プロローグ
曇天はすでに雨雲へと変わっていた。
薄暗い集合墓地は泥にまみれて、土をすくい上げて掘り起こすたび、頬は土気色を重ねていく。なかなかの労力で、筋肉の疲労に身体は温まっていたものの、とうに天辺をまわり身体は凍え始めていた。口から白い息がその細さを増していくのに対して、彼はクタクタの体に鞭打つ覚悟で、スコップを固く握り直した。
披露しきった頭では、ロクな思考はされておらず、ただひたすらに自らの信仰する神が与えた聖句を唱え続ける。その許されざる蛮行が、その身の献身が、ホントウに許されないものなのかを再三と聖書に問いかけ続ける。その度、許されるべきではないと、自答を繰り返す。
墓掘り。あるいは、墓泥棒と呼ぶべき悪行。ほとんどは、墓に埋められた生前のお宝を目当手で行われること。
しかし、彼――カルバン牧師は、決してお金欲しさに墓掘りをしているわけではない。ましては、一切の利得すら廃して、言うなれば献身のため、墓暴きをしているのだ。
乖離した己の信仰は、神の御心に委ねていた。
やっとの思いで地面から顔を覗かせたのは、死体だ。埋められてから数日と経っていないが、棺に入れられていないのが災いしたのか、腐敗が進んでしまっている。
徒労を感じ、呆然と立ち尽くす。雨の音と心臓の音がやけに大きく聞こえた。しかし、意を決して、その死体にナイフを刺し込みーーー。
カルバンは心臓を拾い上げた。




