08
「お二人はこれを食べたらどうするんですか? 家でも探しに行きます?」
出てきた料理を食べながら、問う。キリカさんは、僕の治療を毎日受けねばならないので、近くに住んでもらう必要がある。まぁ故郷に戻るというなら、それも彼女の選択だと思う。口出しはしない。そっちの方が、例え一か月でも悔いなく過ごせるかもしれない。
「そのことについてなんだがな、少しエメリアと二人で、相談したいんだ。人に聞かれない場所はないか?」
「う~ん……ああ、それなら僕の家へどうぞ」
「家?」
「はい、今は一人で暮らしてますし、この後畑の手伝いに行くので自由に使って下さい」
今日は、ドーモンさん家の草刈をやる日だ。ドーモンさんは大変な目にあったんだからと、休みを言いに来ていたが、そういう訳には行かない。仕事はせねば。
「なぜ、農夫の真似事なんてしている。医者だろお前は」
「この村では医者の治療が必要な患者なんて月に二~三人ですよ。それだけじゃ生活できないので、働かせてもらっているんです。父さんもそうでした」
「ふ~~ん。まぁ患者が少ないのはいいことか」
その通りである。
ルゥおばさんにお金を払い、会計を済ますと店から出た。僕の家は近くなのでこのまま案内してから、畑に行くとしよう。そう考えていた矢先、僕の家の方角から叫び声が聞こえ始めた。
「ローーーーン、どこだーーー、ローーーン」
ガッチリとした体格の青年が僕の名を呼び続けている。あんな大きな声で僕を呼ぶ理由は一つしかない。医者としての仕事だろう。
「いた、ロン助けてくれ。ミッツのやつが大変なんだ。山から岩が落ちてきて、それに当たって血が止まらないんだ」
「落ち着いて下さい。ミッツさんは、今どこに?」
「いっ今は麓近くのシア橋の所にいる」
僕は全力で走りだす。シア橋か、間に合うか僕の足で。自慢じゃないが、かけっこで一等賞なんてとったことないぞ。けれどもその心配は無用だった。なぜならば、キリカさんが右手を僕のお腹に回しヒョイと持ち上げる。右手だけで。
「シア橋というのはどこだ」
「この道真っ直ぐですっ」
「了解だ。動くなよ。すっぽ抜けるからな」
走り出したキリカさんは、とてつもなく早い。これ以上スピードが出る物体はないんじゃないか。そう思ってしまうほどに。
「見えました。あの橋です。って橋が壊れている」
「山からの落石だろう。他に橋は?」
「近くにはないです。迂回できないし、どうしよう」
「……そのままじっとしていろ」
「えっ」
「跳ぶぞ」
キリカさんは言葉のとおり、僕を抱えながら岸から岸まで跳んだ。ジャンプだ。
「ちょっ待って」
僕はこの日、生まれて初めてというくらい大きな声で叫んでしまった。