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思いつきで始めた連載です。
数話で終わります。
女は神々しい一頭の虎と対峙していた。
銀色の虎は言葉を発し、女に語った。
「戻ってくれるのか。」
その言葉に女はフッと笑みを零した。
「この世界に、もう・・・未練はないわ。あの人を自由にできるなら・・・。連れて行って。」
数時間前に聞かされた話。
「お前の愛する者が勇者になることを決意した。全ては、そこから始まったのだ。」
そう語る美しい虎の言葉を理解するのに時間を要した。
虎が語る言葉が信じられず、けれど、これが最期のチャンスなんだと思った。
「私・・・。」
愛する者と聞き、頭に夫の顔が浮かんだ。
浮かんだことで、女の心がぎゅっと握られたようになった。
やっぱり私は彼のことを愛しているのだと自嘲した。
「どうする・・・選択肢は二つ・・・世界を救うか、救わないか。」
語りかける虎に彼女は言った。
「世界なんて、彼がいなければどうでもいい・・・でも・・・彼を助けることになるなら・・・。」
たとえ、彼が望んでなくても・・・。
「迷いはないのか・・・。」
美しい虎は、女に問うた。
「迷うわけにはいかない・・・そうでしょう?・・・こんな私のために彼が犠牲になることはない・・・貴方は言ったじゃない、元に戻るだけだと。」
真っ直ぐにブルーの瞳と黒曜石のような瞳がぶつかり合う。
「迷わなくて済むのなら、心でも身体でも壊せばいい。」
夫、武瑠とは、結婚してまだ一年。
猛烈なアピールで女は彼の妻になった。
彼が自分の何処を気に入って迫ってくるのか全くもって冴には不明で、少々人間不信気味の彼女にとって、武瑠という人間は何処までもストレートだった。
誰が見ても上等なランクにいる夫はクールな見た目とは違い冴には優しかった。
正義感に溢れた彼の仕事は、彼の人柄をそのまま示すような検事。
実家も旧家で自分とは釣り合わないと感じ、考える暇を与えることなく口説いてくる彼と何とか距離を置こうとした。
幼い頃に母を高校生の時に父を事故で亡くした彼女は、学業面では優秀だったが、生きるために働くことを選び、幼い弟を育てた。
その弟も今はいない。
交通事故に巻き込まれてのあっけない死だった。
たった一人の身内を亡くした彼女は自分だけが生きている理由を探していた。
弁当屋で働く彼女に一目惚れしたと言う彼と出逢い、逃げられないほどに愛され、自分が生きていていいのだと教えられた。
彼と出逢い、愛し合うために生きていていいのだと思えるようになって結婚したのは、武瑠と出会って二年が過ぎた頃だった。
忙しいだろうに武瑠は出来る限りの休みをデートに誘ってきた。
遠慮する度に彼は、冴を追いかけてきた。
冴は、徐々に彼に惹かれていったが、旧家の名家出身の彼の実家が許すはずも無いと“別れ”の時がいつなのかとビクビク過ごしていた。
ところが、彼の父母は、冴にとても優しく、仕事で忙しい武瑠の代わりに彼女を頻繁に外に連れ出し、嫁として、娘として扱ってくれた。
久しぶりの感覚に最初こそ戸惑っていた彼女だったが、暖かい人達に囲まれて幸せな結婚生活を始めることが出来た。
つづく




