次回への幕間——試練の予感
「ミラディアは……やっと逝けたようですね……」
そうして、少し気落ちしたような、それいて優しさに満ちた言葉を話すのは、その顔をフルフェイスヘルムで覆った女性【魔種因子】保有者——、【無貌のクーニグンデ】である。
「あの娘は……、我らと違い……【魔種因子】による強制力が強かったからな……。少々見ていられなかった……」
そうして優しげに微笑むのは、明らかに強者に見える、顔に古傷を持った髭の老剣士【魔種因子】保有者である。
「我らは……そういった機能としてアヤツに生み出された存在……、それゆえに葛藤もなく示された【運命線】を進むのみ……。だがミラディアは絶望の果てに魂が死んでそこを利用された……、我らとは似て非なるもの……」
「ええ……ですから彼女は……、その心の奥の苦しみをそのまま抱えることになった……。かつての自分を自分と理解しながら……それでも他人として認識ができる私たちとは苦しみが違うでしょう……」
その【無貌のクーニグンデ】の言葉に——、老剣士【魔種因子】保有者は、少しさみしげに、それでいて目の前の女性【魔種因子】保有者を慈しむような目で見つめて言った。
「主だった身内がすでに居ない私と違い……、お前は……まだ……」
「大丈夫です……、私は、たとえ過去に愛した者であろうが……、【運命線】に従って殺せます……。そういう存在として生み出されたのですから……」
「だからとて……心が苦しまぬわけでもあるわけでもあるまい……」
その老剣士【魔種因子】保有者の言葉に——、女性【魔種因子】保有者は俯いて黙り込んだ。
「……アヤツに知られて……、そしてこうして生み出された時点でもはや我らに安息はない……」
——だが、かつての私の記憶と心が……、
……せめてお前でも救われてほしいと、願わずには居られぬのだ……。
その老剣士【魔種因子】保有者の優しげな眼差しと言葉を、女性【魔種因子】保有者は俯いて静かに聞く。
そして——、女性【魔種因子】保有者は小さくため息を付いて言った。
「……それこそ無理な話……。貴方も……これから【運命線】に従い——かつての真逆を成さねばならない……」
「うむ……、すでに聞いておったか……、アヤツに【運命線】を示されたのを……」
その老剣士【魔種因子】保有者の言葉に、女性【魔種因子】保有者は頷いてそして黙って見つめる。
老剣士【魔種因子】保有者は静かに微笑みながら語る。
「ふふふ……これもまた宿命……か……」
かつて私は——、
【エルデンの魔窟】に【旅の魔法使い】の駒たる大魔女リリィを追い詰め……、そして討伐した——。
それを再び——、今度は……、【旅の魔法使い】側として再現することになるとは……。
——因果な話よ……。
その言葉に女性【魔種因子】保有者は問う。
「……悲しいですか? ……ガルデン様……」
「いいや……、それは定められた【運命線】でもあるがゆえに……、私は躊躇うことなくすべてをなせる……。そもそもが、生前も似たような性分だったしな……」
ただ一つ、個人的に心にある想いは——、
あの孤独に濡れていた大魔女リリィが……やっと手に入れた正しい愛……。
それがどれほどのものか確かめてみたい——、
「……ただそれだけだ……」
そうして——、かつて勇者騎士ガルデンと呼ばれた、その当時【月星教会聖騎士団】最強であった老剣士は——、
——異国では【絶剣のシヴァ】を名乗っているその【魔種因子】保有者は、その心にかつての【エルデンの魔窟】の光景を思ったのである。
◆◇◆
●ミラディア
リリィの同僚たる【魔種因子】保持者。ある意味チート臭い無敵能力保持者。
【旅の魔法使い】を崇拝し、それ以外の世の男をゴミとみなすミサンドリスト。
多くの男——、最後の一人は子供すら作った夫、に浮気されて裏切られたことで、男の性を下劣と定めるようになり、それらを絶滅させる事を望むようになった。
