の食欲は凄まじいものがあった。
ジブリ映画の海賊のような食いっぷりだ。
朝から豚カツ、うなぎ、焼き肉、カレーライスでも大丈夫だった彼。
顔色とつりあわない食欲。
武瑠は、今朝もどんぶり飯を三杯たいらげた。
検事の仕事が大変なのは分かってるつもりの冴だったが、この思春期体育会系男子な食いっぷりには付き合った頃から驚かされた。
特に朝から大丈夫と言われたメニューを聞いた時は驚くばかりだった。
昼は職場近くで売られている五百円弁当で十分だと言う武瑠だが、体のことを考えると冴は心配になった。
昔はインターハイに出るほどの腕前を持つバスケ選手だったと聞いていた。
しかし、ほぼ定時で仕事を終え部屋に籠る武瑠が再びスポーツに精を出しているとは思えない、かと言ってブクブク太っていく訳でもなく、以前よりも引き締まってきたようにも思える冴であった。
名ばかりのようになった関係でも明らかに疲れの色が濃い彼に、事務官の清水からの言葉に傷付いていた冴は、妻である以上は、彼の心配を一番にしている存在でいたかった。
「ありがとう、冴・・・もうすぐ・・・もうすぐ決着が付く・・・あ、いや・・事案があって、それが終わったら全部話する。このところの俺の態度がおかしいことも分かってるだろう?」
ああ・・・その時が来るのだ。
冴はそう思った。
つづく




