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魔剣と見えない敵

――ガサガサガサ


「ここだ、旦那が言っていた秘密の裏口ってのは」

「こんな所にホントにあるのかねえ」


 背丈を越える高さまで育った(あし)の草の間に小舟を隠し、島へ上陸した二人の男は廃墟になった礼拝堂の丁度真裏に当たる場所で草で覆われた斜面に隠された錆びた小さな入り口を見つけ、中へ入って行く。


 依頼主によると、ここの地下は(かつ)てマージナルでのA級犯罪者を収容する施設だったそうだ。見た目こそは教会であったが、それはある意味アルカンディアに対しての嫌がらせのような施設であり、有事の場合彼らに武器を渡してここを守らせるつもりだったのかも知れない。だが敗戦後、島の引き渡しで引っ越す際に看守も囚人も慌てて逃げて行った結果、アルカンディア側も特に何もせずにそのままの状態で放置されたらしい。


 二人の任務はこの監獄施設の最奥に隠された武器庫の中から魔剣を手に入れる事であったが、ウキウキ気分の小男を尻目に兄貴分の男は少し依頼主の表情が少し気になっていた。


「兄貴、街にもどったら早速どこ行きやす?銀貨十枚や二十枚の危険な仕事より、小娘の監視と物探し程度で金貨五枚なんて、ぼろ儲けですなあ」


「そうだな」


 貰った古ぼけた地図を頼りに収容施設の奥へ奥へと続く通路を魔石ランタンを掲げ、歩いて行くと丁度行き止まりの所に重厚な黒い左右開きの扉が現れ、真ん中に錆びれたチェーンで固定された鍵があった。


「お、これじゃないっすか?兄貴」


「ああ」

 答えながら貰った黒い鍵を取り出ししばらく見つめていると、小男が怪訝(けげん)な顔をして様子を伺う。


「兄貴どうしたんすか?早く開けないと時間ないっすよ」

「お、おう、今開ける」

 自分の感じる漠然とした不安を隠す様に、鍵穴に鍵を差し込むと以外にも錆びている割に簡単に留め具が開き、チェーンが床にガチャンと音を立てて落ちた。


 上機嫌で小男が扉を開けると、そこには沢山の剣や槍、防具などがひしめき合ってはいたが、そのほとんどが錆びて埃まで被っていた。他に見渡せば、油の樽や火薬などもあったが、どれも使えそうな物はほとんど見当たらない。


「なんだこりゃ、ガラクタばかりで道具屋に売りに行っても買取拒否されそうな物ばかりだ」


「うむぅ、ゴミだな。それより例の剣を探さないと」

 取り合えずあちこちの棚や木箱などを開けつつ目的の剣をさがしていたが、小男から声が掛かる。


「兄貴、これじゃないっすかね?箱の装飾からしてこれっぽいっすよ」

 見れば黒く細長い木箱に金色の装飾が施された立派なケースをズルズルと引きずりながら男の目の前まで嬉しそうに持って来た。

 流石に十年以上放置されていた物である為、埃を被っていはいたが、湿気の酷い場所にあった物とは思えないほど、綺麗なケースで慎重に留め具を外し中を確認すると禍々しい形をした赤黒い剣が治められていた。


「なんだこれは…」

「す、すごい!こんな凄そうな剣は初めて見た!道具屋で売ったらいくら値がつくか……え?」

 横で喜んでいる小男を無視し、男は見た瞬間、全身の毛が逆立つような感覚を覚えるが同時にその禍々さに目を奪われ彼は思わずケースから剣を手にしていた。


(なんだこれは…あの依頼主、こんな禍々しい物を使って何する気だ?……だがなんだ?こんな素晴らしい剣を依頼主に渡す?…冗談ではない、これは俺の物だ、誰にも渡したくない)


「あ、兄貴?どうしたんです?そんな恐ろしそうな剣を眺めちゃって」

 そう小男が口にした瞬間、ぐるりと顔を向け普段ではしない様な恐ろしい形相で睨んでくる。


「この剣の美しさが分らんとは相変わらずお前は馬鹿だなぁ」

 小男の前で剣を掲げると、持ち手のガード中央の装飾と思われた丸い部分が割れ、目玉がギョロリと現れた途端にそこから発せられた赤黒い瘴気に男は包まれる。


「あ、あに…」


 そしてしばらくするとその瘴気は霧散し、中から現れたのはコボルトとは言い難い異様な姿の現れ、唖然としている小男を尻目に魔剣を一閃する。



――ドガァーン!!!