その思想の正しさを証明するために、自身が持つ無敵能力に、本来付ける必要のない制約——それも【深い愛情を互いに向けている男女の、その子どもに対しては機能しない】を加えている。
その本来不要な制約は、男女間の愛——特に男の愛は、一瞬の世迷言だと証明するためのものである、と彼女自身は語っている。
無論、その【制約】という隙をつかなくとも、能力の再起動時を狙えばよいのだが、本編中の二回目の戦いの際は【旅の魔法使い】のサポートによってその隙がほぼなしにされており、相対したリリィは苦戦を強いられることになった。
男性の生殖器を腐らせる毒素を手にした長剣に宿す能力を持つ、対男性戦闘が得意な剣士系魔種因子保有者。なかなか優れた剣術の使い手でもある
——と、表向きは少し歪んだ思想の者に見えていたが、実際はかつての後悔を利用されて操られていた、ある意味哀れな女性。
彼女の言動やその無敵能力の制約に至るまで、全てがかつての絶望と後悔の潜在的な具現であった(実際、当時はあそこまで極端に拗らせてはいなかったようだ)。
無論、彼女は最悪な勘違いを切っ掛けに自分から【魔種因子】を受け入れて多くの災厄を引き起こした者であり、その点では許されざる者ではある。
しかし、そこまで追い詰められた切っ掛けに、かの【旅の魔法使い】による浅からぬ干渉があった様子がうかがえるため、どちらにしろ【旅の魔法使い】や【焦魔帝グラムザグ】が諸悪の根源にして、その人生を台無しにした根源であることには違いはない。
かつてはリリィを心配して何かと世話を焼いてウザがられていたらしい。
●ディアナ・ソードエンペラー
剣帝ディアナ。ミラディア戦において、突如空間を切り裂いて現れ、ユウトたちを支援して、最終的にミラディアの【魔種因子】に致命傷を与える謎の仮面聖騎士。
その本名は最後までユウトらには示されなかったが、この解説の場ではハッキリと明記する。
その剣の冴えはかの騎士団最強シルヴィンをも超えて、ある意味で全てをかっさらっていく裏主人公。
そもそもが単純な剣術のみで【上位魔種】程度なら圧倒できるほどであり、さらに【魔種】としての力を解放すると、相手の表層意識に瞬間的に干渉して一瞬だけ動きを止める【精神侵食】の応用——【閃の魔眼】、対象のあらゆる魔法を直接切り裂いて、魔力へ逆変換して自身の力として取り込む【吸精能力】の応用——【廻天破剣】、という技を使用できる(もちろん、これらだけが彼女の技の全てではない)。
これらの能力は剣術との組み合わせを想定した応用技であり、剣士としては素人なリリィはそんな扱い方が出来ること自体知らなかった。
そんな彼女は、後天的ではない【魔種の血を引く者】であり、その力は暴走することなく完全に支配下においている。
その正体は、まあ賢明な読者ならばお察しではあるが、彼女が今回果たした使命はある意味でかなり危険な使命であった。
かの双児女神から直接【剣帝】という二つ名を授けられたらしく、その本気の戦闘能力はこの時点(17歳)ですでに世界最強格に到達している。
●ルクシリア
何かとウザい行動を繰り返す道化。
一応リリィからは【魔種因子】保有者として見られていたが、【旅の魔法使い】から父上呼ばわりされるなど、明らかな異質さを出し始めている。
本気だとどうも騎士団最強シルヴィンの戦闘速度を超えるらしく、明らかに異常な戦闘能力を隠しているフシがある。
まあ剣帝ディアナには【貴様ごとき】呼ばわりされたがw
その正体は?!
●旅の魔法使い
気がつき始めている人もいるだろうが、誰からも【旅の魔法使い】としか呼ばれない謎の男。
ただルクシリアのみ【■■——】と、伏字表示でわからないが、正しい本名を呼んでいるらしい。
なぜ? どうして? そもそもルクシリアを父上と呼ぶ意味は? と、謎しかない存在。
まあ現状は性格が悪い老魔法使いでしかない。




