開幕 与えられし使命と次なる試練
その少女——、現在17歳を数えるその【魔種の血を引く娘】は、グラーベン王国聖騎士団本部内を団長室へと向かい歩いていた。
そして、その扉の前に至った彼女は、扉をノックして言葉を放った。
「リフキンド団長……、光翼小隊隊長——■■■■、帰還いたしました……」
「ああ……、よく帰りましたね……。どうぞお入り下さい……」
「は!」
その言葉に従って、その少女——、白みがかった黒髪に黒い瞳をもった【聖騎士】は、扉を開けて団長が待つ部屋へと入っていった。
そんな彼女を笑顔で迎える団長。そして——、
「長旅お疲れ様ですね……、先の——ローラッド皇国での任務は【根源魔種】を相手にしたとか……」
その団長の言葉に、苦笑いしつつ少女は答える。
「ははは……、そこそこ骨の折れる相手ではありました……」
その答えに満足そうに頷いて笑う団長だったが——、直ぐに真剣な眼差しに表情を直して言った。
「では……、早速ですが、すでにご両親からも聞き及んでいることと思いますが……」
「はい……、先日お話のあった件が本格的に実行されるのですね?」
その少女の答えに団長は静かに頷く。
「そうです……、これは霊峰の御方様がたによって定められた最重要任務……、だからこそ貴方をこうして帰還させました……」
「はい……、でも——私が介入できるのは一部のみ……、問題を完遂するべきなのは当事者……」
「……それが失敗した場合……、世界にどのような影響があるかはわかりませんが……。しかし……」
真剣な表情で少女を見つめる団長に、少女は静かに微笑んで頷いた。
「……いいえ、私は……彼らを信じます……」
「……」
その笑みに頷く団長。そして——
「では……、今から直ぐに……かの霊峰へと向かってもらいたいのですが……、移動は直ぐに可能ですか?」
その団長の問いに、少女は笑顔で答えを返す。
「ええ!! 構いません! 私はいつも元気ですから!!」
その言葉に団長は笑みを深くして言葉を返した。
「ふふふ……その意気です。では早速——御方様がたと面会して……、そして……」
「はい! 任務を果たします!」
「よろしく、お願いしますよ……、■■■■」
その団長の期待の眼差しに——、
——聖騎士であるその少女は不敵な笑いで答えた。
「我らが双児女神様がたより授かった二つ名——、【剣帝】の名に相応しい働きをご覧に入れます!」
かくして——、グラーベン王国月星教会聖騎士団——、果ては全月星教会聖騎士団の最強戦力——、
——剣帝■■■■の、定められし運命とも呼べる重要任務が始まったのである。
◆◇◆
グラーベン王国某所——、月夜の闇にて……。
「……【旅の魔法使い】様——、お疲れではないですか?」
そう言って隣を歩む老人を敬うのは、金髪碧眼の女性の姿をした【魔種因子】保有者である。
それは——、かつて闇紳士レイレノールが、リリィと初めて再会して帰還した、その時に【旅の魔法使い】の隣で憤っていた、あの【魔種因子】保有者であった。
そうして歩む二人の背後には——、
悲しげで怯えた表情で周囲を見回しながら歩く【ルクシリア】——、
その顔をフルフェイスヘルムで覆った、全身に幾つも傷が見える、おそらくは女性と思わしき【魔種因子】保有者——、
明らかに強者だと分かる、背に大剣を帯びた顔に古傷を持った髭の老剣士の姿の【魔種因子】保有者——、
——という三人が静かに後を追って歩いていた。
「この国も……久しぶりだな……」
そう感慨深い様子で老人——【旅の魔法使い】は呟く。
「ええ……でも、今度こそおしまいですわ……。まあ、どちらにしろ……、男が支配者として立つ国など……暴力的な戦にまみれて滅びるものですが……」
そう言って怪しく笑う——、【旅の魔法使い】の隣で歩む【魔種因子】保有者の名はミラディアと言う。
「……ああ、また……」(始まった……)
そう背後でボソボソ呟く【ルクシリア】に、フルフェイスヘルムの女性【魔種因子】保有者は苦笑いを向ける。
さらに隣の老剣士【魔種因子】保有者は小さくため息を付いた。
それらの行動に目ざとく気がついたのか——、ミラディアは背後にいる三人を睨む。
