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城下町デートは完全アウェーですね、お嬢様。


「ああああのですね……、王太子殿下から口付けをされても、私の呪いは解けないかと……。」


「そうなの?、でも、絵本だと……」


「現実と絵本は違いますから。現に私の呪いは解けていませんし。」


「じゃあ、やってみたら?、絵本で解けたんだもん!、解けるよ!!」


「えっ、」



慌ててなんとか否定したにも関わらず、周りの民衆たちもそうだそうだと兄妹達の言い分に加担しはじめ、アリアは窮地に陥った。


アリアがしっかりと読んでいなかった『呪われたお姫さま』は、王太子の口付けによって呪いが解けた公女と王太子の結婚式で終わる。

その内容が頭に入っている兄妹ないし王太子に群がる人々は現実でも王太子殿下がノウン公爵令嬢に口付けをすれば呪いがとけて()()()()が見えるだろうと信じている節がある。


そのため、何故王太子がアリアに口付けをしていないのかと疑問に感じており、キスをしないのかと尋ねているのだ。


()()()()()()()()()呪いをかけてもらったアリアにとって、この状況は大ピンチである。


そもそも愛していないし、多分愛されてもいないと認識しているアリアは、王太子に口付けされても呪いは解けるはずがないと確信しているのだが、脚色マシマシの絵本の出来事を鵜呑みにしている人々にその事を説明したとしても説得はできないだろうと感じ取っていた。



「あの、それは………、ちょっと……、」


「どうして?、王子さまのこと、好きじゃないの??」


「えっと………、」



「私の愛しいお姫さまは、私のことが大事だけど、本当に好きなのかどうか迷ってるところなんだ。」



言葉に詰まっていたアリアを庇うように、王太子が少女に語りかけ始めた。



「絵本のお姫さまも、みにくいって言った王子さまの事を信じられなかった時があっただろう?」


「……あった!、王子さまからひどい言葉たくさん言われたから、好きって言われても信じられないって!!」


「そう。ここにいる公女様も、醜いと罵った私の事が信じきれてないんだ。」


「……え、王子さまもこーじょさまに、ひどいことしたの??」


現実の優しい王子さまがそんなことをするとは考えられなかった少女は、目を見開いて聞き直した。



「………したよ。絵本よりもひどい事も言ったし、誕生日に貰った贈り物をその場で壊したりもした。」



後悔を漂わせるような顔で言い放った王太子の言葉に、周りの外野がざわつく。

絵本の最初の方で王子様がお姫様に放った、『こんな顔が醜い女となんか、結婚したくない!!!』という言葉は民衆の中では物語を面白くするための作り物(フィクション)だと思われていたのだ。


「……私は絵本に書かれてる王子様よりもダメな男で、公女さまに沢山嫌なことをしてしまったんだ。……だから、物語の王子様みたいにすんなり許せてもらえる立場じゃないんだ。それで、ものすごく時間がかかってるんだよ。わかってもらえたかな?、」


「……、こーじょさまのこと、きらいなの?」


少女は絵本のお姫様が好きだったのだろう。お姫様にあたるアリアにひどいことをしてきた王太子の事を睨みながら尋ねている。


「ううん、今は大好きで、お嫁さんになってもらおうと思ってるよ。だからね、一生懸命謝って好きだって伝えてる最中なんだ。応援してくれる?、」


「………、わかった。ちゃんと、あやまって、絵本みたいに、のろいといてあげてね??」


「もちろん!」


「は??、」


王太子の答えに嫌嫌ながら納得した少女と、それに笑顔で応える王太子のやり取りにアリアは思わず声を出してしまった。


「いやいやいや、なんで最終的に私の呪いを解くことで落ち着いていらっしゃるのでしょうか?。理解が追いつかないんですが。」


「何でって、私が君を好いてて結婚したいと思ってるから、流れ的には呪いを解いて結婚してハッピーエンドだからじゃない?」


「私としてはハッピーエンドとは言い難いかと。王太子殿下のことは君主としては尊敬できますが、異性としての感情は………」

 

