28.追跡の影
麗が立ち上がった瞬間、龍禅寺を取り囲むパトカーのサイレンが響き渡る。その音色は寺の静寂を打ち破り、周囲の木々に響き渡る風も途端に冷たく感じられた。麗の心臓は激しく鼓動し、息もつかせぬ状況に身を置いていることがわかった。
刑事たちの影が、わらわらと集まってくる中警隊員達に交じって長く伸びる。彼らの姿は、麗の内面に深く根ざした強迫観念の源であり、今この瞬間に、現実に追い詰められていることを示していた。双雲は慎重に麗に近づき、その耳にささやく。
「ここには秘密の出口がある。逃げるがよい、麗。私は彼らに捕まる運命にあるが、それは必要なことなのだ。そして東京へ戻れ。今度こそ、真実を明らかにするのだ。行け。」
麗は双雲の語りに頷き、示された秘密の地下道の入り口へと向かう。
しかし、そこには予期せぬ困難が立ちはだかった。
二人の刑事がその場に仁王立ちになり、エンブレムと任務バッジをこれでもかと見せつけてきた。
「鯖戸麗さんですね。あなたを殺人の容疑で逮捕します。」
しかし、麗の内なる平穏と強さが融合し、彼女の眼差しは決然としている。愛の花のパワーが彼女を包み込み、その力が二人の刑事をも凌駕する。
「ん…なんだ…?」
流石の刑事も様子がおかしいことを察知し、二人とも拳銃に手を添えた。
「私ではない!」という言葉は口にしなくても、麗の全身から伝わる気迫がその意思を代弁する。刑事たちはその力強さに徐々に圧倒され、なんと…現実には見えない不思議な力で、屈強な体が後方へ吹き飛んだ。
双雲は手錠をかけられながらも、その様子を遠くから眺めていた。双雲は、麗の精神世界での成長が、現実世界にも及んでいるということに目を疑った。
「まさか麗は…、そんな…”空想具現化能力”まであるというのか。……ということは…!」
「ほら、さっさと歩け!」双雲は警備隊員に後ろからまくしたてられた。そして、犯人隠匿の容疑で逮捕された。
麗は、気を失っている刑事を横目に秘密の地下道をくぐり、町へと続く階段を降りていく。新幹線の切符が握られ、東京への逆行が新たなる展開を告げる。




