14.再会
麗はその思い出をDr.アルに語った。思い返せば、あの時の自分は本当に無力だった。しかし、あの時の天城先生との出会いが、少しだけ心の支えになっていた。
「その時の先生の名前は?」アルが尋ねる。
「確か…天城…先生とか」
「OK. じゃあ、天城先生、そろそろいいよ」と言って、アルはドアの方を見た。
その瞬間、ドアが静かに開き、天城先生が入ってきた。麗の心は驚きと喜びで溢れた。
「先生!」麗の声は自然と高くなった。
天城は優しく微笑んだ。「久しぶりだね、麗ちゃん。」
天城は、小さなクリニックで実績を積み重ね、今ではこの総合病院の精神科で科長を務めていると説明した。そして、今の話は全て聞かせてもらった、と言って、麗に今の状況を説明し始めた。
「まず、特例手帳を二つ所持しているね。身体の方は回復してきているからもう要らなくなるだろうし、精神の方、実はこれも…不要なんだ」
麗は驚いた表情で天城を見つめた。「どういうことですか、先生?」
天城は深く息をついて答えた。「麗ちゃんは、今はグレーゾーンにいるんだ。つまり病気じゃない。理由としては、通常の生活が営めているからだ。君は病気と健常者の間を行き来している、ある意味最も不安定な状態なんだ。」
「でも先生、手帳を交付されたのには、何か病気が診断されたんじゃ…」麗は戸惑いを隠せなかった。
「うん、強いて言うなら…麗ちゃんは”夢幻症候群”を患っている。その瀬戸際にいる。数年前僕が危惧したのはこのことだったんだ。HSPは鋭い感受性のせいで、この発展型である夢幻症候群に移行しやすい。」
天城は続けた。「辛いこともあるだろうけど、僕はここの精神科にいるから、何かあったら呼んでくれればいいよ。」
麗は少し躊躇しながらも、もうひとつ気になることを尋ねた。「あと、もうひとつ聞きたいんですが…この白髪はいったい…」
天城は少し困ったような顔をした。「これは…僕にもわからない。ただ、階段から落ちた時の頭部への強いショックが関係しているのか、もしくは…残念だけど、この数カ月の心身への極限までの高負荷が原因だ。人間は、死などの極限状態を経験すると、科学では解明できない不思議な状態になることがあるんだ。身体的にも、精神的にも…。」
話が一段落すると、アルは膝をぽんと叩いて、軽く笑いながら立ち上がった。「さてと、感動の再会も、診察も終わったことだし、我々もそろそろお暇するとしますか。」
マルコも頷いた。「左様で。」
天城先生は次の診察があると言って部屋を去った。アルが去り際に思い出したように立ち止まり、振り返った。
「あ、そうそう。一つ聞き忘れてた。麗ちゃん、”マインドダイバー”の存在って知ってる?」
「マインドダイバー?」麗は首をかしげた。
アルは神秘的な微笑みを浮かべた。「この世界にはまだまだ不思議なことがたくさんあってね。どこかに、心に潜り込める人たちが存在するんだ。彼らの記録は古代からあって、数々の偉人や、歴史の転換点の裏には必ず彼らの存在があった。私はそのことも調査している。何か心当たりのあることは?」
麗はドッグカフェでの出来事が頭をよぎったが、今はまだ話さないでおくことにした。「ううん、なにも」
アルは少し残念そうな顔をした。「そっか。じゃ、また気が向いたら来るね。」アルはそう言って、マルコと共に部屋を去った。
麗は一人になり、天城先生との再会と、アルの言葉を反芻しながら、新たな疑問と期待で心がざわついていた。




