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まさかリリミアを絶対に逃さないために行ったシンデレラ作戦がこんなふうに誤解されているなんて…。
はぁーーー、なんでそうなるんだよっ。
普通なら外堀を埋められたって思うだろうがっ!
どこをどう間違ったら『錯乱』にたどり着く???
普通は思わないだろうがっーーー。
頼む、リリィ…。
どんなおかしな君でも愛している。
だがこの重要な部分だけは間違えないでくれ…。
「なあリリィ、誤解だ。俺は錯乱してなんかいない」
真剣な表情で事の経緯を説明していくが、リリミアの反応は望んでいたものとは違った。
だが限りなく予想に近い言葉が返って来る…。
「あらあら、やっぱりショック療法は効かないみたいですね。残念だわ、もしかしてと期待していましたが、そんなに都合良く治らなかったですね。ごめんなさい?かしら…中途半端なショック療法で。次はもっと凄いことを試してみましょうねっ、スナイル様」
なぜか無駄にやる気を見せてくるリリミア。
分かっていた、俺が惹かれた彼女はこういう人だったから。
それも含めて愛しているが、今だけは普通でいて欲しいと切に願う。
いやいや、十分だっ!
これ以上はやめてくれ、リリィ。
『もっと凄いこと』がなんなのか想像するのはやめておこう。これ以上のダメージは受け止められるか自信がないから…。
「…中途半端じゃないから、もう最大級のダメージを与えているからなっ。ああ…、違うっ、伝えたいことはそれじゃなくて…。
っていうか病んでないからなっ!」
「スナイル様、病んでいる人は大概自分の闇に気づかないものみたいです。大丈夫ですわ、これから真実と向き合うことでいつしか闇に打ち勝つ日がくるでしょう。焦らないで頑張りましょう。
ほら一緒に『エイエイオー!』」
拳を高々に上げて励ましてくるリリミア。
駄目だ、全然伝わらない。
難しいことは何一つ言っていないのに、どうしてここまで伝わらないんだ…。
それに闇ってなんだ…。
リリィのなかで俺はどんな進化を遂げているんだ…?
もうツッコミどころ満載のリリミアの言葉だが、ツッコむ元気と気力が根こそぎ奪われていく。
「どうしたら俺が正常だと信じてくれるんだ?」
これ以上はどう証明すればいいか分からない。だから駄目もとでそう言ってみた。
どうせ無駄だろうけどなと思いながら。
「うーん、そうですね。スナイル様以外の方の意見を聞きたいかなと思いますわ」
ようやくリリミアと言葉が通じたことにホッとしながら、近くにいるケイに『お前からも本当のことを言ってくれ』と頼んだ。
ケイは頷きながら一歩前に出てくる。
「スナイル様は錯乱などしておりません。リリミア様を手に入れたくて、おとぎ話のシンデレラを悪用はしましたが正常そのもの。腹黒ではありますが、それは性格なので精神の異常とは言えません。
そして王子を諌めずに協力をしておりましたこと誠に申し訳ございませんでした」
簡潔にそれだけ言うとケイはリリミアに頭を下げる。
ケイは私が説明した以上のことは言っていない。違うところは少しばかり棘のある言葉をオリジナルで入れていたところだけ。
もしかしてケイは密かに怒っているのだろうか。
裏工作のせいで忙しくなり数日間家に帰れず家族に会えなかったことを。家族をなによりも大切にしている彼なら有り得る…。
…すまない、ケイ。
諸々のことが落ち着いたら後でケイに謝っておこうと心に誓う。何気に優しい奴の怒りの方がじわじわと心に来るものがある。
誤解が解けたとは期待はできないだろう。そう思って落ち込んでいると、信じられない言葉が聞こえてきた。
「はい、分かりました」
きっぱりと言い切るリリミア。
はぁーーー???
俺が腹黒だと分かったと言いたいのだろうか…。
錯乱は訂正されずに、新たに『腹黒』が加わったのでは惨めすぎる。
「あのなリリィ、腹黒だと信じなくてもいいからな。そこは新たに追加する事項ではないから」
「あら、腹黒なの最初に会話を立ち聞きした時から知っておりましたので、再確認しただけですわ。
それに今『分かりました』と言ったのは、スナイル様が錯乱していないことに対してです」
なんでなんだ…。
あんなに俺が言っても信じてくれなかったのに。
ケイがちょっと言っただけでなぜ簡単に信じるんだ??
おかしくないか…。
「リリィ、信じてくれて嬉しいよ。だがどうして信じる気になったんだ?」
嫌な予感はしていた。
だが思わず聞いてしまった。
「だって疑う理由はありませんから。真面目なガードナー様が嘘を付くとは思えません。
あっ、スナイル様を信じていなかったわけではありませんよ。ただ発情期の雌猿などの問題発言やガラスの靴を叩き割るなどの問題行動ありだったので、きっと心のなかで防衛本能が働いたんですね」
笑顔を浮かべて『ふふ、ごめんなさい?』と言うリリミア。
誤解は解けたけれど、なんだか地味に立ち直れない。
自業自得かもしれないが、リリミア相手でなかったらこうも拗れていなかっただろう。
俺って本当に愛されているよな…?
彼女には敵わない。今もだが、きっとこれから先も振り回されるだろう。
だがこんな彼女だからどうしようもなく惹かれてしまったんだ。
はっはっは、仕方がないな。
惚れたのはリリィがリリィだから。
もう一度跪いて求婚のやり直しをする。
今度は『はい』と言ってくれるだろうか。それとも予想外の反応でまた俺を慌てさせるんだろうか。
どちらでも構わない、時間はたっぷりとあるのだから。
「リリミア・ムーア、愛しています。
あなたを幸せにすると誓う。
二人で一生笑っていきたいと思っている。
だからこの手を取ってくれ」




