さよならアモン
アモンの除隊が決まる。
たった一つの行為で名声を失い、自分の生活さえも危ぶまれたアモン。
アメルアは国籍を問わず、常に再生の可能性を人々に提供する。
彼らの夢の前に転がるのは夢を前に倒れた無数の屍と、痛みを伴う代償だ。
3日後、ついにアモンの除隊が決まった。
除隊する兵士は、物資を届け終わって空荷になった車両に詰め込まれるため、必然的に早朝か夕方になった。
その殆どは戦傷兵であり、兵士は最後の治療費を割いてまで自分解放のクレジットに当てて除隊するのが常だった。
抜け駆けとみなして恨みを買う事もあり、空荷の装甲車には督戦隊が周りを警備し、常に静寂の中に小さな緊張感があったけど他の兵士達も見送りに来る人達がいてこの一角だけか小さく賑わっていた。
アモンが一人一人に別れの挨拶をする。
「マイキー」
「おう。アモン。」
「世話になったなマイキー・・。いつも後方を守ってくれたのがお前だった・・。俺は主民主義国の人間で、コーディアスのような境遇を知らない。俺はお前と比べると幸福かもしれないと、どこかで俺はお前に引け目を感じていたんだ。湿っぽいのは嫌いだが・・俺の除隊を進言してくれてありがとうな・・」
「うん。元気でなアモン!」
「シード・・!!」
「おう!兄弟!!」
シードとアモンが握手をして抱き合う。
「シード、お前はマーデターの時代からアメルアの軍人として戦ってきたんだな!本当にいいのか?」
「ああ。はっきり言って軍隊以外の生活なんて思い付かないし、ジャックとも長い付き合いだ。こっちの方が性に合っているんだろうな」
「ハッキリ言って俺には理解できん」
「だろうな!」
「・・もしも何かを”間違って”クレジットが貯まって除隊できるようになったらどうするんだ?」
「あ?あぁ。そうだな。そうしたら…。アメルアの大陸をエアーバイクで旅したいな。誰かの兵士の受け売りになるが、それが一番しっくりくる答えだと思ったから」
「そうか・・待ってるぜシード!」
「アモン、幸せになれよ!?これは命令だ!」
「ジャックみたいな言い方はよせよ!!元気でな!」
マイキーとシードに挨拶を終え、ついに私の所にきた。
「・・ロロア」
アモンは私を強く抱きしめるので、私も抱きしめかえしてそのまま持ち上げる。
「うぐ!やっぱり凄い力だなロロア!ユナもいるのか?」
「うん。赤いランプが点いてるから私の目を使って見てるよ?私に似てすごく真面目だから、ずっと一緒!」
「心強いな!!ロロア、君がいなければ間違いなく俺はエースに着く前に死んでいただろう。いや、最初のアリゲイツ戦で死んでいたかもな」
「でも、下顎が吹き飛ぶに留まった。それはアモンがツイてるからだよ!」
「そうかなぁ。まぁ、俺はツイてるかもな」
「イェア。間違いない。アモンはツイてる!!」
「アメルアみたいな言い方すんなロロア!俺をここまで導いてくれてありがとうな!」
「うん!!フィアンセにもよろしくね!幸せになりなさいよ??」
「おう!ありがとう!本当に感謝するぜ!!」
アモンと私達は暫く喋った後、遂に出発の時が来た。
装甲トラックの後部ハッチが開き、浮遊担架に乗せた怪我をした兵士を先に運ぶ。
その後に機械化された脚や腕を含む動ける兵士が乗り込み、少し窮屈そうになる。
