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ちょっとした喧嘩


 期末の試験も終わり、いよいよ来週に迫った夏期休暇、いわゆる夏休みの予定表が配られ久々に実家に帰れるとなれば、皆のテンションも上がって教室内は少しザワザワし始めた。


「あー静粛に、君達一年生は初めての夏休みになるから、これから言う注意事項をプリントと見合わせてよく聞くように」

 クラフトール先生が黒板にチョークで書き込む内容は大体貰った紙と同じ内容だ。期間は二ヶ月ほどの期間でこれは私やメティの様に実家が遠方にあり行き帰りで時間が掛かる人に配慮しているらしいが、ロザリーの様に近場の人は楽で良いのは羨ましい。


 逆に色々な事情を踏まえた上で学園の寮に残り夏休みを過ごす事も可能で、その辺りは生徒の自主性に任せている。そのほかの定番の注意事項は、学園の名を汚すような行為の禁止や他国への旅行の場合は学園に事前通知するなど緊急の場合、何処にいるのか分かる様にする事も含まれていた。

 もっとも貴族の子女子息が学園以前に家の恥じになる様な事をするとは思えないが、過去にもそういう輩が居たのかも知れない。


 長いホームルームを経て、午前中のみとなる授業を受けつつ帰郷した時に持って帰るお土産のリストをこっそりとメモに書き、市中への外出許可が出た後の行先をぼんやり考えていた。


(兄上はお酒お酒って騒いでたからそれで良いとして、ノイには日持ちするお菓子があれば良いかな?後はお父様とお母様に何が良いだろう……)


「…ペル」


「ペルさんや」


――ムギュ


「!?」

 突然後ろから抱き着かれ、確認しようと頭を後ろにのけ反らせたらモロに後頭部と抱き着いた相手のおでこが激突してしまい良い音が周りに響く。


――ゴチン!!


「「#$%&!!」」

 二人して悶絶していると、その様子を見て呆れたレイが様に声を掛けて来た。


「おいおい、二人でなに道化をやってんの?早く昼飯にしようぜ」


「痛たた…なんだロザリーか、呼ぶならいきなり胸を掴まないで普通に呼びなさいよ!しかも爪立てて」

 後頭部を摩りながら振り向くとロザリーが同じようにおでこを摩りながら口をへの字に文句を言って来る。


「何度も呼んだわよ!ペルが全然反応しないのが悪いんでしょう、折角呼んでるのに!」


(は?なにそれ、私が悪いの?)

 この時は何故かわからないが妙にカチンと来てしまい、いつもなら自重するような言葉をはいていた。


「はいはい悪うございました!今日は私は一人で食べますのでロザリーは皆さんとごゆっくり!」


「そうですか、そうですか、そうおっしゃるのならあたしは皆さんと食べますので」

 お互い、怒ったまま教室の前のドアと後ろのドアに分かれて食堂へと向かって行く。後で考えればどっちから出ても行先は一緒なのだが、頭に血が上っていたこの時は同じ場所から出たくなかった。こういうのは良くないと心の底では分かっていても時には感情が抑えられなくなるのは仕方ないのかも知れない。


「おいおい……」

「まあ、こういう時は少し時間を空けるしかなさそうだな」

 当然こんな事態になるとは思ってもないレイや殿下達は慌ててさっさと移動してしまった私達を困惑しながら追いかける形になってしまったのだった。


 その後、お昼は皆と外のラウンジで取らず食堂ホール側で一人でイライラしながら取っていた。途中、ダフニスが声を掛けて来たが想像以上に怖い顔をしていたのか、めずらしく軽口も叩かず苦笑しながら去って行く姿を見つつ昼食を終え、席を後にした。


 昼食が終わると午後は夕食まで暇が出来るのだが、すぐに寮へと戻るのは流石に気まずく感じ、図書館に入りびったって本のページを(めく)っていた。内容はさっぱり頭の中には入って来なくぼんやりと過ごしていると、いつの間にか目の前に現れた会長さんが当たり前の様に座りニッコリと笑顔で語りかけて来る。


「聞いたわよ、めずらしくロザリーちゃんと大喧嘩したんですって?負のオーラ撒き散らしてるってわたくしの所まで噂になって聞こえてきたのよ」


「ええ?そんな噂になるほど怒り狂ってはないと思うのですが……」


「フフ…、それは冗談だけどね。でもまあ、友人同士お互いいつも一緒で距離が近いと時折その境界があいまいになりすぎて、普段の何気ない会話からふとした瞬間に感情がぶつかり合ってしまう事はよくある事よ。かといって距離ばかり気にして相手の本音が分からない事もあるわよね」


