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別れた選択 ー黒衣の男ー

 痛みは、移せる。



 簡単なことだ。


 

 路地裏で男が一人、うずくまっていた。


 腹を押さえて、痛みに耐えるようにうめく。


 汗に濡れた顔が地面を叩く。


 「……はぁ、は……っ」



 壊れかけだ。


 

 視線をずらす。


 少し離れたところで別の男が立っていた。

 何も知らない顔で、ただ通りをぼんやりと眺めていた


 ーー痛みは、”移せる”


 黒衣の男は、口の端を吊り上げる。



 痛みに喘ぐ男に視線を向ける。

 

 

 手をかざす。



 黒い”何か”がゆっくり滲み出る。


 

 うずくまっていた男から、何かが剝がれる。


 常人には視認できないもの。

 

 だが確かにそこにあるもの。


 

 それをーー  



 「転写(トランスファー)



 別の男に移す。


 「……っ!?」


 

 ただ、そこにいただけの男が突然腹を抑えながら膝をつく。


 段々と呼吸が乱れ苦しそうにする男の顔には、玉のような汗が噴き出ていた。  


 

 一方で。



 「……え?」


 うずくまっていた男が違和感に気付き戸惑いの声を上げる。


 さっきまで確かに感じていた痛みが引いていく。


 当然だ。


 もうないのだから。



 しかしーー  


 消えた訳じゃない。


 

 「……ふむ」



 黒衣の男は満足気に頷く。


 気まぐれの行動の代償は素知らぬ善良な市民が負った。



 ーーどこに、自分が苦しむ必要がある。


 限りなく歪んだ人格。



 昔は違った。


 ふと思い出そうとして、やめる。



 「……無駄だな」



 今は今。


 考えた所で、意味がない。


 結果はいつも変わらない。



 歩き出し、人の流れに紛れる。



 少しの違和感ーー



 音が遅い。



 歩くたびにノイズのようなものが走る。


 まるで、自分だけ別の世界にいるような。



 ーーいつものことだ。


 もう慣れた。


 

 「……さて」


 ふと足を止めて、空を見上げる。



 何かが、蠢いている


 ”歪み”の流れ。  


 見覚えのあるものだ。



 「……相変わらずだねぇ」


 小さく笑った。


 そして。


 

 ーー表情が消える。



 「……愚か者め」



 引き受ける。


 背負う。

  


 「まだ……そんなことをしているのか」



 そんなことをして何になる。



 そんな奴がたどる末路は、もう知っている。



 いつも同じだ。




 

 「……治せますか」


 静かな声だった。

 期待も、不安も、全部混ざった声。 



 歪みから伝わる、イメージ。



ーー ……


 

 「……」


 

 重なる。


 苦しそうにこちらにのばす白く、細い手。



 

 そして、空白ーー


 

 「……無意味だ」



 その結末は身をもって知っている。



 「……だから」


 歩き出す。



 足音は、やはり少し遅れて聞こえる。



 「壊すしかない」



 視線を元に戻す。



 歩む先には、“未来”


 決まっている未来。



 「ああ……」



 見て、思い出してしまう。



 あの男と。



 その隣にいる少女。



 諦めていないのに、受け入れている目。



 ーー同じだ


 何度もみた。


 すぐ近くで。



 「……懐かしいな」



 無意識の言葉に口元が歪む。



 笑っているのかも、自分でも分からない。


 

 「結果は知っている」


 だから。



 「壊す」



 黒い外套がノイズ交じりに揺れた。  


 

 背後から声を掛ける。





 「見つけた」

 

 

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