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Shall We Dance?

「あ、あいつ今日は張り合ってこないなと思ったらあんな美女と逢瀬かよ」


 隣に居るレイがボソッとつぶやく視線の方向をみると、中庭の通路を照らす街灯の影で正装のダフニスは赤と黒のシックなドレスを纏まとった大人っぽい女性と話し込んでいるのが目に入った。


「ふ~ん、割と恋多き男なのね」


「その点、俺は一途だしな」


「え?そうでしたっけ?」

 ドヤ顔のレイに間髪入れずサージ君がツッコみを入れると、慌てた様に”そんな事はない”と色々言い訳をし始め他の女性陣からもジト目で見られて更にアワアワしていたが、私はというとダフニスの隣の女性から奇妙な感覚に疑問が生じていた。

 その感覚はどちらかというと自分に近い存在に感じ、やがてそれは多くの人々の流れの中へと小さくなって消えてゆく。


「…ペルちゃんまた考え事?」


「あ、なんでもない、ちょっとステップを考えてただけ。さあ会場に入りましょう」

 考え事をする癖をレイに見られ適当言って誤魔化したが、きっと彼には別の事なのを見透かされてるのかもしれない。


 会場ホールに入ると、全校生徒と関係者合わせて二百人程度が軽く入るほどの広さの場所で、二階にも会場を取り囲むようにテラスがあり、中央には二階に上がる大きな階段が広がっていた。


 天井を見上げると、女神の絵画が描かれて中央には大きな太陽を模したシャンデリアが煌々(こうこう)と会場全体を照らしている。その下で中央を開けた感じに左右で飲食出来るようにテーブルが置かれてグラスを持った着飾った生徒達が舞踏会の開始を待っている。


「はい、ペルちゃん」


「あ、ありがとう」

 細いグラスに入った飲み物をレイから受け取り、中央二階の踊り場を見ていると鮮やかな青色のドレスを着た生徒会長が現れて、いよいよ舞踏会開始の挨拶が始まろうとしていた。



「え~お集りの皆様こんばんは。今年も恒例となっています学期末の舞踏会に参加して頂きありがとうございます。一年生は初めてだと思いますが、特に授業の成績に影響するとかは一切ないのでこの機会を利用して人脈の幅を広げるもよし、将来を誓い合う伴侶候補を探すもよし、皆さま自由に楽しんで行って下さい。それではここでマージナル王国第二王子ジルベール殿下のご挨拶と乾杯の合図をお願いします」


 会長がそう締めると後ろのドアが開き、正装を纏った殿下が現れその後ろに並ぶように金髪ロールの髪をアップにした赤いドレスのメティと同じように黒髪をアップにし、白い髪飾りとドレスで着飾ったロザリーの二人の婚約者候補が付き従っていた。


「お~二人共派手に着飾ってるねえ」


「メティは堂々としているのにロザリーったら目をキョロキョロと落ち着かないわね」

 見れば殿下の後ろで場慣れしてないのがありありと分かる挙動が分る人には分かり、クスクスと笑われる始末であった。


 奏功している内に殿下の祝辞が終わり、皆がグラスを持って前へ掲げ準備をし始める。


「それでは、学園の皆の栄達を願って…乾杯!!」


「「乾杯!!!」」


 百五十人近くの生徒が一声に声を上げ、乾杯と叫びあちこちでグラスを合わせる音が響くと同時に、音楽隊が一斉に緩やかな曲を奏で始めた。


 グラスのジュースを飲みながら見ていると、ロザリーが殿下に手を引かれて中央に入りゆっくりとダンスを始める。それに合わせて周りの生徒も次から次へと加わり大きなダンスの輪が出来て行った。結局メティは彼女に先手を譲って近くの人と談笑しているが、同じ婚約者候補なら先手というのは大きい意味を持つという事にあまり固執していないような気がするのは大人の余裕か、それとも婚約自体に興味が薄いのか彼女の気持ちはまだよく分からない。


「ペルちゃん、どうぞお手を取って頂けますか?」

 不意に気が付くと目の前に片膝を下して手を差し伸べて来たレイがいた。


「え?あ、私でいいの?」


「もちろん」

 そう言うレイの手の平にそっと自分の手を添えると、そのまま手を引かれダンスの輪の中に連れ出されて行き慌てて頭の中で思い描くステップを繰り返すが、どうにも体が付いて来なくたどたどしくなってゆく。