『では、アモンさん』
督戦隊の頭の傘に『アモン』と表示されて乗り込むように促す。
「帰りの乗り物にしては最高な乗り物だな!」
アモンが詰め込まれた兵士の中で悪態をつく。
輸送トラックなので座る所も無く。
ハッチを閉めても上半身は無防備だ。
「それじゃあ、またいつか会おうぜ!!達者でな!!」
「じゃあなアモン!!」
「またどこかで会おうぜ兄弟!!」
「元気でね!!」
「じゃーな!!」
アモンの手がヒラヒラと振られる。
────
さぁ、フィアンセの待つ家に帰ろう。
トラックのエネルギーコアの回転が早まり、鈍い振動が支配する。
「うぐぐ・・っ」
負傷した兵士が傷が疼くのか呻く。
こんなに負傷して除隊した先はどうなるんだろう?とも思うが・・きっと頼る先があるのだろう。
自由の扉を開いた先は、新しい自分の名前とアメルア人としての住民権と手厚い福祉。
そして回復した名誉とクレジットだ。
これから得られる自由を前にしたら不愉快なトラックの振動も傷の痛みすらも心地よい。
トラックはフワリと浮き、推進力を得て進み始めた。
アモンが窓を見るとシード達が手を振り終えてこちらを見ている・・。
ロロアはアモンを発見するとまた手を振り始めた。
「君は幸せ者だな」
隣の兵士が皮肉を言う。
全身に火傷を負ったらしく、身体のほとんどは機械だった。
「少なくともお前よりな」
アモンも皮肉で返し、ロロア達に会うまでこうした冷たいやりとりしかしていなかった事を思い出した。
クエストがあったら群がり、終わったら解散する。
末端の兵士なんてそんなものだ。
現にエースに侵攻した時に行動を共にした兵士の名前もアモンは知らない・・。
曲がり角に差し掛かり、ついにロロアが見えなくなる。
「ロロア・・マイキー、シード!!楽しかったぜ・・!!」
トラックは作戦で疲れ果てた兵士達の間を走り抜け、
新たに投入されたヘラクレスの車両群を通り過ぎた。
まだ戦場の惨状を知らないであろう綺麗な顔をした兵士達が軍律を守って整列している。
ジャックは、彼らにどんな命令を下すのだろう??
アモンはそう思いながら身震いをして、もはや自分には関係ない事なんだと安堵した。
他の兵士達も外を静かに眺めたり、俯いて眠っている兵士も居てそれぞれだ。
「認証した!!通っていいぞ!!」
門兵が格好だけのスキャンを終えると、アモン達を通す。
厳重な門は2つあり、敵の侵入を防ぐための頑丈なブロックとヘビースパークライフルの備え付けられた櫓。
対空兵器のパラボナビームや対空砲などがあった。
もうこれとも見納めだ。
トラックは廃墟となった高速道路を越えて、森として機能を失った荒野を走った。
破壊されたステゴサウルス。
編隊を組んで空を飛ぶキラービー。
回収されなかった黒ずんで埃まみれになった兵士の装備や、バグズの部品。
それに群がるカラス型メカニロボ。
血と死臭とピリタスの臭いとゴムの燃える臭い。
全てが見納めだ。
立っていられず、寝ている兵士の担架に膝をつく。
「うぐぅ!」
「失礼。疲れちまった」
『敵だ!!バグズ!!!』
トラックの通信が入り、鬨の声と共に装甲板をバスターが叩く音が駆け巡った!
トラックが過ぎた後にZM達が見え、鹵獲したC-1スパークライフルを撃ちながら執拗に追いかけてくる!!
