17.素晴らしき日々
ここから見る景色が、好きだった。この町にひとつだけある、誰が作ったのかもわからない塔。誰が、何のために作ったのかもわからない。その最上階に、私はいた。
「綺麗…」私はそう呟きながら、手すりに寄りかかって目の前に広がる町の景色に見入った。
そっと、肩に手を置かれた。そうだった。君との待ち合わせ場所だったね。
私はその手に自分の手を重ね合わせ、ゆっくりと振り向いた。
「久しぶり」
麗が振り返ると、久々に会う悠が立っていた。
「びっくりしちゃったよ、こんなところで待ち合わせなんて」と悠が笑った。
「私のお気に入りの場所なの。」麗は微笑んで答えた。
悠は麗をまじまじと見つめ、「元気そうだね。…あ、そだ」と言いながら、後ろ手に隠していたものを取り出した。
「退院おめでとう。」悠が花束を差し出した。
「わー、ありがとー!」麗は目をきらきらと輝かせながら花束を受け取った。
心の中で麗は喜びを感じた。今日は退院祝いの特別なデートの日だった。車椅子生活から解放され、数日前、身体特例手帳の返上手続きも行った。でも、精神の方は…天城先生からは、認可が下りている限り所持しておくように言われた。…グレーゾーンなのに?まだ夢幻症候群を発症してしまう可能性があるということだろうか?
また天城先生は退院時に、Dr.アルからの手紙を手渡してくれた。そこにはこう書かれていた。
「コンコン。アルだよ~。麗ちゃん、退院おめでとう。お祝いの気持ちを込めて、新生活の為の部屋を用意しました。きっと気に入ると思うよ。あと高校だけど、後見人をマルコにして一緒に暮らしてるってことにしといたから、堂々と行っていいからね。生活費とかお金のことに困ったら、ここに電話してね。私は用事があるので、スイスに行きます。また会う日まで~。」
軽やかで冗談交じりの文面の下に、電話番号が記されていた。Drアルは、細かいところまで手を打ってくれていた。
そういうわけで、麗は高校生で一人暮らしをするという、非常に稀なケースとなった。また施設逃亡以来行っていなかった高校にも復学することができた。
「じゃ、行こっか」と悠が言うと、麗ははっとして、笑顔を返した。
「うん」と麗が答えると、二人は塔を後にした。
その日は、悠と二人で公園を散歩することにした。春の陽気が心地よく、花々が咲き誇る中、二人は手をつないでゆっくりと歩いていた。
「麗ちゃん、本当に元気そうで何よりだよ。」悠が優しく微笑むと、麗もにっこりと笑った。
「うん、悠と一緒にいると元気が出るよ。こんな日に、しかも自分の足で散歩できるの、本当に幸せ。」
二人は公園のベンチで休憩しながら、互いの手を握り合い、静かに春の風景を楽しんだ。
また週末には、悠の家で二人で料理をすることになった。麗は料理が得意ではないが、悠の指導のもと、楽しく料理を作った。
「麗ちゃん、その切り方、すごく上手だよ。」悠が褒めると、麗はうれしそうに笑った。
「悠が教えてくれるから、楽しいんだよ。これで二人で食べる料理、美味しくできるといいな。」
二人は協力して料理を仕上げ、テーブルを囲んで美味しい食事を楽しんだ。
別のある晴れた日には、悠と麗はホームセンターに訪れ、早くも将来の家具や生活について話し合っていた。二人は手をつなぎながら、店内を歩き回り、様々な家具やインテリアを眺めていた。
「麗ちゃん、このソファー、我が家にぴったりじゃない?」悠は笑顔で指さしたソファーを見ながらおどけながら言った。
麗も興味深そうにソファーを見つめ、「確かに、この色合いもいいし、座り心地も良さそうね。リビングに置いたら、ほんとに居心地良さそうだよね。」
二人は他にもキッチン用品や寝具、さまざまなインテリアを見て回りながら、将来の暮らしを想像していた。
「ねぇ、悠、もしも私達が結婚したら…!こんなダイニングテーブルがいいな。家族みんなで食事ができるような大きめのテーブルが欲しいかな。」麗は笑顔で提案した。
悠は頷きながら、「確かに、家族が集まる場所って大事だよね。こんなテーブルで、みんなで楽しく食事ができたらいいな。」
二人はまだ見ぬ将来の家庭生活について妄想を膨らませながら、お互いの手を握り続けていた。その日、ホームセンターでの楽しい時間は、二人の関係をより一層深めるきっかけとなった。




