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黒フードの男、再び


 突然の悲鳴に対し皆が一様に硬直しかけた時、メイザー会長が素早く動き出した。


「皆さんは取り合えず待機していて下さい」

 そう指示し、近くに居た三年生と一緒に声が聞こえたキャンプ場の奥へと走り去って行くと入れ替わる様に女生徒数人がこちらへと避難して来た。


「君達、あちらでは何が起こった?」


「あ、殿下!東側の森は危険です、フォレストウルフが群れをなしてこちらの様子を伺ってるんです」


「フォレストウルフの群れ……」

 声を掛けた彼女らによると、どうやら魔物が距離を取りながらこちらの様子を伺っているとの事だった。幸いな事にまだ被害を受けているわけではない様だが、今後はどう転ぶか分からない状態を考えれば西側の湖に行っているロザリアを含む数人の生徒を手早く避難をさせる必要性が生じている事にレイもどうやら分かっている様子で、殿下に向かってコクリと頷き持ってきた剣を受け取って、湖の方向を見据えた。


「サージ、会長らから何か指示があったらメティスくん達ら薬学科の面々と一緒に行動してくれ。それとレイ!」


「わかってますよ、湖に行ったロザリーちゃん達を迎えに行きましょうかね」

 レイはすでに腰のベルトに剣を装備して何時でも大丈夫という姿勢でいたが、サージは大慌てで止めに入った。


「お、お待ちください殿下!レイ様!何が起こるのかわからない状態で此処を離れるのは危険です、万が一の事もあるのでまずは情報確認をしてからでも遅くはありません」


「大丈夫だ、湖は悲鳴と反対方向から聞こえた。ならば今のうちに彼女らを呼び戻すのが先決だ」


「しかし……」


「なあに、俺が殿下をみているからお前は女性陣をたのむぜ」

レイはサージの心配を他所に彼の背中をポンポンと叩いて親指立ててサムズアップするが、真面目過ぎる殿下と言い出したら聞かないレイの様子を見てサージは諦めた様に大きく溜息をついた。


「わかりました、但し何かありましたら無茶をせずにすぐに撤退をして下さい!勇気と無謀は全くの別物ですから」


「分かってるって悪いなサージ、後の事は頼んだ!」


「すまないな、それとメティスくん、サージを助けてやってくれ」


「はい、殿下もレイさんもお気をつけて」

 黙って成り行きを見ていたメティスもこうなる事はわかっていた様で、静かに頭を下げると殿下も頷き急ぎ湖に続く道を掛けて行くとレイもランタンを手に暗闇に消えて行った。


「やれやれ、とりあえずメティス様、この辺りの人達を集めて指示が出たらすぐに動けるように準備しましょう」

「ええ、そうね。ルシオネ、カーリーも手伝って」


「はい、メティス様お任せください」

 ルシオネが返事を返すと代わるようにカーリーが不思議そうな顔をして質問して来た。


「あの、メティス様?ペルディータ様は何処へ行ったんです?先ほどから見かけませんが」


「あら、大変!テントの中で寝てるわ」



◇◇◇



 静かに波打つ湖畔では見覚えのある黒フードの男とロザリアは向かい合って対峙していた。先ほどまで一緒に居たはずの同級生達は男と一緒に現れた包帯だらけの大男に恐れおののき、慌ててキャンプの方へ逃げて行ったが、彼女だけは男に阻まれて一緒に逃げる事も出来なくなっていた。


「おやまあ、なんと友達がいのない連中だねえ…」

 逃げ去った生徒達の背中を見ながら足元に転がった桶を足で弄びながら呆れた様に眺めている。


「……」

(あたしが孤立する様に動いていた癖に良く言う)


 ロザリアはいつか再び自分の所へ来るのではないかと心構えは出来ていたはずなのだが、まさかこのタイミングを見計らって現れた黒フードの男に再び会うとは思いもよらなかった。しかも異様な供をつれて。


「どうも、ロザリア・オデュッセイ令嬢。前回は突然の訪問で、同居の方に怒られてしまいましたが今日は居られぬ様なので再び訪問させて頂きました」


「気持ちの悪い喋りはやめて!一体あたしに何の用があるのよ」


「ハハ、気の強いこった。んじゃまあ遠慮なく言わせてもらうと、あんたに聖女の素質があるかちょっと調べたいんで、しばらく付き合ってもらおうという訳だよ」


「やっぱりあんた達が城下で誘拐事件起こしていた犯人ってわけね」

 そう彼女が指摘すると、男は口角を上げてニヤリとする。


「おや、意外と世情に詳しいねえ、正解だ。だが、素養のない人間を何時までも面倒見るわけにもいかないから無事に返しただろ?それに、君は他の調べた連中とは違うようだしな」