どうやら複数のZMが待ち伏せをしているようだ。
『動ける者は銃を取れー!!』
アモン:「なんでだよ!!俺らを襲っても何の利益もならねーだろ!!」
「多分、輸送車両と勘違いしているんだろう!無理もない!アイツらに関係ないからな!」
「まったく最後の最後まで最高のツアーだぜ!!」
アモンは歯を食いしばりながらスパークライフルを掴むと、装甲板の上の隙間からエイムすらせずに無茶苦茶に撃った。
アモン:「ここで死んでたまるか!!なんの為にこんな辛い思いして除隊したと思ってんだクソが!!」
爆発音と共にトラックが傾き、軽いパニックになる。
頭上を赤いバスターが飛び、その数発が跳弾して兵士達を掠めた。
『バグズの手榴弾だ!!大丈夫だ!問題はない!!』
「問題は大アリだろうが!!」
「ちょっと手を貸してくれ!!」
ほとんど機械の兵士がアモンを呼び、寝ている兵士の隙間からヘビースパークライフルのターナ574を取り出す。
その重いライフルが寝ている兵士の上に置かれてあまりの激痛に悲鳴をあげた。
「ウギャーーー!!」
「叫ぶな!!ここで死んだらもともこも無いだろ!!俺はジェネレータを出すから君が撃つんだ!!」
アモン:「分かった!!」
アモンがターナ574を窓の隙間から出して、兵士が給弾するためにジェネレータの弾丸ベルトを差し込む。
兵士は(いいぞ!)と素早く言って背中を叩き、アモンはZMの居るであろう様々な影に向かって引き金を引いた。
アモン:「くらえ!!バグズ共!!!!」
物陰からバスターが飛んできて、アモンがそれに100倍で返す。
アモン:「くらえ!!くらえ!!」
瓦礫の物陰が吹き飛んで日差しが入る。
物陰のある廃墟が崩れて倒壊する。
アモン:「ここで死んでたまるか!!ここで死んでたまるか!!ここで死んでたまるか!!」
「おい!!9時の方向にバグズ!!」
アモンが射撃したまま9時の報告に降るので道端の土嚢を走って一列に破壊する。
崩れた土嚢から数体のZMが飛び出す。
そしてそのまま道路の真ん中に飛び出し、1体のZMは、周りの援護を受けながら筒状の武器を構えた…。
「おい!!12時の報告にランチャーを持ったバグズ!!」
「う・・・わっ!!」
アモンの背筋が一気に凍りつき、時間がゆっくりになる。
気付けばヘビースパークライフルは沈黙し、見たら引き金を引いたまま手が硬直していた。
本来給弾される筈のジェネレータが絡まり、コッキングハンドルが引かれたまま固まってしまったのだ。
「何をしている!?撃てよ!!撃つんだ!!」
ほとんどロボットの兵士がアモンに叫ぶ。
ゆっくりとした空気のままZMがVX-800を構えた。
アモンは硬直し客観的にそれを見ていた。
『VX-800 シエルマルーア製 対メカニロボ。地対空ランチャー。 ランチャー後部から装填し引き金を引く事でプロペラ式のロケットが射出される。
ロケットは─────』
アモンがパニックになるあまりVX-800の仕様を思い出す。自然と涙が瞳から落ち、どう足掻いてもロケットを回避できない事を物語っていた。
(む!?攻撃中止!!前方からペケポー!!!)
