お花をどうぞ、呪われたお姫様。
「王太子殿下ーっ、こっち向いてーっ!!」
「きゃーっ!!、かっこいい………!!」
「王太子殿下が、公爵令嬢と収穫祭に………!、」
「じゃ、じゃあ……、あの絵本の主人公って……あのお方なの……?、」
王太子に降りかかる黄色い声の中に、何やら耳を疑うような内容が入ってきたアリアだったが、自分たちの正体を知った民達に不遜な振る舞いは出来ないと、聞き返さず凛とした姿勢をとっていた。
王太子を囲む人集りの中から、一人の妹らしき少女を連れた少年が王太子に話しかけてきた。
「おっ、王太子殿下……!!、よくお越しくださいました。またお会いできて嬉しいです。」
「ああ!、君は確かお花屋さんのミケーレだったかな?、お久しぶり。妹さんも元気になったみたいだね。」
王太子は少年の目線に合わせるように屈んで微笑みかけた。
「あの時は助けてくれてありがとうございました!!、王太子さまのおかげで妹に薬草を届けることができました!。本当にありがとうごさいます。」
言い慣れない敬語を使って、少年は王太子に溢れんばかりの感謝をお辞儀を何度も繰り返して述べていく。
「どういたしまして。次は一人で森に入っちゃダメだからね?」
「はいっ、」
感謝を受けて優しく笑う王太子に頭を撫でられた少年は、とても嬉しそうな顔で返事をした。
少年に対して慈愛のこもった笑みで微笑んで頭を撫でる美青年、という麗しい構図に周りがきゃあきゃあと騒いでいたが、アリアはそんなことよりも王太子の民に対する姿勢に感動してした。
ここまで、真摯に向き合える人であったとは。
一度関わった民の名前を極力覚えるよう務めるのは並大抵の事ではない。ましてやその人物との思い出を事細かに脳に入れておくのはかなりの努力が必要である。
それを彼は、いとも簡単に行っているかのように振る舞っているのだ。
民ひとりひとりに向き合おうとする姿勢と、民の些細な悩み事であっても助け救おうとする意志が、少年を助けたあとも忘れずにいるあの人の中にある。
……この人は、歴史に名を残す名君になる素質があるかもしれない。
アリアは初めて負の感情を持たずに王太子を素晴らしい人だと尊敬した。
「それで、今日は、お礼を持ってきたんです。」
少年は妹と顔を合わせながらにこにこと微笑んで王太子に話し始めた。
「お礼?」
「そう!、おにいちゃんとね、王子さまがおひめさまに渡すようにって、えらんできたの!!、」
「ありがとう、素敵なお花だね。……それで、おひめさまって?」
二人から差し出された小さな青い花の花束を受け取りながら王太子は誰のことを指しているのだろうかと尋ねた。
「となりのきれいなドレスのおねえさん、おひめさまなんでしょ!?、」
「えっ、私!?」
ただ3人のやり取りを微笑ましく眺めていたアリアは自分に火の粉が飛んでくると思わずつい声を上げてしまった。
「だって、お顔がみえないし、絵本のおひめさまといっしょであおいろのドレスだもん!!」
絵本のお姫様と一緒………。
少女が述べたその言葉を頭の中で繰り返したアリアは、あ、あの『呪われたお姫さま』?だか何だかの絵本か!、と王太子が主犯で作った脚色増々の絵本を思い出した。
「いえ、私は………」
「そう、私の愛しいお姫さまなんだ。」
「!?っ、」
アリアは屈んで少女に目線を合わせ、自分はお姫様ではないと否定しようとしたところ、王太子に大きな声で言葉を塞がれてたため、思わず勢いよく顔を王太子の方に向けてしまった。
「やっぱり!?、おひめさまだーっ!!」
「いえ、あの、私、お姫様では………」
「正式には公女さまだから、アリアはまだお姫様じゃないんだよ。」
目を輝かせてわくわくと見つめてくる小さい兄妹に、絵本のお姫様じゃないとやんわりと否定しようとアリアが喋りかけたものの、王太子に違う意味で訂正をされたため、アリアはベールの下で王太子を睨みつけていた。
「え、そうなの??」
じっと期待の眼差しで見つめられたアリアはここで否定しては可哀想だと唾を飲み込んで、王太子の言葉に乗ることにした。
「………そうなんです。公爵家の娘ですから、姫ではないのですよ。」
「じゃあ、王子さまとけっこんしたらおひめさまになるの??」
はぁっ!?!?!?
アリアは思わず公爵令嬢らしからぬ声を上げてしまうところだった。
「……ま、まぁ、王太子殿下と結婚したら、私でなくとも誰でもお姫様になれますね。」
「こーじょさまは、王子さまとけっこんしたくないの??」
「な………、」
それとなく自分と王太子をくっつける話題から遠ざけようとしたアリアだったが、少女がどストレートな質問を返してきた為、一瞬固まった。
したくないわ!!!
好きとか言われてるけど、そこまでの好きじゃ………、うん、多分、ないだろうし。
でもここで、ハッキリとしたくないって言ったら少女の期待を裏切ることになる……、それは可愛そうだわ……。
どうしたら…………、どうしたら…………。
……あ、絵本!!絵本だ!!!
アリアは悲しげな顔をする少女を失望させないが、結婚したいとは言わなくていい回答を絵本の内容を脳味噌をフル回転で回して探し出した。
「…………皆様もご存知の通り、私の顔は醜くて悍ましいモノです。……それに、お腹にも醜い傷跡を抱えた私など、王太子殿下の妃に相応しくありません。だから……、王太子殿下と結婚など出来ないのです。」
アリアは物凄く悲しげな声色を作り、弱々しい可憐な令嬢を演じながら遠回しに結婚したくないと訴えかけた。
渾身の演技がウケたのか、周りに集まってきていた人々もそれは仕方ない、とアリアに同情するかのような素振りを見せている。その様子を見たアリアはこれでなんとかなったとほっと息をついた。
しかし、王太子のことが好きで恋路を応援したい兄妹たちは諦めていなかった。
「でっ、でも……!!、こーじょさまのお顔はのろいがかかって、みにくいんでしょ??」
「そうですよ!、絵本だったら王太子さまのキスで呪いがとけてました!!、だから……!!」
王太子のキスで呪いが解けてた!?!?、それで世の中に広まってるの!?!?
やめてやめて王太子に口付けさせようとするなーっ!!!!
絵本を投げ飛ばしたせいで最後まで読んでいなかったアリアは脳内で警報が鳴り響くほど慌てていた。




