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 翌日も晴天、テニス日和。昨日同様に試合がスムーズに進み、部内戦も大詰めに入った。上位六名が決定し、くじ引きでトーナメント表に名前が書き込まれていく。おそらく、部員たちの中で一番気になっていたのは入屋と明智がどこでぶつかるか、だ。シングルスに入っても、ダブルスに入っても、どちらにせよ二人の戦力は斗洲高校現テニス部にとって必要な存在だ。

「あ」

 と声を漏らしたのは三番目にくじを引いた入屋だった。明智はすでにくじを引いて①の枠に名前を書いている。その枠から遠く離れた箇所、⑥の枠に入屋が名前を書くと、全体がざわつき始める。二人のエースがぶつかるとしたら、それは決勝の場だけとなった。

「運命っていうやつは怖いね。こういうふうに仕組んでくるとは」

 伊月はトーナメント表を確認しながら誰にも聞こえないようにひっそりとそう呟いた。入屋と明智は互いに顔を合わせないようにしているようで、明智が先にコートに入ると、入屋はコートの端っこでストレッチを開始する。先日以上に張り詰めた空気が流れる中、明智のサーブで一試合目が始まった。エースの貫禄、そして部長としての重圧を背負った明智の試合は、あっという間に終わった。

 いつもであればここで歓声が上がるのだが、今日は歓声ではなく、両者に向けて拍手が沸き起こった。健闘を称える拍手に、入屋の拍手も入り交じる。しかし、その表情に余裕は見えない。強くなったライバルが目の前で素晴らしいプレーを見せつけてきたのだから、当然の話だ。

 隣のコートの試合も終わり、次の試合も滞りなく終わる。そして入屋が壁打ちコートから戻り、コートに入る。いつもの調子は一切ない。真剣そのものだった。

 女子コートで拍手が起こり、どうやら先に部内戦が終了、レギュラーが決定したようだった。むつみが女子部員にこれからのことを説明し終えると、伊月のほうへと駆け寄って来る。それに続いて、女子全員も男子側のコートへ走ってきた。

「こっちは終わりました。男子のほうは……」

「決勝だ」

 伊月は静かにそう言った。目の前のコートに二人のエースが立つ。ネットを挟んで向かい合い、握手を交わす。二人の眼光がぶつかり合い、一触即発の空気が流れる。コイントスで明智にサーブとリターンの決定権が渡る。明智は一度空を見て、それからリターンを選んだ。ボールを手に入屋が、そして明智がサービスラインまで下がり、構える。

「1セットマッチ 入屋 トゥ サーブ プレイ」

 審判が試合開始を告げる。入屋がサーブに入り、明智はステップを踏み――試合開始直後、二人の全力がぶつかり合った。入屋の強烈なフラットサーブがセンターラインを突き抜け、明智は瞬時に見極めリターンの体勢に入る。明智の安定したリターンは入屋の利き手側にボールを返り、入屋はすぐさまフォアハンドで明智の足下を狙った。対処に間に合わず、明智のボールは空に大きく弧を描いて入屋の前に落下する。入屋はスマッシュの構えからバックハンドの構えに変更、明智の動きをしっかりと捉えてきっちりと決めた。ガッツポーズを決め、入屋は再びサービスラインに戻る。明智は汗を拭い、冷静な表情を浮かべてリターンの構えに入る。そして一球目よりも強烈なサーブを入屋が放ち――次の瞬間、明智のフォアハンド、身動きできないほどの速度のリターンに、入屋はボールに触れることすらできずリターンエースを明智に奪われる。

「二人ともすごい……」

 本音がこぼれた口を手の平で押えたむつみに「この場にいる全員がそう思っているよ」と入屋や明智と戦って負けた部員を見る。悔しそうな表情の中に浮かべるのは、羨望の眼差しだ。両者の試合をじっと見つめている。伊月が見てきた彼らの試合の中で、入屋と明智が手を抜いた試合は一つもなかった。誰が相手であろうとも常に全力で立ち向かい、今も、目の前の相手を倒すためだけに全力を尽くしている。何も変わらない。しかし、負けた彼らにとって、目の前で繰り広げられている試合は、自分たちの試合で手を抜いていたとさえ思えるほどにレベルの高い試合だった。だが、それは違うのだ。

「皆、試合の中で成長している」

 伊月の言葉に一部の部員とむつみ、そして古藤先生が伊月のほうへ振り向いた。

「あいつらも同じだ。全力の一球を打ってそれを打ち返されたら、さらにその上をいくしかない。その繰り返しなんだよ」

 誰も彼もが最初から上手かったわけではない。経験は人を成長させる。しかし、経験は相手がいなければ得ることはできないものだ。彼らには、その相手がいる。切磋琢磨し、同じ目標に向かって全力を出し、鋭い一撃をぶつけ合っている。その相手が伊月にはいなかった。それがとてつもなく羨ましくて、切なくて、どうして自分になかったものがここにあって、過去になかったのかが、どうしても許せなくて。だが、二人のプレーにいつしか溜まっていた鬱憤は削ぎ落されていくように伊月には感じられていた。

 懸命に、必死に、持っているものを全部ぶつけ合っている二人を、心から応援したいと思ってしまう。だからこそ、どちらが勝っても、負けても、大きな拍手を伊月は送りたかった。しのぎを削り合った彼らに、そして

「…………うん」

 試合を終えて勝負がついた二人のいるコートに風が吹き抜ける。しんと静まり返ったコートへ向けて伊月の拍手が小さく響き、それは次第に周囲に広がり、全員の拍手が入屋と明智に送られた。最後の一球、入屋の渾身の一球は、ネットに阻まれて静かにコート上に転がっていた。


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