黄泉比良坂
初めての投稿です。
誤字脱字、たくさんあると思いますが
楽しんでいただけると幸いです。
黄泉比良坂。
この世とあの世を隔てる境界。
日本神話において、伊邪那岐命が亡き妻である伊邪那美命を連れ戻そうと訪れたとされる場所。
俺は今、その場所に立っていた。
「……すげぇ」
思わず声が漏れた。
目の前に広がる景色を、食い入るように見つめる。
木々に囲まれた静かな場所。観光地として整備されているとはいえ、ここには独自の空気があった。
もちろん、本当にあの世へ続いているなんて証拠はない。けれど、そんなことはどうでもよかった。伝承が生まれ、語り継がれてきた場所に、今自分が立っている。
それだけで胸が高鳴る。
「じいちゃんにも見せたかったなぁ…」
ぽつりと呟く。
幼い頃、俺に妖怪の話をしてくれたのは祖父だった。
最初は寝る前に聞かせてくれた昔話だったと思う。
天狗に河童、座敷童子。人を化かす狐に、山で人を惑わせる怪異など。
祖父の話を聞くたびに、俺の頭の中には見たこともない存在たちの姿が浮かんだ。
漫画やアニメも妖怪が登場する作品を好んで観てたのも、それが影響しているのかもしれない。
やがて、興味はただの好奇心では収まらなくなった。
妖怪とはなんなのか。
どんな姿をして、どんな力を持っているのか。
なぜ人々はその存在を語り継いできたのか。
土地が変われば伝承も変わる。同じ名前の妖怪でも、地域によって姿や性質が異なることさえある。
知れば知るほど、分からないことが増えていく。
だからこそ、面白い。
大学で民俗学を学んでいるのも、大学院でさらに深く研究したいと希望しているのも、突き詰めればそのためだった。
「……さて」
俺はスマートフォンをしまい、改めて周囲を見渡した。せっかくここまで来たのだ。もう少し、じっくり見て回ろう。
そう思って一歩踏み出した、その時だった。
ーー風が止んだ。
「……ん?」
さっきまで聞こえていた木々のざわめきが、ぴたりと消えていた。鳥の声も聞こえない。
静かすぎる。不自然なほどに。
背筋に、ぞわりとしたものが走った。
いや、気のせいだろう。
そう思おうとした瞬間、視界の端が揺らいだ。
「え…?」
足元が分からなくなる。
地面は確かにあるはずなのに、踏みしめている感覚が消えていく。慌てて近くの木に手を伸ばした。
届かない。気が遠ざかったのではない。
周囲の景色そのものが、黒く霞がかっていく。
「ちょ、待っ…!」
声が途切れた。
暗闇。
上下も、前後も分からない。
自分が立っているのか、落ちているのか。
それすら判断できなかった。
心臓がうるさい。
息が浅くなる。
怖い。
何が起きているのか分からない。助けを呼ぼうにも、どこに向かって叫べばいいのかさえ分からない。
それでも。
頭の片隅で、どうしようもなく場違いな考えが浮かんでいた。
ーーまさか、神隠し…なのか?
馬鹿げている。
そんなものが本当に起こるはずがない。
けれど、今の自分に起きていることを説明できる言葉が、それ以外に見つからなかった。
そのとき。
『ーーーー』
声がした。
耳から聞こえたのか、それとも頭の中に直接響いたのか。分からない。言葉だったはずなのに、何を言われたのか思い出せない。
ただ、その声を聞いた瞬間、胸の奥を、何かがかすめたような気がした。
懐かしいような、ひどく遠いものを思い出しそうな。そんな感覚。
「誰、だ…?」
返事はない。
恐怖で体が強張る。
それでも、目を凝らした。
何も見えないと分かっていても、見ようとした。
そこに何がいるのか。
何が自分を呼んだのか。
知りたかった。
そして次の瞬間、意識が途切れた。
子供の頃から妖怪が好きで
妖怪をメインにした小説を書くのが夢でした。
いろんな妖怪を紹介できたら嬉しいです!




