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 ◇


 綺麗に整備し終えたコートに影が伸び、白いラインがくっきりと浮かんで見える中、息を吸い込む。

「集合!」

 すべての試合を消化し終えて、伊月は男女共に集合をかけた。俯く入屋と、前を向く明智が視界に入るが、伊月はけして表情は変えない。泣いている者、悔しがっている者、色んな思いが交錯する中、伊月は深呼吸をしてから声を出した。

「男女ともに、レギュラーは前に出てきてくれ」

 そう言うと、レギュラーの座を勝ち取った面々が、部員たちの間を縫うように歩み出てくる。整列させ、伊月はレギュラー以外の部員に目を向ける。

「これからはレギュラーを中心に練習を進めていく予定だ」

 一斉に、部員らの表情に嫉妬の色が浮かんでは押し殺そうと必死に抗おうとしている様子が見て取れた。それを見て、伊月は続ける。

「基礎練はこれまでどおりに――ただし」息を吸って、言葉を投げかかる。「練習試合をどんどん入れていくつもりなんだが、それで、お前らはいつまで下を向いているつもりだ?」

 伊月の言葉に全員の顔が上がった。

「負けて悔しい気持ちはあるだろう。当然だ。今ここで乗り越えろなんて言わない。だから充分に噛みしめろ。苦くても噛みしめろ。そしてお前ら、こいつら(レギュラー)との練習試合でその悔しさをぶつけてやれ。そして勝利をもぎ取ってやれ。それが」

 ニッと笑って、伊月は言う。

「お前らの大切な仲間にしてやれることだ」

 日が沈み始め、当たりが一気に暗くなる。その中にたくさんの星が煌めいていた。伊月の後ろに整列するレギュラーに向けられた、エールの瞳。

「こればかりは顧問の古藤先生や加賀コーチ、俺にできないこと……お前らの支えが必要だ。全力で挑んで、全力で支えてやれ。頼りにしているぞ、皆」

「はい!」

 一斉に声が上がり、後ろのレギュラーの女子が涙ぐんで泣きじゃくり始める。そんな彼女を囲み、応援と激励の言葉が飛び交う。男子のほうは涙ぐむ者もいるが、全員が笑顔で円陣を作ると掛け声を上げて青春が溢れ出る咆哮を空に打ち上げた――細かった糸が絡まり合い、互いを引き寄せ合い、太く、強い糸になっていく。強靭な強い糸は絆という言葉に変わり、全員が繋がり合う。ようやく

「ようやく、一つになれたって感じですね」

 涙ながらにむつみは伊月の背中を小突いてくる。「やめろ」と伊月が鬱陶しがると、今度は隣の古藤先生が半泣き半笑いで伊月を小突き始めた。やめろとも言えずにいると、それを見ていた男子らがゲラゲラ笑いながら加わり、女子たちが笑顔になり、むつみは腹が捩れんばかりに爆笑する。もみくちゃにされながら、伊月は叫んだ。

「全員、さっさと帰れ!」

 騒がしい中、一人、コートを見つめている人物がいた。いつも以上に小さく見える背中からは、悔しさの色が見えた。

 入屋だけはまだ、俯いたままだった。



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