02. ピットリ、降臨
翌朝、白崎は研究所に来る前にホームセンターに寄り小さなプラスチックの飼育ケースと鳥用の餌や小さな水入れを購入した。レジで店員に「何を飼うんですか?」と聞かれ、「えーと、鳥だと思います」と答えて不思議な顔をされた。
研究室に着くと白崎は飼育ケースを自分のデスク横の大きな引き出しの中に、空気を入れる為に少しだけ空けて隠した。
しかし、昼前には上条に見つかった。
「白崎さん、引き出しから何か音がしてますよ」
「気のせいです」
「ぴっぴっぴっ、って言ってますよ」
「……気のせいです」
「開けますよ?」
「あっ!ちょっと待って!!」
上条は白崎を無視し、引き出しを開けると飼育ケースの中からつぶらな黒い目が二つ、こちらをじっと見上げていた。
「えっ?何ですか、これ??」
「多分、鳥です」
「鳥?なんか丸くないですか?ピンポン玉に羽毛が生えてる……」
「不思議な生き物ですよね。昨日の実験で……」
「昨日の実験って、変なもの混ぜてたやつですか?」
「創造的な実験ですよ」
「これ、作っちゃたんですか?!」
「生み出したという表現の方が適切です」
上条はしばらく生き物を凝視した。生き物も上条を凝視していた。
ぴっ。
「この子かわいいですね~」
「でしょう。ピットリといいます!」
「名前もう付けてますし!」
「ちょうどいいサイズ感がピットリって感じじゃないですか」
その時、廊下から足音が聞こえてきた。どたどたと……やたら威圧感のある足音。
「白崎!上条!今日の午前中のデータはどうなってる!」
研究室のドアが勢いよく開いて、所長の大黒克己(六十一歳)が入ってきた。
大黒所長は身長百八十センチ、恰幅のよい体格で、いつも白衣の上からネクタイを締めている。眉が太くて声が大きく廊下を歩くだけで後輩研究員たちが縮み上がるタイプの人間だった。
そしてこれは研究所内では噂なのだが、所長の前では誰も口にしない秘密がある。所長の頭頂部は自然な仕上がりのように見えそうだが……しかしどう見てもカツラにも見えると疑惑がかかっていた。
「ああ、所長。データは午後には……」
「遅い!今月の締め切りは早いんだぞ!」
その時。
ぴっ。
所長が声のした方向を見た。白崎の引き出しに、飼育ケースがある。
「……おいなんだ、これは」
「あ、えーと、これは……そのですね……」
「勝手に研究所に動物を持ち込んだのか!」
「……これは実験で生まれました」
「実験?こんな丸っこい鳥が実験で生まれるわけがあるか!」
ぴっぴっぴっ!
ピットリが飼育ケースの中で激しく鳴いた。まるで「うるさい!」と言っているようだった。
所長は唖然として飼育ケースを見た。ピットリも所長を見た。
しばらく人間と謎の鳥が見つめ合った。
「……かわいいな」
所長が小声でつぶやいた。
「所長?」
「なっ!何でもない!っとにかく!今日中にそれを処分して、データを纏めろ!」
所長は扉を閉めて出ていった。
白崎と上条は顔を見合わせた。
「処分って……」
「大丈夫ですよ、所長、ボソッとかわいいって言ってましたし」と白崎は言った。
「大丈夫なんですか?」
「いけるでしょ!」




