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狐狩り~あやかしぶん殴ります~  作者: 桐谷雪矢
第二章 獣は獣を喚ぶ
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5.遺伝

「いらっしゃ~い。最近全然顔出してくれないから、おばさん寂しくって~」

「こんにちは、お久し振りです……て、正月に会いましたよね? 歓迎してもらえるのは嬉しいけど、ちょっとオーバーですよ」

 おばさん───星崎みつる───はハイテンションで迎え入れてくれた。勇司の母親なんだと一見してわかるほどに似ている。少し天パがかった髪、くりっとした人好きのする目元、やや口角があがっていて笑って見える口元。しかしその表現は人懐っこい犬のようでもあり、少しずつ、ピースが塡まっていくようだった。

 リビングにはおじさん───星崎誠司(せいじ)───もいた。おじさんはおばさんと違って無口で堅いタイプだ。親父と古い付き合いで、いっしょに仕事をしていたこともあったらしい。その縁で両親が死んだ後に預かって育ててくれたのだ。

 住宅街から少し離れて田んぼや畑が家より多くなったあたりに、勇司の実家はあった。白い塀に囲まれた広い庭と母屋と離れ。その離れで十年近くお世話になっていた。

 カーペットの上にソファとローテーブルが置かれた和室のリビングで、ご両親ふたりと、俺と勇司が向かい合う形で腰掛けた。緊張というか、居心地が悪い。七年ほどはいっしょに暮らしていたので、余所様の家庭の事情という距離感でもないが、聞いていてもいいのか?と気が引ける。おばさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、どう切り出そうか迷っていると、おじさんが口を開いた。

「それで、雅弥くんは勇司の姿を見たんだね?」

「あ、はい。えっと、もしかして、遺伝……だったりします?」

 俺はご両親の顔を交互に見て訊いた。下手にごまかしても意味がない。思ったことをそのまま口にする。

「本人がいる前で言いにくいんだけど、その、いわゆる人狼っての、まんまでしたね。毛だらけで鼻面も長くて。別に満月でもなんでもなかったので、なんなんだ?って戸惑いましたよ」

「おう、肉球もあったぞ」

 横から勇司も手をにぎにぎさせながら口を挟む。

「あら~、思ったよりしっかり変化しちゃったのねぇ。おとうさん、この子もしかしたら私より完璧に狼になれたりするんじゃない?」

 おじさんは文字通り頭を抱えていた。

「お前がいきなり変化したときにも度肝を抜かれたが、勇司は思春期越えても全然その気配はなくて、このまま変化せずに終わるかと思ってたんだがな。二十代半ばで覚醒するなんて思わなんだ……雅弥くんはその……勇司を見てもなにもなかった、かい?」

「俺ですか? いや、その、もふもふしてるなぁ、としか……」

 言ってから口元を押さえたがちょっと遅かった。おばさんは噴き出すし、勇司はちょっと引いていた。

 その様子におじさんは溜め息をついたが、呼吸を整えたおばさんが話を継いだ。

「あのね、私のうちは犬神憑きの家系なの。母もお祖母様も子どものころに変化が現れたと言うし、私も中学の頃にはうっかり発動させないように意識してた。そんなだから、勇司がもし目覚めないまま、この子が結婚して隔世遺伝で覚醒したら、その時に私たちがもしいなくなってたら、誰も伝える人がいなくなってたらどうしようかって、最近ちょっと悩んでいたの。それについては、ほっとしてる」

「俺がこんなんならなくても、説明くらいしといてくれればよかったんじゃね? ホントにめっちゃ焦ったんだぞ」

「だってぇ。信じないって言われたら、私、変身して見せなきゃなんなかったかもでしょ。いやよ、あんな毛むくじゃらになるの。まーくんのお父さんだって無理強いしないでいてくれたもの」

 ん? 親父? と俺は目を丸くしておばさんを見た。なんだ、無理強いって。ちょっと男女間で使うには不穏な単語が出た。夫も息子もいる前で。

「やだ、まーくん、変な想像したでしょ。うちは犬神憑きだって言ったよね。そしてまーくん。君のうちは犬神遣いの家系で、何世代も続いている関係なの。お父さんは犬神遣いとして犬神憑きの私を使役できたのよ。だけど、私が変化した姿を嫌がったから仕事には駆り出さなかったし、実際に使役されたことはなかった」

 俺は関係ない、余所様の家庭事情だと思ってこの場にいたのに、いきなり当事者になってしまった。困惑したまま勇司を見る。俺は犬神使いとして、犬神憑きのこいつを使役できる、と? 勇司も首を傾げて俺を見た。

「雅弥くんのお父さんからは、何かあったら自立するまで雅弥くんを守ってくれと言われていたんだ。だからご両親が亡くなったときは、迷わず雅弥くんを預かることにした。生まれた頃から知っている子を預かるのには抵抗もなかったからね。勇司とも仲良くしてくれたから助かっていたんだよ。こいつ、視えすぎてなかなか友だちが増えなかったからな」

「それはまあ、俺も勇司ほどじゃないにしても、割と視えてるんで」

 それらを踏まえて考えるといろいろ合点がいった。面倒がっても頼めばつきあってくれたのは、使役する者される者として無意識に逆らえなかっただけなのかも知れない。

「じゃあさ。他の動物と混じってるヤツは、その動物が憑いてるってこと? あれ、でも、おふくろに狼被ってるの、見たことなかったぞ」

「そうだったの? あ~、だから気付いてなかったのね。うちは中も外もあっちこっちに結界のお札とかアイテム仕込んでるからかも。うちにいるときには、変なの視えてなかったでしょ」

 そういうのはもっと早いうちにネタバレしておいて欲しい。そうすれば俺も勇司も視えることに不安や苛立ちは感じなかっただろう。勇司もちらりと俺を見て、小さくため息を漏らした。

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