「それ以上は言わないで?。今日はまだ好きだと言ってないし、謝ってもいないじゃないか。」


ベール越しではあるものの、王太子の人差し指を唇に置かれたアリアは咄嗟に反発できなかった。周りは黄色い声援で溢れかえっている。



「醜いと罵ってしまったこと、本当に申し訳ないと思っている。許してくれとは言わないが、どうか君に愛を捧げさせてくれないだろうか。」



王太子への声援が飛び交う中、レオナルドは兄妹達から貰ったブルースターの花束をアリアにそっと手渡した。












「…………さいっっっあくだわ。」


ブルースターの花束を貰わざる負えなかったアリアは、顔が見えないことをいい事に不快感を表情全面に出している。


「最悪?、そうかな?。その花束は君によく似合ってるよ。」


「お花じゃないっ!!、」


要領を得ない王太子の返しにアリアは声を荒げる。


「この完全アウェー感……、来る人来る人王太子殿下の応援ばっかり………!!、ええ、そうね……、貴方様にとっては最高でしょうよ。」


王都の人々は心底王太子殿下を大事に思っているらしく、先程の花束騒動もそうだが、行く先々でも絵本と同じく公女を口説こうと頑張る王太子に沢山の応援が降り注いでくるのだ。

王妃教育によって骨の髄まで民衆の期待を裏切るなと叩き込まれたアリアはその声援に対して嫌であろうとも、完全な否定はせずそれとなく返しているが、内心は煮え滾るほど腹が立っている。



「たしかに一方的に殿下とアリアをくっつけようとする話ばっかりだったもんなぁ……。」


「だったらファヴィオが援護してくれればよかったのに!!」


「いやー、生憎お二人の護衛の為、外に目を光らせてたので。」


出店の串焼きを食べながら呑気に答えるファヴィオに対してアリアは何処がだ!!と睨んだ。


「私としては有り難い事だけどな。アリアには確かに酷だったかもしれないな……、申し訳ない。」


「うーん、でも王都でアリアちゃんの援護するのは難しいかなぁ……。」


「え、ティグレ様、どうして?」


ファヴィオから串焼きを一本奪い取ったアリアはティグレに問いかけた。


「みんな、レオナルド大好きなんだよね。だからさ、こっちがアリアちゃん援護するとその何倍にもなってレオナルドの援護射撃が返ってくる、と思う。」


「なるほど………、」


それは御免被りたい。

アリアはこれ以上王太子の援護をされてはぐうの音も出なくなってしまうと感じた。



「じゃあ式典まで耐えるしかないか……。」


アリアは苛つきを発散させるかのように串焼きの肉を引きちぎって口に入れる。


「不快にさせて申し訳なかったな、君に楽しんでもらえたらと思って出店周りに誘ったんだが……。」


「………こればっかりはどうしようもないでしょう。公爵領だったら貴方が完全アウェーでしょうし。多分めちゃくちゃ罵られるのでは?」


「………確かに、よく叱られている。」


「え、」


公爵領内をまさか王太子がぶらつくとは思っていなかったアリアは王太子の返しに串焼きを食べる手が止まってしまった。


「君に会いに行く際に公爵領で、君のことを聞いたりしながら買い物をするんだが………。物凄く睨まれるし、説教されてるな……。『お嬢様を大事にできないアンタに売るものはない!!』と怒鳴られたこともあったし……、」


王太子は公爵領での出来事を思い出してしおしおと大きな体を縮こまらせて子犬のように項垂れている。


「わぁ…………。」


アリアは予想外のことが沢山起きていたことに若干引いていた。


「でも、最近はそこまで怒られなくなったんだ!!、『何連敗もする王太子が可哀想になってきた』ってアリアの好物とかを教えてくれる人もいて……」


「はぁっ!?、ちょっ、何勝手にうちの領民を手懐けでるんですか!?、やめてくれます!?」


思考が遠のいていたアリアだったが、領民が王太子に絆されている危機を感じて騒ぎ立てはじめた。



「いやー、あの二人の話って本当に面白いよね。」


後ろで二人を見守るファヴィオは笑いが止まらなかった。


「たしかにいいコンビではありますよね。……レオナルドがもうちょっと頑張れば恋愛関係にもなれそうな……、うーん…。」


「そこはねぇ……、十年前の事もあるし、鈍感女とアピールの仕方が極端な奴の掛け合わせだから、どうなるかわかんないよねぇ。」



「…………恋のライバルでも現れればアリアちゃんって変わりますかね?、」



ティグレが閃いたかのように呟いた。


「それは……!、」


「なーんて、レオナルドに今更言いよる人なんていないかぁ。冗談ですよ、冗談。」


「たしかにアリアに求婚してる殿下に言い寄る凄い人なんて現れないか!、」


ティグレとファヴィオが互いに笑いあっていたその時、王太子と串焼きを食べ終わったアリアの目の前に一人の女性が近づいてきた。




「王太子殿下、お久しぶりでございます。」


「……アルバ伯爵令嬢殿?、」


ふんわりと上品なカーテシーをした淡いクリーム色の髪を靡かせる少女は、花が綻ぶような笑みで王太子を見つめている。


















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