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護衛騎士ケイ・ガードナー視点~
今日の勤務は予定より長引いてしまった。
家族と一緒に夕食を食べるのはもう無理だろう。だが子供達が寝る前に家に帰りたい。
寝顔も可愛いが、やはり子供達に『おとうさん、おかえりなさーい!』と元気に飛びついてこられると一日の疲れが癒やされるから。
家に着くと微かに子供達の声が聞こえてくる、どうやらまだ起きているようだ。
「ただいま、いま帰ったぞ」
玄関を開けながら奥に向かって声を掛けると『バタバタッ』と元気な足音が二人分聞こえてくる。
「おとうさん、おかえりなさい!」
「おとーしゃん、かえりー」
7歳の長男と5歳の次男が勢い良く飛びついてくる。そんな二人をしっかりと受け止め抱きしめながら頬ずりをすると『おひげがいたいよ』『ちくちくするの、いやー』と言いながら離れていく。
すると今度は妻が『ケイ、おかえりなさい。今日もお疲れ様』と言いながら台所から歩いてくる。
大きくなったお腹に手を当て『ほら、お父さんが帰ってきたわよ』と一ヶ月後には生まれる三番目の子に話し掛けている。
そんな妻を優しく抱きしめながら『ただいま』と言えるこの瞬間が何よりも嬉しい。特別なことはなにもない、それがかえって幸せを感じられる。
子供達は『おかーさんだけずるい!』『ぼくも、だっこー』とまた懲りずに抱きついてくる。
さっき少し伸びたひげが痛いと言って自分から離れて行ったくせに。
だがこんな無邪気なところも可愛くて堪らない。
二人一緒に抱き上げ『しっかり掴まっていないと落ちるぞ』と子供部屋へと連れて行く。もう夜も遅いから子供はそろそろ寝る時間だ。
「ほら、もうそろそろ寝なさい」
そう言っておやすみのキスを頬にしても『『いやだ、まだおきている!』』と寝ようとはしない。
「明日はお城に行く日なのを忘れたのか?
スナイル王子のお子様達に会う約束をしているだろう。もし寝坊したら連れていけないな~。
お留守番になるけどいいのか?」
「ぼく、もうねてるよ」
「ねてるもーん」
ぎゅっと目を瞑り寝たふりをする二人。笑いを堪えて静かに見守っているとすぐに可愛らしい寝息が聞こえてきた。
明日は息子たちを連れて王城に行くことになっている。その目的はスナイル様のお子様達と会うことだった。
今やスナイル様とリリミア様の間にはなんと五人もお子様がいる。上から6歳の双子の王子、4歳の王女、2歳の双子の王子だ。
元気で賢いお子様達は一見すると『完璧な王子の子供』だが、中身はかなり母であるリリミア様の影響を色濃く受けている。
だから遊び相手として選ばれた貴族の子息令嬢達では物足りないというか…ついてこれないことがあるらしい。
ある日スナイル様から直接頼まれた。
『なあケイ、子供達の遊び相手にお前の息子達を連れてきてはくれないか?』
『構いませんが、息子達は平民なので貴族の礼儀作法は知りませんよ。それでもいいんですか?』
『そんなの気にしていない。そっちこそいいのか?良い子達だがリリミアに素直さがよく似ている…』
ずっと仕えているのだから勿論知っている。
個性的だがとても素晴らしいお子達だ。
『両親の良いところを受け継いでいるお子様達だと知っております。では今度息子達を連れてきましょう、きっと喜んでくるでしょう』
息子達もいい経験になるだろうと思いそう返事をした。
案の定息子達に『お城で王子様のお子様達と遊ぶか?』と聞いてみたら『あそぶー、ぜったいに友だちになれるもん』と飛び上がってはしゃいでいた。
まだ子供だから身分の違いなど関係はなく、ただ父親の職場に行って新しい友達が出来ると素直に喜んでいる。
それでいい、スナイル様やリリミア様は息子達に身分に媚びることなど求めてない。
平民と貴族の距離を近づけようとしている王子夫妻は新たな王族の形を作っていると国民から好意的に受け止められている。
まさにおとぎ話の『シンデレラ』が我が国を良いほうに変えてくれていると。
誰もが知っているおとぎ話が現実になったと、二人が結婚した当初は騒がれていた。だが今はそのおとぎ話自体が進化している。
新たなおとぎ話『シンデレラ』には、魔法使いのおばあさんではなく魔法使いの美魔女がいて、健気なだけの主人公ではなく前向きでかなりたくましい主人公になっている。それに下町の肉屋の住所まで載っていたり、なぜか袋とじになっているページまで。そこには王子の護衛騎士の性癖が特殊だという架空の設定までなぜか書いてある…。
これは絶対にいらないだろう…。
子供達に読ませる前に、その無駄な袋とじは良識ある大人達によって葬られている。
『後悔するからねー』と言って去っていった誰かを思い出してしまう。
たぶん…間違いないだろう。
どんな手を使ったのかは分からないが、とにかくその袋とじの部分は燃やして記憶から消し去ることにした。
このおとぎ話はまた来年には内容が変わるらしい。どうやらシンデレラのその後が書き足され七人の子供に恵まれた『子沢山シンデレラ』になる予定だという。
まだ実際には子供は五人だが、二人の仲睦まじい様子から七人になる日もそう遠くない気がしている。
◇◇◇
「…おとうさん、もうあさになった?」
寝たと思っていた長男が眠そうな顔で訊ねてくる。きっと明日が楽しみで仕方がないのだろう。眠いくせに困った子だ。
「まだ夜だよ。朝になったらちゃんと起こすから安心して寝なさい、おやすみ」
「…おやす…みな…さ…」
「よい夢をみるんだよ」
眠る我が子に優しく口づけてから、子供達が読んでそのままにしてある『シンデレラ』の絵本を片付け静かに子供部屋から出ていった。
(完)




