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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/ひび割れる世界
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41 暗躍する者/目指す者たち

あけましておめでとうございます。


 「ふむ、勇者にはだいぶ粘られてしまっていますね」


 魔王城のとある部屋。

 一人の男が報告書を手にしている。


 「作戦そのものは予定通り……となれば勇者の力量を図り損ねましたかね。この勇者は従来よりも当たり(・・・)だったようです。となると後はこちらのジリ貧……何かしら追加が必要ですかね?」


 適当に感想を述べた後に、男は別の報告書に目を通す。


 「……王都侵攻はそれ以上にダメダメでしたね。町の被害は想定の半分、こちらで把握していない実力者でも紛れていましたかね?そして巫女・王族の始末……王女の確保。どれも失敗と」


 魔王軍の目的がどれも果たされていない無残な結果に、男は半ば呆れている。


 「魔王軍は散々でしょうが、まぁこちらの本命の方は少しは順調みたいですから、この際どうでもいいのですが」


 今までの報告書とは異なる紙質・色合いの報告書を眺める。

 こちらには男の目的の一つがきちんと機能した事が示されていた。


 「こうして魔王軍に入り込むのに結構な額を使ってしまいましたが、やっぱりここを利用するのは悪くない手でしたね。後はこのまま〔女神〕が死に、とっとと世界も滅びてくれれば万歳なのですが……未だ目に見える変化がないとなると、何かしらの手を打たれましたかね?」


 女神が死ねば世界も滅びる。

 魔王軍の誰もが知らない……あえて伝えていない事実を、この男は知っている。

 知ったうえで〔女神殺し〕を提案、実行している。


 「比較的質の良い強力な部分を選りすぐったつもりでしたが、これも見立てが甘かったですかね?」

 

 男は指先の黒いモヤ(・・・・)を手遊びのように弄り回している。

 

 「それにしても……新たな女神の眷属ですか。連絡の取れないジェイル君もその人にやられちゃったんでしょうか?今度はちゃんとした私の手駒を送りますか」


 そう言いながら男は手遊びしていた黒いモヤを、両の手を合わせて包み込む。

 そしてその手を開くと、二羽の〔黒い蝶〕が舞い上がった。


 「一方はまぁとりあえずジェイル君の安否を確認しつつ、王都の現状確認を。もう一方は〔新たな眷属〕の調査に行きなさい。あ、眷属は殺してしまっても構いません」


 そして二羽の蝶は飛び去っていった。

 

 「……さて、私のほうはお見舞いに行きますか。品物は対勇者用の何かが良いですかね?魔王様はともかく、周りの皆さんはこの結果にさぞイラついて騒いでいらっしゃるでしょうから、困っているであろう魔王様の好感度稼ぎをしましょう」


 椅子から立ち上がり、部屋の扉に手をかける男。

 そこで何かを思い出す。


 「おっと忘れていました。返事がないのでどうしたのかなーと思ってましたが、私がそう命じていたんでしたね。もう良いですよ。私が居ない間にこの部屋でも掃除しておいてください」


 そのまま部屋を後にした謎の男。

 その場に居る誰かに指示を出すその表情は、とても楽しそうな笑顔だった。

   


 



 「――ちゃんと着いたな。〔レン〕、生きてるか~?」

 「……何とか。正直気持ち悪いですけど」

 「まぁ突貫だったから仕方ないけど。でも家に帰りたいならまた経験する事になるだろうから、今のうちに頑張って慣れとけ」

 「……その時までに乗り心地の改善ってして貰えないですかね?」

 「知らん。会えたら自分で聞いてみろ」


 何処からともなく突如、砂漠に現れた二人の男。

 一人は腰に剣を携えた白髪の青年。

 もう一人は〔レン〕と呼ばれた黒髪の少年。

 少年は顔を隠すようにローブに付いたフードを深めに被っている。


 「それ熱くないのか?」

 「熱いです。何で砂漠なんですか!?」

 「選ぶ余裕が無かったのと、そもそも未完成だから大雑把なんだよ。脱水や熱中で倒れる前に脱げよ~」

 「魔法使ったんでもう大丈夫です」


 そう言うレンは、さっきまでと違い平気な表情をしていた。

 夏場のような暑さに厚着をしているにも関わらず、汗もすでに引いている。


 「このくらいなら普通に脱げば済むのに、贅沢な使い方してるなぁ」

 「僕はモヤシっ子ですから、環境変化への適応能力の低さを舐めないでください」

 「自分で言うなよ」


 呆れる青年。

 だが最早いつもの事になりつつあるため、そのまま平常心で歩き出す。

 少年も後をついて行く。


 「目的地……と言うより、目当ての人の居る所まではどのくらい掛かります?」

 「知らない。地図も知識もないままランダムに放り出されてるんだから、ここが何処かも分からない。ただ人の気配がする方に進んでいる。まずは現地の人と会って情報収集と地図を手に入れる所からスタートかな」

 「……ちなみに人里までは?」

 「とりあえず気配の距離的には二日くらいか?砂漠だからって真っ直ぐ進めるとは限らないけど」


 うんざりした様子の少年だが、歩く速度を緩める事は無い。

 現状でやらなければならない事が決まっている。

 目指す場所……もとい目指す人物の居る場所。

 早急に割り出し、一日でも早く出会わなければならない。

 この世界が手遅れ(・・・)になる前に。


 「あ、この先に魔物居るみたいですね。雑魚っぽいですけど面倒なのでお願いします」

 「はぁ……分かったよ。比較がてらちょっと構ってくる」


 彼らは砂漠を進む。


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