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275 始祖の約束




 『――随分と騒がしくなったな』

 『ふふ、どの種も増えましたから』


 最も古き夫婦の龍。

 後の世では"始祖龍"や"始まりの龍"とも呼ばれる二体の龍は、賑やかになった景色を眺める。


 『あれは…見覚えのない種だな』

 『自然の力が具現化した存在、始まりの種族に刺激されてどんどん多様な種が生まれて来てる。この先はもう把握しきれなくなるわ』


 この世界の生命種の始まり。

 その一柱として生まれた始祖龍はどの種よりも早く知性を獲得し、他種の成長進化発展を見守る。




 「…これが始祖の龍、我らのご先祖様か」


 ほんの少し前の時間。

 まだ新たな龍主が確定する前。

 そんな()を見せられたのはベルゼルオウ。

 新たな龍主となるべく試練を受けている龍。

 霊廟の先で対峙した過去の龍主たちの意志。

 そして今見ているのは()が内包する記憶。


 全ての龍の始祖となる始まりの龍たちの記憶。




 『みんなを守ってあげて。私の代わりに……』

 『あぁ、引き受けた』


 記憶は龍の始祖である夫婦、番の視点で要所を切り取って見せられる。

 様々な種族にとっての転機となる出来事。

 その中には始祖龍の番が別れを迎える瞬間も含まれる。

 片割れが寿命を迎えて眠る。

 残されたのはもう一体の始祖と、その子供である三体の龍。



 「始祖の子、古代龍か」


 その三体は後の世で"古代龍"と呼ばれる存在。

 始祖の直系として生まれ、今に繋がる龍種族の歴史の基盤を作り上げる者たち。


 「始祖の一体はあらゆる種を愛した慈愛あふれる龍、だったか。そこは口伝通りなんだな」


 龍に伝わる始祖のお話。

 妻に当たる存在は、多くの種を愛し母のように守り続けた。

 夫に当たる存在は、そんな妻を愛し守り続けた。

 過酷な原初の生命世界において、多くの種が滅びずに進化の道を歩めたのは始祖龍の守護があってこそだと伝わっている。




 『守る、か。とはいえもはやアレらは守られるだけの存在ではなさそうだ』


 そうして番を失った最後の始祖龍は番の意志を継いだ。

 しかしその頃には他の種も知性を芽生えさせて独自の発展進化を見せ始めていた。

 その中でむしろ龍という強者が、無暗やたらに過保護となれば種の発展の妨げになりかねない。


 『なら私は、最後の守りを受け持とう』


 ゆえにこそ始祖は彼女とはやり方を変える。

 時の流れによって世界は変わる。

 だがその変わる世界の中で変わらぬモノが、その時に既に一つ存在した。



 「…世界の救済装置、方舟か」


 始まりの種は誰もがその存在を知り、しかし時の流れと共に忘れられた存在。

 この世界の始まりに既にあり、終わりに動きだす〔方舟〕という最後の救済。

 その救済装置の守護者となった始祖。


 「始祖亡き後も始まりの意志が、約束が風習伝統として継がれ、今まで途絶えず続いた。全く、なんともズレた(・・・)約束の守り方だ」


 かなり大雑把な血の記憶。

 各所をダイジェスト形式で見せられ辿った龍の約束の歴史。

 龍にとって初めての約束事。

 始祖龍から発せられた〔方舟の守護〕という使命は新たな龍主のベルゼルオウにも継がれた。


 それは龍を守る約束ではなく、龍が他種族を守る約束。

 世界の最後の砦を担う役目。


 「そのやり方に龍は含まれない(・・・・・)。方舟に乗れない(・・・・)龍は最後の時には滅ぶしかない」


 だがその方舟の恩恵を龍は受けられない。

 方舟が救う種の絶滅回避と世界の外へと避難。

 この対象に龍は含まれておらず、世界の終わりが訪れたならば龍だけは救われず見送るしかない立場。


 「…始祖はここまで傲慢(・・)だったのか。いや…確かにその時代には始祖と他では隔絶した強さの差があったんだ。上に立つ者として下を庇護する…だけど今は違う、今の龍にそんな隔絶した強さはない」


 龍を救うことが出来ない方舟を守ることで、始祖の約束の守護役を果たす。

 当時は確かにそれほどの高見の存在。

 始祖龍はむしろ世界を見守る運営側(・・・)の視点を持っていた、それだけの強い力を持っていたのは事実だろう。

 だが今は違う。

 確かに強い力を持つ龍種族だが、始祖から比べれば劣る力。

 逆に周囲は強くなり、その差は確実に縮まっている。

 そして今や龍も明確に世界の一員(・・・・・)

 高見から保護者目線で語れるほど高尚な、隔絶した存在ではもはやない。


 「今は龍だって世界の一員、みんな(・・・)の中に居るんだ。守護者気取りで俺らが救われないやり方なんて継がない。いや…継いでやる(・・・・・)がやり方は変えさせて貰うぞ!反対するやつは掛かってこい!亡霊ども!!」


 歴代龍主の残した意志をハッキリと亡霊と切り捨てる。

 それらの中には明らかな動揺を見せるモノもあったが、大半は静観。

 

 『はは、好きにするとよい』

 「…爺さんか?」


 すると聞こえるのは先代龍主の聞き慣れた声。

 だが姿は何処にも見えず。

 先んじてこの場を出ていった先代が再びここに戻るのは終わりを迎えた時(・・・・・・・・)だけ。


 「…ほら見ろ、龍主ですらこの有様だ」


 そう言葉にして後ろを向くベルゼルオウ。

 歴代の意志に背を向け、そのままゆっくり歩み出す。


 「試練も引き継ぎも終わったろう?俺は帰る。俺が新代の龍主に相応しくないと思うなら後ろから刺してでも止めて見ろ」


 試練の終結を決めるべきは歴代の意志側。

 しかし構わず帰ろうとするベルゼルオウを…誰も止めない。


 「…アホ爺」

 『すまんの』

 

 そして姿を消すベルゼルオウ。

 去り際に一言先代に言葉を残し、彼はあるべき場へと、新たな龍主として帰っていった。

 

 

  



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