 小男の横を暴風が吹き荒れ、真横をブーメランの様な光線が走り轟音と共に鉄の扉が砕け散り、全てをなぎ倒した先には一本道が出来ていた。


「ハハハハハ!!渡さん!誰にも渡さんぞ」


 そう叫びながら作られた外への道を駆けだす男に、小男は唖然としながらその後ろ姿をヨロヨロと追いかけるのが精いっぱいであった。



◇◇◇



――ゴォオオン


「ん?」

 いつも通り湖の水面に釣り糸を垂らしていると、背後の教会から異様な音が響き、地面が少し揺れた。

しかもその中から聞こえる音は外に向かって来る様に聞こえ、私の中で”逃げた方が良い”と警鐘が鳴り出すのを感じた。


 すぐさま釣り竿を放り、臭いを辿れない様に水辺に生える背の高い(あし)の群生に身を隠し、しばらく様子を見ていると廃墟の礼拝堂からヌっと現れたのは異様な姿の狼系の魔物であった。


「グルルルル」


(なにあれ?あんなの見た事ない…って言うか、今まで全く気配さえなかったのに)


 何処に潜んでいたのか分からないが、それよりも気になったのは魔物が持っている禍々しい剣だ。先ほどから見ていると持ち手と刃の間に目があり、それがキョロキョロと動き気持ち悪い。


(このままやり過ごしてどこかへ行ってくれるのを待つしかなさそうだな)


 しばらく辺りをウロウロしている魔物を隠れて眺めながら水に浸かっているお尻が”冷たいなあ”なんてのんきに構えている所に突然、何処からか飛んで来た石が近くに落ち水音を立てた。


――トプン!


「え?」


 その瞬間、剣に付いている目玉からこちらに向き、葦の隙間から覗いていた私と目が合ってしまった。


「ミツケタ…」


「やばい!見つかった」

 慌てて(きびす)を返して逃げる為に立ち上がったが、しばらく浅瀬に浸かっていたブーツは泥に沈み足を取られて倒れ込んでしまう。


バシャン!!

「わぷっ!」


 その瞬間、頭の上を風が通り過ぎ顔を上げると先ほどまで背の高さ以上あった葦の群生が半分に刈り取られ、破片が近くにパラパラと落ちる様子を見て私は背筋を寒くする。


「な、なんなのこいつは」

 にじり寄って来る相手を見ながらブーツの紐を解き、脱ぎ捨てると裸足になって逃げ出す。しかし、元々小さい島で大きな木が少ない分、隠れる所が限定されてどこまでやれるかわからない。


 魔物の視線を遮る様に草むらの中を進み、何とか距離を取って身を隠すがすぐに小石を誰かに投げられ居場所がバレしてしまう事に苛つく。明らかに別の誰かがいるのが分るが、そいつの位置が分からない以上、最終的には廃墟の地下に戻るしかなさそうだ。とにかく武器がない以上、魔物と監視者の視線を避ける事を念頭に逃げるしかないのだから。


 そう結論を出し、草むらから抜け廃墟へと駆け出した刹那、右足首に激痛が走り倒れ込む。


――バシッ

「痛っ!!何?今の」


 ジンジンと痛む足首をみると、飛んで来た石が当たり赤く腫れて血が流れ出ていた。すぐに周りを確認するが、やはりどこから飛んで来たのかも分からない上、剣を持った魔物は今の声に反応してこちらへとズンズン近づいて来るのが見えた。


「くっ、中に入れさせないつもりね……」

 痛む足を庇う様に立ち上がろうとするが、ヨロヨロと体のバランスが崩れ羽根の補助を入れて立ち上がるも、走る事はおろか歩く事さえままならない。


 歯を食いしばり痛みに耐えながら何とか前に進もうと、顔を上げたその目の前にはすでにニタリと笑う魔物の顔があり、思わず体が硬直する。


 次の瞬間、高く掲げられた禍々しい剣は私へと振り下ろされた。





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