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動き出した首謀者

山田 一希は、学校からの帰り道、いつものメンバーと

帰ろうと、校門の辺りで時間を潰していた。


携帯を取り出そうと、カバンに手を突っ込んだ瞬間、

指先に鋭い痛みが走った。


慌てて手を見ると、右手の人差し指の先が

パックリと切れていた。

『ティッシュ……』流れる血を押さえようと、

再びカバンの中をまさぐった。

が、ティッシュは見つからず、代わりに

白い紙屑が出て来た。


仕方がないので、その紙屑を広げて指を押さえようとした。

『何だこれ……何か変な形だな……』

それは、鳥にも、飛行機にも見えた。


とにかく今はこれしか無い。

指にその紙を巻き付けると、意外にも

良く血液を吸収した。

白い紙は、みるみる赤く染まった。


いつものメンバーがやって来た。

「ああ、遅いじゃん‼︎ お前、ティッシュ持ってる?」

幸い、友人がティッシュを持っていたので、指の紙を道端に捨てた。


一希と友人達は、大声で喋りながら家路に着いた。

後に残された、血を吸った紙屑には、白抜きになって

文字が浮かびあがっていた事を、一希達は知る由もなかった。


***************


藤本 みなみは、学校の体育の授業で、マラソンをしていた。

校庭を何周も走らされて、もう、ウンザリしていたところだ。

その時だった。

みなみの視界に一瞬、白い何かがよぎった。

凄い速度で、避ける事が出来ず、

その何かは、みなみの額に当たって傷付けた。


思った以上に傷が深く、なかなか血が止まらない。

クラスメートに心配されながら、保健室へ向かうみなみ……


みなみの額に傷をつけたものは、白い紙で出来た

飛行機の様なものだった。


校庭に残されたそれは、やがて風に乗ってひっそりと消えた。


***************


小松 亜希子は、パートの帰りに、夕食の材料を買うため

近所のスーパーで買い物をしていた。

外はもう薄暗い。

急いで買い物を済ませ、駐車場に向かった。


車のドアを開けようとした時、背中に絡み付く様な

視線を感じ、振り向いた。


そこには、迫田 ユキが立っていた。

ユキは、亜希子に向かって何か言っている。


『……してないから』

「え?」

『私、万引きなんてしてないから』

亜希子は動揺した。

ユキと関わっているところを誰かに見られたら……

「ごめんなさい!」

亜希子は慌てて車に乗り込み、アクセルを踏んだ。


ユキが、亜希子の車に向かって、まだ何か言っているのが

バックミラー越しに見て取れた。


亜希子の心臓は、まるで耳元にあるかの様に

ドクン ドクンと、とんでもない勢いで脈を打っている。


恐ろしかった。

いつもの穏やかな佇まいは、今見た彼女からは

微塵も感じられなかった。

もしかすると、本当に万引きをしたとしても、

おかしくないと思える程、様子がおかしかった。


家の駐車場に車を入れ、荷物を降ろしていると、

携帯から、メッセージの着信音が聞こえた。


相手は、ボスママの小田切 祐子だった。

祐子《さっき、迫田さんと話してた?》

見られていたのだ。

亜希子《一方的に話しかけられただけです。私も怖かったから、

急いで帰って来たんです》

祐子《怖かったって何が?》


亜希子は『しまった!』と思った。

この人にあれこれ話すと どうなるかくらい予測出来たはずなのに……


口が滑った。

でも、無視は許されない。

亜希子《少し、様子がおかしかった気がします。でも、

私の気のせいかもしれないです》

亜希子は、言葉を選んで そう返信した。


祐子《でしょう?あの人、今日も あそこで万引きしたらしいわよ》


嘘だ。ユキは、「自分は やってない」とハッキリ言っていた。

でも、亜希子にはユキをかばう勇気が無かった。

本当に僅かだが、亜希子自身がユキを疑い始めていたのだ……


祐子《彼女、精神科に通ってるんだって。何するか分からないわよ》


さっきの様子からいって、何か精神的に疲れているのは間違いないだろう。

そのせいで、本当に万引きをしてしまったのかもしれない。

けれど、確たる証拠もない。

亜希子は迷った。


亜希子《そうかもしれないですね。少し距離を置いた方がいいかもしれないですね》

亜希子はそう返信した。


ユキに対する悪意は、亜希子の中に全く無かった。

ただ ただ、祐子との会話を終了したいがために、

返した言葉だった。


亜希子は、ユキに対して申し訳ない気持ちと、

自分自身に対する嫌悪感でいっぱいだった。


***************


ーー山裾村ーー

朝からとてもいい天気だった。

昼食の後、お気に入りの縁側へ行き、

日向ぼっこをしていた。


庭先からクロが現れ、縁側の引き戸をカリカリと

外から引っ掻いた。

私は、クスッと笑いながら引き戸を開け、クロを迎え入れた。


実家へ戻ってからというもの、携帯の電源は落としたまま、

TVもほとんど見ず、静かに 静かに暮らしていた。

求めていた日常だった。


私は寝転がって、クロを撫でていた。

突然、クロの耳がピンと立って一点を凝視した。

クロの視点の先を、私も見た。

その先にあったのは自宅の電話だった。


私の視線が電話に追いついた瞬間、ベルが鳴った。

私の身体がビクッと震えた。


滅多に鳴らない実家の電話。

母は留守の様だ。

仕方なく受話器を上げた。


相手は、坂口 真実。

私の元同僚だった


真実がすごい勢いでまくし立てる。

『ああ、出てくれて良かった。実家の電話番号探すの大変だった

んだからっ!あんた、携帯切ってるでしょ?あ、そんな事 いいや!

あのね、梓が入院したの。美咲、梓と連絡取ってる?携帯切ってる

くらいだから取ってないよね』


私は正直驚いた。

「梓が入院……? どうして……?」

『それがさあ、あんまり大きな声で言えないんだけど、

あの娘、不倫してたらしいの。相手はウチの会社の

人らしんだけど、その不倫相手の奥さんに刺されちゃったって……』


「え?不倫?刺された?」私は、頭の中がパニックになった。

梓が不倫してたなんて、全く知らなかった。

やっとの思いで「梓の容態は?」と聞いた。


『命に別状はないって。傷も浅かったみたいだし。

入院先教えるね、お見舞いに行くでしょ?』


私は、真実の教えてくれた病院と、部屋番号をメモした。


『美咲、いつまでそっちに居るの?また、こっちへ

帰ってくるんでしょ?』


「……考えとく」私は、真実に曖昧な返事をした。


電話を切った後、暫く考え込んでいた。


果たして私は、梓のお見舞いに行きたいのか……

彼女の顔を見たいと思っているのか……


ただ、気にはなった。

翌日、梓を見舞うため 私は、海原市へ飛んだ。






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