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試合が始まり、一気に緊張感が高まっていく。それはベンチから眺めている伊月にも伝わってきた。緊張感以上に、伊月が焚きつけたことで燃え上がった闘争心と競争心がコート上で激しくぶつかり合う。
去年の夏と比べると全員が、まるで別人のように強くなった。自分に自信を持つようになり、心も鍛え上げられていた。中でも、やはり入屋司と明智英助は突出し、目立っていた。
ホワイトボードに書かれている二人の名前はAとBに分かれていて、同じグループではない。順当に勝っていけば、勝ち進めば、おそらく二人のレギュラー入りは確実である。しかし、それでも伊月の言葉が相当効いているようで、いつもであれば圧勝しているはずの相手に苦戦を強いられている二人の姿が見られた。全体的にレベルが上がったのだから当然と言えば当然である。それでも、二人は伊月の言葉どおり、全力で試合を行い、次々に試合を白星で埋めていく。悔しそうにしている者もいれば笑顔を浮かべる者もいる。これが勝負の世界。そういうものだと割り切っても、やはりすぐに割り切れないものだ。
順調に試合は進み、消化されていく。女子テニス部のほうもかなり試合が進んで、昼の休憩を挟んでからの試合展開から見て、翌日にはレギュラーが決まるだろうと伊月は思った。一日目を終了した夕方、撮影した表の画像を携帯画面に映し出して眺めていた伊月は窓をノックされ、手動で助手席側のロックを解除した。
「あんなやり方で皆のやる気に火を点けるなんて、すごい度胸ですよ、本当に」
「あのぐらいで何を言う。いつもと変わらんだろ」
むつみが車に入ってきて助手席に座り、シャワーを浴びてさっぱりした顔を近付け、携帯を覗き込んでくる。
「どうしました? 怖い顔になっていますよ」
「……明日には全試合を消化できるはずだ。総当たり戦の表もほとんど埋まっていて、上位はすでに決定している。残り数試合でトーナメント進出の残り三枠が埋まる」
「さすがに入屋くんと明智くんが落ちることはありませんでしたね。どちらも全勝で勝ち上がっていますから」
「まあ、そうなんだけどな」
「何か不満でも?」
「不満はない。少しだけ不安があるだけだ」
携帯を閉じ、腹の奥に抱えている一抹の不安に目を眇めた。