 するとそれを見たレイは上手くダンスを踊れるように私を誘う様にリードしてくれると自然に体が動いて緊張で固かった気持ちが軽くなり普通にレイの顔を見ながら踊れるようになれた。そんな私を見ていつものニカっとする笑顔を見せてくれる。


 ワルツの音楽がフェードアウトし、一曲目が終わると初めてのダンスで少し息が上がっていたがそれは心地よい疲れに感じ、空いているサイドテーブルへと移動し腰を下ろした。そのタイミングでテーブルに冷たい飲み物を出してくれるレイは流石というか手慣れた感じがちょっと度が過ぎている気はしたが、ここは素直にその好意を受け取り喉を潤して謝意を伝える。


「ありがとう、レイのお陰で恥をかかないですんだわ」


「どういたしまして。俺を最初のダンスパートナーに選んでくれたお礼だよ」


「まあちょっと女性慣れが気になったけど、今日のレイはその正装含めてカッコイイと思います」


「お、前半の部分はおいて置いてその誉め言葉は素直に嬉しいよ、ありがとうな」

 その後はお互い言葉を特に交わす事もなく静かに流れる二曲目のダンスを踊る人達を何気に眺めていると、殿下とメティが目に入った。


「上手い人同士のダンスは優雅で素敵ですね」


「ああ、あいつはガキの頃から何でも卒なく(こな)すからどっちかというと天才肌だな。メティス嬢もそれについて来れる優秀な人だしな」


「そんな中に放り込まれたロザリーはそれでも結構頑張ってると思いますよ」


「ああ、そうだね」


 輪の中にいるロザリーは懸命な作り笑顔で二年生らしい男子と踊ってる。きっと彼女を聖女と知っていても上級生だとなかなか知り合う機会がないから、この機会を逃すまいと殿下の後に次から次へとお誘いが来ているのだろう。流石にこのままだと可哀そうなので今の曲が終わったタイミングで助け舟をだしてあげようかと席を立った。


 そんな時に後ろから聞き覚えのある声が私に声を掛けて来る。


「おい、ペルディータ」


「え?ああ、公子?」

 振り向くとガイラス公子が何とも神妙な顔つきで私に手を差し伸べていた。正直な話、どういうつもりで私をダンスに誘ってきたのか分からないが彼の行動が妙に気になったので手を取り、受ける事にした。


 輪の中に誘われる途中にレイへロザリーに助け舟を出してあげる様に頼むと、小声で耳打ちをしてくる内容は了解の返事と公子には警戒をしろとの事だったがこれまでの彼の行動を見る限り、そんなに悪い奴ではない様に感じている。

 私と公子の組が輪の中に参加した事に気が付いた人達は意外な組み合わせに驚きつつも興味を惹かれたようでジロジロ見られていたが、気にするほどの余裕はあまりなかった。


「私はそんなに上手くないからリードしてくれると嬉しいな」


「お、おう」


 次の曲が始まると同時に動き始めるが何故か動きがぎこちなく、レイと違って右へ左へと振り回されてる感じがする。しかも全体の流れが反時計回りに回っているのにも関わらず逆に回って動くから他の人とぶつかりそうになりながら何とか皆と同じ流れに乗る様に強引に彼を引っ張るが、手元や足元ばかり見ていて周りがまったく見えていない様子なのだ。


「あの、ガイラスくんってダンス始めたばかりなの?」


「わ、悪いかよ…こういうのに出るのは今日で二回目なんだ」


 聞けば十二、三歳頃に舞踏会デビューをした際に、相手の女の子の足を踏むわ倒れて圧し掛かるわで当時の噂のお陰でなかなか手を取ってくれる女の子がいなかったそうだ。それでも一応レッスンはやっていたが私と同じく頭の中でステップを考える事がいっぱいになってしまうらしい。


 それでも私なら初心者っぽいし、頑丈そうだから誘って来たという所は流石に”ムッ”とはしたが、それでもそのひた向きな気持ちを汲み取って一曲ぐらい付き合ってもいいかなと思うのであった。



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