しかし聞き覚えのある3点の連続バスターがZMに降り注ぎ、それと同時に味方のアメルア兵が飛び出した。
「こっちだ!!味方の車両が攻撃を受けている!!」
「直ちに散会し、撤退を支援するぞ!!」
味方の兵士が続々と飛び出し、バスターの嵐をZMに浴びせる。
ロケットランチャーを装備したZMもギョッと仰天し、攻撃をやめて逃げ出した。
「ヒャッホウ!!味方のアメルア兵だ!!助かったぞお前ら!!!!助かったぁー!!」
ほとんどロボットの兵士がアモンの肩をバンバンと叩き、アモンは呆然としながら過ぎ去る兵士達の影と味方の青いバスターを見ていた。
ヘラクレスが飛来し、先ほどZMが居たであろう場所に砲撃する。
『警戒解除!ここから先はもう大丈夫だ!』
やがて兵士達も過ぎゆく風景の一部となり、トラックの兵士達はスパークライフルを置いて安堵した。
アモンは呆気に取られたまま暫く外を眺め。
「クソッタレが!!!こんなモンくれてやるよ!!」
と、アモンは壊れたターナ574を担ぐと、そのまま装甲車の外へ放り投げてしまった。
ターナ574が大きな音を立てて地面に着地し、それもまた風景の一部になって見えなくなる。
「まったく・・本当に、クソな地獄だぜ・・!!!二度と軍隊なんてやるかよ!!」
アモンは叫ぶと、装甲車は自由に向けて走り出したのだった・・・。
───────
「右へ♪右へ♪右の次は左へ♪死を跨いで進む♪それは死の門出♪」
アルトバウの外から兵士達の歌声が聴こえる。
どこか暗い、出撃する兵士を皮肉る歌なのだが今回はお互いの為に歌っているようだ。
今回の作戦では、ここのキャンプ内のほとんど全ての兵士達が出撃するらしく。
どの兵士も自分の武器の手入れや物資の輸送に余念が無く、どことなく空気もピリピリしていた。
私もメンテナンスをしてもらうために“お父さん”を呼ぶ。
本当は大嫌いだけど、私の事をよく知っているにはお父さんしかいないからだ・・。
お父さんを特別なコードで呼ぶと、数時間も経たないうちにサポートカーでやってきた。
お父さんは暫く見ないうちに小さくなり、白衣もなんとなく草臥れてみえた。
ユナもここに来たいと言っていたけど断り。
テリンコとお母さんにも『煙草の臭いだらけで男臭いから来ないでほしい』と伝えた。
私はカプセルに横になると、お父さんが私をスキャンする。
たまに異常があると袋にパックされた小分けされた筋肉ユニットごと取り替え、データにバグは無いか、数日かけて調べた。
───
カプセルから出て身体を動かしてみる。
「“お父さん”ボディに異常はない??」
「ああ。でも本当にエースに行くのかい?」
「異常は無いのね?」
「・・ない。内部も全てクリーンアップしておいた」
「クリーンアップは良いけど、思考回路のバックアップとか余計な事はしないでよ??」
「そんな事しないさ」
「じゃあ、もう帰っていいよ?」
私のそっけない会話に、シードがやってきた。
「ロロア?お父様だろ?俺には父がいない。せっかくきてくれたんだ。少しは感謝してあげるんだ」
「そんな事しなくていいよ」
「・・・・」
「本当に仲が悪いんだな・・。まぁ、いろいろ事情があると思うが・・」
「シードさん。マイキー君。ロロアをよろしくお願いします」
「いや。お世話される側だ。俺らの兵器や戦術じゃ今のエースは落とせない。航空支援が絶たれ、向こうにはメルヴィアエクスプレスが来ているんだ。それにロロア、君がいなければ部隊を繋ぎ合わせることすらできないだろう・・。それだけの損害を俺ら軍隊は出しているんだ。もうジャックやクレジットだけでは部隊を纏める事はできないだろう・・」
私はバーでシードがジャックや他の古参兵士と会話しているのを思い出した。
「それじゃあ、もう帰ってよ。私はメルヴィアの平和を実現するために忙しいの」