「会長にも経験が?」


「そりゃもう兄妹喧嘩から友人との喧嘩もあるわ。特にリーサったらわたくしがここにいると直ぐに嗅ぎつけて怒りに来るしね」


「いや、それはさぼってる会長が悪いのでは?」


「…コホン!ともかく、取り合えずお互い気持ちをクールダウンしてから面と向かって話すのが一番いいわ、気持ちというのは時折言葉にしないと勘違いしたままになっちゃうからね」

 会長は笑顔でそう言い残すと、立ち上がり少し慌てる様に出入り口へと去って行くその後ろ姿を見送りながら感謝の気持ち込めて頭をさげた。


(取り合えず寮に戻るかな、ロザリーも戻っているだろうし)


 そう思い、本棚に本を戻して出入り口へ足を向けると、その先の廊下で怖い顔のリーサ副会長に怒られてる姿の会長を見て、思わず苦笑するのだった。



◇◇◇


――学園寮


 少し気まずい雰囲気をかもしながらも自室に戻り、ドアを開けるとふて寝をしているのかまだ三時を回ったばかりだというのにロザリーはベッドの中に潜り込んでいた。

 その様子を見て声を掛けようかと考えたが、また余計な事をして(こじれ)れるのも面倒だと思い自分で起きるまで放っておこうとベッドを離れようとした時、苦しそうな呻き声が私の耳に入った。


「うう…」


 慌てて被ってる毛布を開けると、脂汗を掻いて苦しそうに体を縮こませたロザリーが横たわっている。すぐに額に手をやり熱を測るが、風邪ではないようだが尋常ではない汗を掻いて苦しんでいる。


「ロザリー、どうしたの?しっかりして」


「うう、おなか、お腹が痛い……」


 どうやら腹痛に(さいな)まれてる様子でどうにもならないようだ。取り合えず自分のサイドテーブルの下段から薬箱を取り出し、収められてる薬の中から腹痛用の袋を取り水差しをもって彼女の元へと戻り上半身を抱えて薬を飲ませると、少し咳き込みながらも口に含ませ水差しで呑込ませる。

 すると、少し落ち着いてきたのか体を起き上がらせる時に強く掴まれていた腕の力が緩み、薬の効果が徐々に出て来たようだった。


「即効性があるから痛みは和らぐと思うけど、しばらく安静にしていて」

 そう言いつつ乱れた黒髪を直しつつ顔をハンカチで拭いてあげると少し涙目になって私を見上げる。


「……ペル、今日はごめんね、嫌な事言って。あの後殿下達にも注意されちゃったんだけど聞く耳もたないから罰が当たったんだろうね」


「いいよ、私もちょっと熱くなっちゃったしもう気にしてないよ」


「やっぱりペルは優しい、優しいからついつい甘えすぎちゃうんだなあ」


「じゃあ、今後は厳しく努めます」


「ええ?それはご遠慮します」

 お互い顔を見合わせてクスクス笑い合う。午前中の険悪なムードはそこにはもうなかった。それにしても少し気がかりな事があり、彼女に聞いてみるとこんな答えが返って来る。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、何故腹痛時に聖魔法を使って直さなかったの?」


「それね、それは波のように来る差し込むような痛みで魔力バランスが崩れていたのもあるけど、単純に腹痛を直す魔法を知らないってのが正解」


「なるほど、キュア(解毒)系の魔法を知らないわけね」


「今後は求められるとは思うけど、今はペルのお薬あるから問題ないでしょ。もう大分お腹の痛みもほとんどなくなって来たし効き目は抜群ね」


「まったく調子のいい事を……でも褒めてくれるのは有難いけど、飲ませた薬は私が作った物じゃなくてレグナント先生から参考様に分けて貰った逸品ですのであしからず」


「な~んだ、それは残念。でもほんとにありがとう」


「どういたしまして。取り合えずもう少し横になって安静して……」


――キュルルル

 そう言葉をかけると途中でロザリーのお腹が返事をする。


「ちょ、ちょっとお花摘みに……」

 慌ててベッドから飛び起きて廊下へダッシュする彼女の後ろ姿を見送って思わず肩を竦めた。


「しまらないなあ~」






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