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それからの日々

わたしは良く山へ行くようになった。


山に行く時は何かしら差し入れを持って。


ミトリはわたしを気に入ってくれたようで、いつもコムラと一緒に待っていてくれた。


キムロはとても気まぐれ。


自分の来たい時に来て、帰る時も勝手に帰る。


何日も一緒に過ごした。


そしてコムラがある日、湖に連れて来てくれた。


わたしが来たがっていたことを、覚えていてくれたのだ。


でも水羊羹の差し入れが必要だと言っていた。


だから水羊羹を持って、わたしは湖に来た。


…何でもここの社の住人が、水羊羹が大好物らしい。


湖は丸くて大きかった。


湖の真ん中に、小さな社があった。


そして湖と土の間に鳥居があり、そこから土の道が伸びて、中心部へ繋がる。


わたしとコムラとミトリは、水羊羹を持って鳥居をくぐった。


「―ここにいるのはミオって言ってね。結構気難しい性格なんだけど、水羊羹をあげれば機嫌良くなるから」


水羊羹の好きな神様、か。


―うん。悪い気はしない。


やがて社の前に来ると、コムラとミトリは足を止めた。


「りん。悪いけど挨拶は一人で行うのが決まりなの」


「ボク等がいるから危険は無いと思うけど…一応、気をつけて」


…コムラ、注意したいのか怖がらせたいのか、分からないよ。それじゃあ。


わたしは苦笑して、祠へ近付いた。


「―こんにちは。はじめまして」


祠へ声をかける。


「ミオ、あなたの好きな水羊羹を持ってきたの。良ければ姿を見せてくれない?」


するといきなり祠の扉が開き、中から二本の細い腕が伸びて、わたしの腕を掴んだ。


「きゃっ!」


「りんっ!?」


「…やかましいのぉ」


声は若い女の子なのに、口調はウチのお祖母ちゃん以上に年寄りだ。


小さな祠から、細い女の子が出てきた。


ミトリが十歳ぐらいの女の子なら、この子は十四歳ぐらいの女の子。


水色のワンピースに身を包み、眠たそうな顔をしている。


「久し振りの人間、か。コムラとミトリの気に入り…いや、キムロも含むか。珍しいのぉ、お嬢さん」


ミオはわたしの腕を掴んだまま、大あくび。


「しかも私の好きな水羊羹まで持参しおって…気が利くというか、バカと言うか」


ミオの目がわたしを見た。


―濃い青。黒に近い青い大きな目。


「―キレイね。ミオの目は」


「おうよ。目は力を表す。美しさもまた然り」


「うん、キレイ。…で、いつまで掴んでいるの?」


「んっ…ああ」


ミオはやっと離してくれた。


…体温が少し冷えた。


「はい、お供え物」


やっとわたしは水羊羹を渡せた。


祖父と祖母、実は永久村では一番の権力を持っている。


と言うのも元々、祖父の家が代々永久村の村長だからだ。


今は祖父の甥、つまりわたしにとっての叔父が村長を務めている。


駅に近い所に家を建て、そこに叔父一家は住んでいる。


そのせいかおかげか、贈り物がやたらと多い。


祖父と祖母の家にもおすそ分けがしこたま送られてくるので、コムラ達への差し入れはそこから来ている。


…ちなみに叔父ではなく、祖父と祖母の権力が強い理由は、叔父は村のアピールの為に外に出ていることが多く、二人は村の相談役みたいになっているからだ。


だから人望も厚い。


貰い物―主にお菓子などを差し入れすると喜ばれた。


今日は老舗の水羊羹の詰め合わせセット。


ミオはバリバリと包装紙を破り、箱を開けて笑顔になった。


「おおっ! 香楽の水羊羹ではないか! まだあったんだな」


…ミオ達が言うと、歴史を感じるなぁ。


ミオは小倉のカップと備え付けのプラスチックのスプーンを取った。


そしてフタを開け、食べ始める。


「ん~~~! 何十年経っても変わらぬこの味! 生きてて良かったわい」


「そっそう…。喜んでもらえて良かったわ」


「ミオ、りんは湖で遊びたいんだ。良いよね?」


コムラが真面目な顔で言うと、ミオはこっちを見ないまま。


「好きにせい」


…上機嫌で答えた。


一応湖の主に許しを貰ったので、わたし達三人は湖の周りを散歩することにした。


「キレイな所ね」


湖の周りには木が囲むように生えていて、とても涼しい。


「ミオも大人しくなったしね」


「ねぇ、ミトリ。ミオってそんなに怖いの?」


「怖いって言うか…」


ミトリとコムラは互いに顔を見合わせた。


「昔、ミオはお供え物を持たずにここへ来た人間は、湖で溺れさせていたんだよ」


「えっ!?」


コムラの口から、とんでもない言葉が飛び出た。


「まあ罰の一つだったんでしょうけど…今思うと、性格悪いやり方よね」


ミトリはしみじみと言った。


「だからりんには水羊羹を持ってくるように言ったんだよ。ミオの大好物だから」


「そっそう…」


この湖で、ねぇ…。


わたしは湖に視線を向けた。


静かでキレイ。祖母が言った通り、ここで昼寝をしたら、気持ち良さそうだ。


「ねぇ、せっかくだし、ここでお昼寝しない?」


グッドタイミングでミトリが言い出した。


「せっかく来たのに昼寝?」


「あらだって、りんはそれが目的で来たかったんでしょ?」


「うっ…」


ミトリは変なところで記憶力が良い。


「りんがしたいなら良いよ」


コムラは笑顔で言ってくれた。


「…じゃ、しましょうか。お昼寝」


そうしてわたし達三人は、木陰で昼寝をすることにした。


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