「・・・・・分かった」
お父さんは私に何かを話そうとした後に思いとどまり、手を振ってサポートカーに帰って行った。
「いいのかロロア?不吉な事を言うようでアレだが・・もしかしたらこれが最後になるかもしれないんだぞ?」
「別にいいよ。どうでもいい」
私はワズニャンが鹵獲したK−1スパークライフルを分解するとオイルをスプレーした。
シードがアルトバウの外から、お父さんの背中を見ていて。
マイキーは装備品の手入れもそこそこに、私やシードから隠れるようにフラフラと部屋を後にした。
「最近のマイキー、おかしくない?」
私がシードに聞く。
「そうか?まぁ、俺の普通の振り幅が大きいだけかもしれないが…話かけてやったらどうだ?」
「うん」
いつもこの時間、マイキーは屋上で試し撃ちをする。
しかしエースの攻略が迫るうちに、マイキーの落ち着きがなくなり。
いつのまにか部屋にいる事も少なくなった。
いつものように登る螺旋階段。
通りすぎる兵士達も、私を見て敬礼をしたり道を譲った。
───
「マイキー??マイキー!」
曇天模様の空にはアルミの雲が独特な虹色を作り、時に静電気を帯びてキラキラ光った。
へこんだ空き缶が並べられ、マイキーに撃たれるのを待っている。
マイキーは撃つこともせず、内部の空気を熱交換する機械を背もたれにして座り込んでいた。
「マイキー!?何をしているの?」
「あ?ロロアか。メンテナンスは終わったのか?」
「うん。マイキー?それは??くっさ!」
「すまん。すこし酔っ払っているんだ」
見るとマイキーはバーから注いできたビアを水筒に入れて飲んでいた。
顔は赤らみ、呂律が回っていない・・。
マイキーは明らかに酔っていた。
「ビアをバーから持ち出すのはルール違反だよ?」
「いいじゃねえか。誰にも迷惑かけてないんだから」
「それに・・何をしているの!?!?」
「ピリタス・・」
「はぁあ!?!?」
「何もかも忘れられて楽になるんだ。ロロアもやるか?」
私は背筋がゾクリとするものを感じた。
気付いたらマイキーはバーからビアを運び出し、衛生兵しか持つことの許させない精神薬を首に刺していたのだ・・。
私がメンテナンスしている間にマイキーはピリタスをどこから入手したのだろう・・?
「マイキー??一つ言っておくけど、ピリタスって言うのは向精神薬で重症な人やパニックになってどうしようもない人が打つの。健康な人が使用してはいけないんだよ??」
「俺も精神がおかしくなりそうなんだ。打つ資格があるさ」
「だから!そういうものは衛生兵が適切に判断して正しく使用するものなの!勝手に使ってはいけないわ!」
「・・るっせーな!」
「うるせーわ!じゃないよ!!どうしたのマイキー!?」
「・・・」
「何か言いなさいよ!」
「・・・」
私はマイキーに詰め寄った。
「もう分かった。シードを呼ぶから!」
「・・待ってくれ!!」
「は??」
「シードに・・かっこ悪いところを見られたくない・・!」
マイキーは機械にうずくまるように座ると、自分を抱きしめるように小さくなった。
「怖い・・・ロボットが・・死が怖いんだ。。ポイズミーの虐殺を見ただろう?アイツらには殺す事にためらいはない」
「そんなの今に始まった事じゃないじゃない?」
「バカだなロロアは。俺らはアルムシュア条約で守られているんだよ!例えば───」
それからマイキーはポイズミーの虐殺がいかに衝撃的だったかを語り始めた。
───どんなに聞いても、やっぱり私としては理解できないけど・・。
きっと彼らは、自分が撃たれて死ぬ事には他人事で、シードが今まで高度な治療を受けて長生きをしていたように自分達もまた助かると思っているようだ。
しかしアメルア兵を捕らえて損壊するポイズミーやZMとなると話は違った。
