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5 お耽美?

短めですが・・・。

 「御茶受けは?」

「道明寺 です。」

畳に滑らせた器を手に取り、すっす…と回すと部長は口を付けた。

「・・・ん、うまい。」

・・・そこは“結構なお点前です”、でしょう・・・。砕けすぎ。

まぁいいけど・・・と思いつつ頭をわずかに下げた時だった。

思いっきりよく襖が開いて、どかどかと入り込んできて、長い足を放り出すようにして寝ころんだ男。

「「慧」ちゃん。」

部長と私の声が被った。


 「だいたいね、医者の息子ごときに遅れを取って可愛い透に迷惑かけるなんて・・・使えないな。」

にっこり微笑んで毒舌を吐くのは、茶道部部長にして3年主席の小鳥遊 要。

「あいつ、何で透に構うわけ? 対抗意識?」

投げ出した足を思いっきりよく扇子で叩き付けながら、道明寺をそっと口に運ぶ。

茶道家元の家に生まれ、高校生にしてすでに免許皆伝。卒業と同時に家元就任すら決まっている生粋の粋人。

“あーん”と言いながら道明寺の残りを私の口に放り込み、

「・・・か、透狙い、か?」

と言う。

“そりゃないでしょう?”といった顔をして二人を見ると、はぁ~とため息を付かれた。

・・・なして?


 私たちの付き合いは、長い。

それこそ生まれた時からの付き合いだ。

もともと御祖母様の師匠が小鳥遊 要の家の傍流の人間で、御祖母様が御祖父様と結婚したのち新しくこちらへ越してきた時に紹介されたのが本家の小鳥遊流だった。

要は本家の二男坊。

本来であれば跡を取る筈の長男は、まったくと言っていいほど才がなく本人もそれをよく知っていて、流派を支える裏方へと喜んで回った。

その上には更に姉がいるのだが、ファッションモデルをしている彼女に跡を取る気はなく、しかし自分の高名を利用して、流派の名を売ることだけは忘れない。

御鉢が回ってきた末っ子の要は、これまた周囲が唸るほどの才があった。

『よく出来てるわよねぇ、よかった。無理だったら未来の旦那に継がせるしかないじゃないのって思ってたから。』

とは姉である郁の台詞だった。

『それでもいいんじゃない?』

と要は言ったのだが、

『嫌ですよ。私は3番目あたりでこそこそしているのが一番好きなんですから。』

当時の彼氏で今はしっかり姉の旦那に収まっている小鳥遊流師範の小鳥遊 京一郎は、真っ黒に透けて見える笑みを浮かべて微笑んでいたらしい。

 

 小鳥遊流は歴史があることと敷居が高いこともあって、結構セレブのお弟子さんが多い。

私たちは(慧ちゃんや暁ちゃんも)生まれた時から御祖母様に連れられて茶室に通わされた。

何と慧ちゃんは幼稚舎の頃遊んでてン十万の茶器を割ったこともあるらしい。かくいう私は漆喰の綺麗な茶室の壁にクレヨンで落書きをした。そしてそれが今もって残してある。

・・・嫌がらせだ。

と言ったことがあったが、要ちゃんが微笑んで否定した。

『人聞き悪いことゆーでないよ。芸術作品だろう?・・・お前、これ何を書いたって教えてくれたと思う?』

その丸と線と点の生き物にモデルがいるのかと、こっちの方が聞き返すと、

『“要ちゃん”って言ったんだよ?嬉しいだろう?』

・・・幼稚舎の私のバカ。

4歳の自分のほっぺを抓ってあげたい。

しかもよりによって何で赤。何で赤のクレヨンをチョイスした、ちび透。

茶室以外では“要ちゃん”と呼ぶことを強要されている私は(ちなみに長男は成明さんなので“成ちゃん”、長女は郁さんなので“郁ちゃん”、そして何故か京一郎さんまでもを“京ちゃん”と呼ぶことを強要されている)、いい意味“妹”、悪い意味“ペット”扱いらしい。

・・・いいんですけど。

どっちにしろ可愛がってもらっているのは分かっているから。

つい先日婚約を果たした成ちゃんには餌付け方面で可愛がってもらい、郁ちゃんには着せ替え人形扱い(これが何気に結構シンドイ)、そして要ちゃんはというと・・・。


「透、こっち視線、顔あっち。」

あっち、こっちって…だいたい帯が背中を押して痛い・・・辛い。これって軽くブリッジ入ってますよね・・。体育苦手なんですけど。

「そんなの運動には入らないよ・・・それよりモデルなんだからもっと体力付けてよ。」

カシャカシャとシャッターを切りながら勝手なことをほざいてますが要ちゃん・・・いつ私がモデルに?

「ごめんなぁ。」

言いながら襟元を広げるなっ。裾を乱すなっ。

「おっ、いい感じ。」

・・・どんな感じ?

「透、こう・・さ、トロンとした瞳作って。」

高難度の要求です。素人に配慮なしです。

大体“とろんとした瞳”ってどんなのさ?

こう?

「それ、死んでる魚の目。」

じゃこれ?

「・・ただの藪睨み。」

じゃ、こうだっ!

「それは半目開けて寝てる人の目。」

そんな人、いるんですか・・。

「・・・・焼き豚、角煮、酢豚に豚足。そー、それ!。」

あぁ・・食べたいです。出前でもいい!駅前の周來苑さんにっ!

その後順調にシャッターを切られ、撮影は終了。

「透、お疲れ。本当に残念な子。」

 そう、要ちゃんの趣味は写真。

風景から静物・人物まで、本人が気が向いたものを撮りまくる、という感じなんだけど結構これが評判良い。

そもそも興味を持ったきっかけが、姉である郁ちゃんの仕事現場に遊びに行った時にカメラに触れさせてもらったことで、その時のカメラマンさんが郁さんの撮影中暇をしていた要ちゃんにプライベートカメラを貸してくれて「何でも気が向いたものを取ってごらん。」と暇つぶしを提案してくれたことらしい。

カメラの詳しいことは何にも知らないまでも要ちゃんはカメラを弄り倒して色々撮ったりムービー廻したりしたらしい。

その帰りには○ックカメラに郁ちゃんの腕を引いて入って行った、というからガッツリはまったらしい。そのころ要ちゃん12歳、すぐに招集メールが回ってきましたとも。

最初は普通の写真だったはずなんだけど、最近の要ブームが“お耽美”。

・・・・御年頃なんだね、要ちゃん。

でも難しい要求は辛いのよ。“憂い顔”とか“しどけなく”とか“官能的に”とか、小説で読んだことがある言葉なんだけど、実際見たことないから分かんない。

艶っぽい表情を要求されてもさっきみたいに”死んだ魚の目”なんて言われてしまうのさ。

大体本職がそばにいるんだから、郁ちゃんにお願いしたらいいのに、と言ってみたこともありました。でも

「あとあと高くつきそうだから、いや。」と却下。

確かに・・・お金持ちのくせして郁ちゃんはお金大好きさんだから。(一度守銭奴と慧ちゃんが口にしたらサバ折り掛けられたので、口にしません)

「それに素材はいいんだよ、素材は。」

カメラを仕舞いながら要ちゃん続ける。

「ただなぁ、もうちょっと艶がつけばなぁ。」

“イロ”って何ですか?

「鉄壁の過保護キングがなぁ・・。」

それって理事長補佐様の事でしょうか。


随分と久しぶりです、生きてます。

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