 男はおもむろに手を上げ前に投げる様な仕草をすると、隣で微動だにしていなかった大男がロザリアに向かって動きだし、捕縛しようと腕を伸ばして来た。


「!?」

 間一髪、伸びて来た腕からは上手く逃れて木々を使いながら逃げ回るも、体の大きさの割に素早い大男に先回りをされて距離を取ることが出来なく次第に焦りが出て来る。


「ほらほら、もっと早く逃げないと捕まっちゃうよ」


 暗い木々の中を上手く逃げ回っていると思っていたが、全く移動していない男の声が聞こえるという事は大男に上手く誘導され結局同じ所をグルグル回っていた事に気が付いた。

 しばらく必死で逃げ回り大男の気配を感じなくなった時、暗い木々の隙間にキャンプ場に向かう道を見つけ躍り出ると、目の前にはほとんど最初の位置から動いていない黒フードの男と大男が待っていた。


「ご苦労さんだね」


「な、なんで……」

 息を切らせながら男を睨むと、苦笑いをしながら答え合わせをしてくる。


「あれ?気が付かなかった?この付近の木々に幻惑呪文を刻んだ魔具を事前に設置していたんだよ。だからどんなに森の中を走り回ってもこの道に戻って来ちゃうんだな」


「…最初から計画通りって事ね」


「まあ、計画ってほど大それた事じゃないが、だいたい逃げる子は同じような行動をするから仕掛けがしやすいんだよ」


 これまで幾人の者を追い詰めて行ったのか、経験による自信が見え隠れする表情からは自分など、子供の手を捻る位に楽な事なのだろう。

 逃げられない状況ではあるが、少なくとも時間を稼げば先に逃げた子達から話を聞いたメイザー会長が手を打ってくれるかも知れないと言う思いに至り、あえて黒フードの男に聞きたかった質問を投げかけてみた。


「以前の部屋での件といい今回の事といい、何故あたしを聖女候補として付け狙うの?特別な力など見せてはいないのに」

 多少定番の質問だが実際の所、聖女足る片鱗も仕草も見せた事もないのにもかかわらずあたしに目標を絞った事が不思議でならなかったのも事実だった。しかし次の瞬間、男の口から出た言葉にロザリアは絶句するしかなかった。



「――転生者」


「!?」


「今、君自身が目を見開き驚いたのは自覚があるからだろ?聖魔法は大事なファクターではあるが、それ以上に大事なのは転生者か否かが問題なのだ」


「……」


「あまり自覚がないようだから教えてあげよう。嘗てこの国に居た歴代聖女は全て勇者と同じ世界の転生者なのさ。ロザリア嬢、君はマージナルの文化に染まってて自分が受ける恩恵に見覚えはないのかい?庶民の所にはないが、上下水道やお風呂、魔石を使った氷室や照明、馬車の振動を軽減するバネ、それに卓上で遊ぶ遊戯や料理のレシピなど全く同じではないにしろ、これらのアイディアはだいたい勇者や聖女の記憶によるものだ」


 思い返せばたしかにそうだった。屋敷に在る食料倉庫は正に冷蔵庫だったし、湯船に浸かるお風呂やトイレも洗練されていた衛生面。そして料理の味も……その時、幼少の頃の色々と足掻いていた記憶が蘇る。


「まさか!」


「やっと、思い出しましたか?そう、君が子供の頃に色々おかしな言動と行動をして周りの者から奇異な目で見られていた事に」


「…はは、自分で宣伝していたわけね」

 自嘲気味に乾いた笑いが零れる。過去の行いは知らない人が見れば奇怪に映るが、知っている者がみれば何をしたかったのか分かるというものだ。


「ま、悪いがそう言う事だ。それにあまり時間もかけてられないんでね。 さあ、グライド!」

 グライドと呼ばれた大男が再び腕を伸ばした瞬間、目を瞑ったが突然耳に風切り音が聞こえ大男が呻き声を上げた。



――グォォォォォ!!



 再び目を開くと、グライドの腕には氷の槍が突き刺さっており腕を押えて悶えていた。




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