本来なら『捕虜の拷問や虐殺』はアルムシュア条約で禁止されている。
しかしZM達やポイズミーの『敵を知り、己を知ること』の中で人間を解剖する事は研究の対象であり、こうした人間を捕らえて実験すると言うのはアルムシュア条約で守られている彼らにとって余りにも衝撃的な出来事だったようだ。
しかし彼らだって平然とZMを虫と呼んで、決闘させたり、装甲車の先端に斬り落とした首を飾っているのに・・。
「ロボが怖い・・死ぬのが怖い・・」
マイキーの手元から未使用のピリタスが転がり、それをマイキーが暗闇で探るようにそれを拾った。
「ダメ!マイキー!!」
「一回だけ・・!やらせてくれ!せめてビアでも・・!」
「それもダメ!!バカ!!」
私が無理にビアを取り上げるのでマイキーの口にビアがかかった。
マイキーはそれすら気にせず、虚な目で私を見ている。
「マイキー?ロボットが怖いなら、私も怖い?」
「・・・あ?」
「しっかり聞きなさい!マイキー!」
私はマイキーの右頬を叩く。
たまたま外の空気を吸いにきた兵士が私達を見てギョッとすると、ニヤリと笑って降りて行った。
きっと別れ話をしているように見えたのだろう・・。
でも目の前にいるマイキーの状況は深刻で、道端で寝ている散財してどうしようも無くなってしまった兵士に似ていたのだ・・。
きっとそんな落ちぶれた兵士達もカウンセラーのメカニロボに頼る事なく、装備を新調するクレジットも無く、道端に腐っていくのだろう。
「しっかりなさい!!男でしょ!!」
さらに左頬を叩き、マイキーは機械に頭をぶつけて吹き飛んだ。
かなり痛かったらしく、後頭部をさすりながらヨロヨロと立ち上がる。
「か・・・!うっ・・いってえ」
私はマイキーの胸ぐらを掴んで叫んだ。
「しっかりしろ!!アメルアは個人主義なんだろ!?アンタが落ちぶれようが腐りようが誰もアンタを助けたりはしないんだよ!!だったらどうするの!?そのままピリタスとビア呑んで腐るの!?怖がらずに希望を生み出しなさいマイキー!!その情けない性根を私が叩き出してあげるわ!!」
私は左手でマイキーの胸ぐらを掴むと、思い切り右手でマイキーの頬を叩いて吹き飛ばした。
倒れ込むマイキーのズボンを脱がし、露出したお尻を左脇に抱えて思い切り右手で叩いた。
バチン!
と言う音を立ててマイキーが反り上がり、私は構う事なくマイキーの尻をこれでもかと叩いた。
「戦場じゃ!」
バチン!
「もっと倍の!」
バチン!
「痛みが!」
バチン!
「あるかもね!!」
バチン!!
「うわー!!!!分かったから、もう辞めてくれー!!」
「マイキーが射撃の練習をして、正気を取り戻すまで──!!」
私はマイキーを持ち上げると、缶のある場所まで運んだ。
「───辞めないからッッ!!」
「ウワーーー!!」
マイキーの身体がフワリと飛び、そのまま射撃の的になっていた缶に倒れ込んだ。
ガシャン!バリン!
と言う物凄い音と共に様々な物が倒れてマイキーが転がる。
腰を思い切り缶の上に強打したらしくマイキーは悶絶した。
「どう!?日頃の鍛錬の上にビアとピリタスで堕落したアナタが転がる無様な姿は!?過去の“マイキー”にあなたは顔向けできる!?!?言って見なさいよ!!!」
「うーーー!うーーー!それにしても・・やりすぎだろ!」
「やりすぎなんかじゃない!!戦場じゃもっとすごい痛みが襲うんだから!!・・そんなんじゃ生き延びれないんだから・・!!私がいなくなったらどうするの!?次の作戦で私は単独任務だと言うのに・・!!」
私もいよいよマイキーの情けなさに悲しくなり、悶絶するマイキーの隣に座った。
マイキーをここまで情けない男にしてしまったのはなんだろう?
どうしたらマイキーを勇気つげて、いつものマイキーに戻すことができるだろう?
