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暗い水面


 咆哮(ほうこう)を上げる大男に対峙し緊張の汗を流す殿下に視線を移すと、彼の剣は中央から折れて使い物になっていなかった。取り合えず例の強引に借りて?来た豪華な剣を殿下に手渡す。


「殿下、ないよりマシだから使って下さい」


「助かる! ん?この剣はどこかで見た事……」

 少し驚いたような顔をして抜き身の剣をマジマジと剣の装飾見てから、自分の従兄の顔を思い出して思わず笑みが零れると、隣で見ていたレイも吹きだしていた。


「それ、あいつ(ガイラス)の自慢の剣じゃん。よく貸してくれたな?」


「そりゃあ……快くね」

 少し目線を逸らしている私の答えを聞いて、かなり強引に持ってきたのが分かったのか二人共苦笑いしていたが、お陰で先ほどの咆哮による緊張感が消えて、皆冷静に対応出来ると思ったその時ロザリーが悲鳴の様な叫び声を上げた。


「ちょっと!みんな何和んでるの!!あいつ来たわよ!!!」


――ドスッドスッドスッ


 地面を響かせ突撃して来る大男の目標は当然、先ほど顔面を蹴り飛ばした私だ。


「っと」

 寸での所で伸ばして来た相手の腕をかわして再びピョンと木の枝へと飛び乗るが、今度は蹴られまいと私の居る木の幹を渾身の力で何度も何度も殴り始めると”バキバキバキ”と不快な音を立てて木が倒れ始めた。慌てて隣の木の枝に飛び移るもすぐに方向を変えて執拗に私の居る木へと攻撃を始める。その間も殿下とレイが懸命に剣を振るって傷を負わすが、まったく足止めにもならない状態だった。


「くっそ!やはり痛みもなければ血も出てないという事はこいつアンデッドの一種か?」


「ロザリーくん、浄化魔法は使えるかい?」


「えっと、実はあたしもそう思って木を殴ってる時に掛けてみたんですが、全く効果がないんです。普段ほとんど聖魔法を使ってこなかったあたしの力不足なのかも知れませんが」


 揺れる木の上から大男の様子を見るに、常に過去の記憶を元に徘徊するアンデットとは違い、命令があるまで待機しているのはゴーレムの系譜だと思い出し、役に立ててないと思い込んでショボンとしているロザリーに声を掛けた。


「ロザリー!そいつゴーレム、人の肉体を使ったフレッシュゴーレムだと思う。きっとどこかの場所に埋め込まれてる魔石があるからそれを見つけて! おっととと」

 魔力の流れを見る事の出来る彼女にならきっと、見つける事が出来ると私は確信していた。


「ご、ごーれむ!?でも一体何処に……」


 戸惑いながらも彼女が意識を集中して魔力の流れを見ようとすると、流石に不味いと思ったのか猫のアンテに邪魔されまくって思う様に指示出来ない黒フードの男は、アンテの攻撃の隙をついてロザリーへナイフを投げようと腕を前に出した瞬間、私が飛ばした肉切りナイフが手の甲に突き刺さり短く悲鳴を上げる。


「グゥッ!!…くっそ」


 痛みに耐えながら甲に刺さったナイフを抜き、地面に叩きつけながら枝から枝へ飛び移る私を忌々(いまいま)しそうに睨めつけてきた。



 実際、男はチョロチョロ飛び回る厄介な魔族女を邪魔に思っていた。前回もそうだが作戦中は魔法探知を展開しているのにもかかわらず、探知に掛からないで本やナイフを死角から投げつけて来るこの女の相手をするには現状不利なのは否めない。そうなると男が今取れる行動として得体の知れない猫を何とか対処し、ここから撤退する事が最優先と考え始めていた。



「あった! 心臓と同じ場所に強い魔力を感じるわ!」

 執拗に私を追っかけて来る大男の隙を突いて魔石の在処を調べていたロザリーが声を上げ、丁度胸のあたりを指し示す。


「場所が解れば難しくない、ペルくんには悪いがしばらく囮を続けてもらう。それとレイ!手伝ってくれ」


「ああ、任せろ! ペルちゃんもうしばらく頼む」


「了解です」


 作戦を思いついた殿下達に大男が向かない様、残りの肉切りナイフ全てを大男に投げつけ手をかざして意識を送ると、三本のナイフは蜂の様に頭の周りを飛び回りはじめる。その様子を見て殿下達は少し驚いた様な顔をしていたが、すぐに行動を開始した。


 作戦は単純だ、レイが胸部を切り付け魔石を露出させ回復する前に殿下が石を貫く。シンプルであるが故、タイミングが難しいのだが二人ならやってくれるだろう。


 そう思いつつナイフを操りながら大男を誘導すると、案の定頭の周りをクルクル回りながら時々切り付けて来る三本のナイフを鬱陶しそうに両腕を振り回す大男に大きな隙が生まれた。そのチャンスを見逃さずに準備をしていたレイが剣を構えて一気に駆け抜け正面がお留守になった胸部をクロス状に切りつけると腐肉の隙間に赤黒く光る魔石が予想通り現れたのだ。


「よし!出たぞ、今だジル!!」


 さすがに鈍感な大男でも自分の急所が露わになってしまった事に気が付き、腕で魔石を隠そうとした瞬間にナイフの軌道を変えて片目に突き立てると顔を押えてのけ反り悲鳴な様な声を上げた。


――グオァァァァァ!!!!



「トドメだ! くらえ!!」

 のけ反ったお陰でハッキリと露出した魔石にジルベール殿下の渾身の一撃が付き放たれると見事に魔石を貫き、砕け割れた石から残っていた魔法の元である魔素が噴き出し大男が苦しそうに悶え始める。


 噴き出す魔素に抗うかの様に暴れる大男の体はひびが入り始め指や耳が砕け落ち始めたが、それでも尚も両腕を振りよろめき歩き、近くに居た殿下とレイの方へと徐々に近づいて行く。


「なに!?」

「やべえ!ジル下がれ!!」

 慌ててレイは殿下を庇う様に覆いかぶさるその時、私の足は既に木の枝を蹴っていた。


「えぇい!倒れろ!!」

 木の上から体重と落下の衝撃を使って大男の体をめがけて両足を繰り出すと運よく鎖骨部分に当たり、倒れる軌道を辛うじて逸らすことが出来たのだが。


「やっ……!?」


 しかしその刹那、キュローが髪を引っ張りその方向に視線を移すと間隙(かんげき)を突いて吹き矢の細い針が私に目掛けて飛んで来るのが見え、すぐさま意識を集中し”力”で矢を弾く事には成功したが、倒れる瞬間に振り回されたゴーレムの腕が私の体に激突し、その衝撃で折れた腕と共に湖の中ほどまで勢いよく飛ばされて湖面へと落とされてしまったのだ。


(くっ!あの男が吹き矢も使えたなんて……)



――ドッボーン!!!



「ペルくん!」

「ちょっ!ペル!!」


「ペルちゃん!!」



 激しく水飛沫(みずしぶき)を上げ、暗い水面に叩きつけられて沈んで行く自分の意識が徐々に薄くなっていく。遠くで三人が叫ぶ声が聞こえていたが、それさえも徐々に聞こえなくなってゆく。



ゴボゴボゴボゴボゴボ……


(痛い……体が動かない……い、息がもう…)



ゴボゴボゴボ……


(やっぱり泳ぐ練習はしておくべきだったかな……)



 最後の最後でどうでもいい事を考えてる自分に自嘲ながら意識が消えかかったその時、沈む私の手を誰かが掴んだ所で気を失った。


ゴポン……






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