その視線を受けて、三人はそっぽを向いて知らないふりをした。
「……彼の地への再侵攻を始めようという段でこのような事態になるとは……な」
そういって目をつむるのは老剣士【魔種因子】保有者である。
「かの霊峰……、そして双児女神の領域……、現在は双児女神の盟友たる【竜貌のアインセル】とその妻たちが管理している……」
その老剣士【魔種因子】保有者の言葉に、フルフェイスヘルムの女性【魔種因子】保有者が何も言わずに俯く。
【竜貌のアインセル】
【根源魔種】最強格の一人にしてルア・ベレーザの盟友。そして——、双児女神と同じく人間へ友好的な【根源魔種】の一人。
古の時代において余りにも粗野であったために、ルア・ベレーザを妻に迎えたいと言い放った瞬間、振られた挙句に頬を叩かれた——という逸話を持つ男。
しかしながら、それ以降粗暴な態度を改めて、それまで路傍の石程度にみなしていた人間――、但し女性限定で紳士的な態度を示すようになり、次第に女性を自身の能力で眷属化して妻として迎えるようになる。
——その人数は現在311名——。
恐ろしいことに、アインセルは一人一人の名前だけでなく出会った経緯からくどき文句、そしてそれに対する女性の答え、さらにはその妻の趣味趣向、性癖すら諳んじる事が出来るらしく、さらには——それらの女性全員正しく正攻法で口説き落としたと言う、あまりに偉大なハーレム王である。
ルア・ベレーザが行方不明になる直前は、彼女とは良い友人関係であって、再び口説くような事はしておらず——、そして——、
双児女神が行方不明になって以降は、その領域の保護にあたっている、かなり出来る漢でもある。
その姿は、一般的には、頭部が【角の生えた竜頭】となった、身体の各所が甲殻で鎧われた長身の男性といった風であるが、実はそれは外向けの仮の姿であり、唯一妻である女性のみその本来の姿を見ることが出来るらしい。
それを見ることが出来る妻たちが、十年以上の間柄でも未だにため息をついて見惚れるという信じられない噂も存在する。
【ルクシリア】は、【竜貌のアインセル】の——あの時の形相を思い出しながら——悲しげな表情でボソボソと言葉を発する。
「……ああ、そこに再侵攻し——、せめてあの妻どもあたりの一人の首でもほしかったのに……」
——何かと役に立ちそうな女が揃ってましたし……。
その下品で悪辣な言葉に、【旅の魔法使い】の隣で歩むミラディアは憎悪の籠もった目で【ルクシリア】を睨んだ。
それに対し——、
「ひ! すみません!!」
【ルクシリア】は——、ひどく怯えた様子で、隣のフルフェイスヘルムの女性【魔種因子】保有者のその背後に隠れた。
その様子を隣で笑ってみていた【旅の魔法使い】は、ミラディアに言葉をかける。
「ふふふ……、父上はああいった性分だ……、気にしても仕方があるまい……」
「……はあ、そうですね……。男など……ああいう下品で最悪なものですから……」
——でも……、
「……【旅の魔法使い】様は違いますわ……」
ミラディアは——、明らかに男性差別者的な発言をしながら、【旅の魔法使い】に対してだけは媚びるような行動を取る。
それを静かに黙って——、少し悲しげに、フルフェイスヘルムの女性【魔種因子】保有者と老剣士【魔種因子】保有者は見つめる。
——そして……、
「【旅の魔法使い】様……、もうそろそろ集落が見えるかと……」
そうフルフェイスヘルムの女性【魔種因子】保有者が言う。
同じく——、老剣士【魔種因子】保有者が……、
「……まずは手を出さずに様子見でよろしいですね? 【旅の魔法使い】様……」
……そう言葉を続けた。
その二人の言葉を聞いて頷く【旅の魔法使い】。そして——、
「……ただ……、ミラディア……」
「はい……何でしょうか【旅の魔法使い】様……」
「君には……リリィ確保に動いてもらいたい……」
その【旅の魔法使い】の言葉に、少し驚き……、その後憎々しげに顔を歪め……、最後に笑顔に戻ったミラディアが、恭しく頭を下げて【旅の魔法使い】に答えた。
「承知いたしましたわ……。貴方様の御心のままに……」
そうして——、リリィへの刺客がまた一人——
——【エルデンの魔窟】を目指す。