「・・怖いんだ・・。アメルアは個人主義だ。これにはシードも介入することはしない・・。放っておいてくれよ」
「放っておけないよ。私達は戦友。きっとシードもマイキーの心の深刻さを見たら助けてくれる」
マイキーは脱力したように座るので思わず寄り添う。
握った手はアルコールの力を持ってしても驚くほど冷たい。
どうしたらマイキーを元気付ける事ができるだろう。
私はマイキーを知ろうと、腕を捲ってナノマシンを探って直接アクセスしようとした。
「やめろよ!!」
「やめないよ!!あなたは確実に破滅に向かってる!」
「なんでそこまで俺の為にするんだよ!!」
「それは…」
心のフィンが高鳴り、私の記憶データが回想を始める。
───なぜマイキーを助けなければならないのか?────
その問いに頭の中の演算データが計算し、何故なのか問いを見つける。
私の記憶の最古は、トオルのデータのコーディアスのマイキーだ。
それから様々なマイキーが映し出され、ZMとの戦いで怯えるマイキーがヒットする。
本当だったらハルミオ小学校のリクトや男子達のように平和な学生生活を送っていたのかもしれない・・。
しかしマイキーは生まれた国の情勢のせいで生活を追われ、自分の生活を取り戻す為に戦場で命を賭けているのだ。
そんなマイキーにどう声をかけ、励ましたら良いのだろう?
なぜ私はマイキーをここまでして守ろうとしているのだろう?
「・・わからないよ!!ただ・・!」
「ただ・・!?」
私はマイキーにキスをした。
「・・・!」
唇を重ね、上唇と下唇を吸う。
そして、そっと離れると思わず口を拭いた。
マイキーも驚いた顔をしたまま口を拭く。
「・・・ロロア・・あの・・」
「何も言わないで。私もよくわからないから。シードには内緒ね」
「・・おう。・・辞めるよ。ビアもピリタスも・・」
「良かった。ビアはバーで呑みなよ。そんなふうに盗んでコソコソ飲まないで」
私はいてもたっても居られず階段を降りた。
「・・部屋に戻ってるから」
「・・おう。俺も直ぐに戻る」
私は頭が熱くなるのを感じながら階段を降りた。
瞳の横に赤く点灯し、ユナが見ていた事が分かる。
ユナ:『ちょっと!さっきには何!?キスしたの!?』
『キスした』
ユナ:『なんで!?!?』
『わかんないよ。したくなったからじゃないの?』
ユナ:『感触が同機しているんだよ!?私のファーストキス!!』
『だったら『感覚』をブロックしたらいいじゃない』
私はため息をつくと部屋に戻った。
「どうだ?マイキーの調子は?」
見るとシードはエースの地図が描かれたホログラムを広げながら、マイキーのスパークライフルを分解して手入れをしていた。
「もうビアもピリタスも辞めるって」
「そうか。それは良かった」
「シード。マイキーは明らかに落ちぶれていたわ。何かかける言葉は無いの?」
「戦闘でのシェルショックは作戦において不利になる。しかし、ビアとピリタスの接種はあくまで個人の自由だ。マイキーがやりたいって言うなら自由にさせるし、そこまで俺が介入する権利はどこにも無い」
「そう言うものなの?」
「ああ。マイキーも”個人”なんだから自分の面倒くらい見れるだろ」
「アメルア人って面白いね。本当に個人主義なんだから」
私はホログラムを見ながら中指と人差し指で『二足歩行の人』を作って突入地点を確認した。
作戦ではアメルア軍の大軍が真正面から進撃し、その混乱より先に私が極秘裏にZMの陣地の奥深くまで潜入する手筈だ。
「またシュミュレーションを再生するか?」
「何度もしたからいい」
その間にも“メルヴィアエクスプレス”と書かれた馬型メカニロボの引く列車が行き来し、ZMの陣地に物資を届けていた・・。
「それにしても、このメルヴィアエクスプレスって頭にくるね。メルヴィアを救う為の戦争なのに、なぜかメルヴィアからの物資が堂々とZMに届けられているなんて・・」
「戦争なんてそんなものさ」
「そうね・・。でも、モヤモヤするよ。なんなのコレ。メルヴィアはどうなっているの?」
「考えだしたらキリがないぞ?それより戦闘に集中するんだ。メルヴィアには敵はいない。そうだろ?」
「・・うん」
「余計な事は考えるな。考えるのはエースを攻略してからだ」
「うん」
「よし!良い子だ!!」
シードに撫でられて、私は作ったように口角をあげた。




