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貴方が主犯のようなものじゃない!、王太子殿下。


「……なんでまた、王妃様が私を主役のモデルにした本を作ろうと??」


アリアは絵本の出版に関する一番のパトロンが王妃殿下であったことに頭を抱えながら王太子におそるおそる尋ねてみた。


「それがだな……、君の肖像画を描いた画家が母上に懇願しに来たらしいんだよ。」


「え、肖像画?、私の肖像画なんて一枚も………。あ、あったわね一枚。」


自分の顔を他人に見せないよう呪いをかけてもらっていたため、アリアは他の貴族令嬢であればお見合いや、自分の家に飾る目的で画家に描かせる肖像画を持っていなかった。



だが、たった一つだけ、アリアの顔が描かれたものがある。



「そう、君が婚約する前に家族の肖像画を描かせた絵師がいただろう?、彼がね、もう一度君の肖像画を描きたいと訴えに来たそうだ。」


王太子の話す声を聞きながら、アリアは肖像画を描いてもらった時のことを思い出していた。


アリアが何事もなく健やかに七歳を迎えたことを記念して、祖父の代から懇意にしている画家に家族の肖像画を描いてもらうことになったのだ。

アリアが産まれたときにも画家に描いてもらっていたが、おくるみに包まれていたアリアは顔があまり映っていなかったため、ちゃんと描いてもらうのは初めてだった。

淑女になるよう育てられていたものの、剣を振るうのが好きなお転婆娘だったため、最初は可愛いドレスを着て絵を描いてもらうのが嬉しくて大人しくしていたのだが、そのうち窮屈になって動き回ってしまい、画家が困っていたことを覚えている。


その肖像画はノウン家の目立つ位置に飾られていたが、アリアが顔を隠すのと同じくして、公爵夫妻の寝室に隠されていた。



「あのおじ様がねぇ……、この間もお兄様とお義姉様とエーリオの肖像画を描いて頂いたばかりなのよ。その時は何も言っていなかったはずなのに、」


その後アリアはお見合いをする必要もなかったし、顔を隠していたこともあって肖像画を描いてもらうことはなかったが、家族が肖像画を描いてもらうたびに挨拶だけはしていたので、なぜ自分に言わなかったのかと疑問に感じた。


「ノウン公爵夫妻に相談したところ、隠している娘の顔を晒すことはできないから、と断られたらしいぞ。」


「あ、お父様とお母様の方に言ってたのね。まぁ、断るわよ。あの人、色んなところで喋っちゃうから。絵画は素晴らしいんだけど……、美しさを誰とも分かち合えないなんて嫌だ!!、みたいなタイプの芸術家だから……。肖像画を描いた後は大体、ノウン家の人相が社交界に大流出するの……、本当、絵は申し分なく素敵なのだけれど。」


「ああ……、なるほど。」


現に、彼がアリアの肖像画を描いた際に彼の美的センスドンピシャだったアリアの顔は一ヶ月もしないうちに貴族の中でノウン公爵家のご令嬢は大層美しいお嬢様だと噂になった。

その真相を確かめるために婚約式にアリアが呼び出され、あんな事件が起こったのだ。



「で?、断られたから王妃様に懇願しに来て、何故絵本を出版することになったのよ。」


「母上も流石に自分の息子のせいで顔を隠している令嬢の姿を描き写させろ、とは言い難くてだな……。」


そりゃそうだ。


「それで、顔を描かない抽象的な絵でアリアを美しく描いて世に広めればいいのでは?、と思い付いたそうで、そこに私が呼ばれて、肖像画よりももっと多くの人に目に止まる絵にしたいのだが、どうすればいいかと聞かれたんだ。」


うわ、嫌な予感がする。


「なので、絵本にして出版すれば絵も広められるし、文章で更にアリアの良さを広められるのでは?と、助言したらこうなった。」



「お前が元凶じゃねーかっ!!!!」



アリアは思わずクッションを王太子の顔に投げ飛ばしながら叫んでしまった。



「げほっ、………でも、文章とか内容とかは母上が監修して作り上げたから私は一切関わって……」


「庶民にまで私の容姿が物凄く歪曲して伝わった大元の原因を作ったのは、貴方様でしょう!?」


顔からクッションを振り払って弁明する声を無視してアリアは王太子を指差し怒鳴った。


「本当どうしてくれるのよ、元々呪いなんてかかってなくて、()()()()()なのに……!!、呪いで醜い顔になってると思われちゃったじゃない!!!」


「いや、君は本当に醜いわけじゃないだろう。私がそう、言ってしまったから………」



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」



「な………、」


いつになく暗く低い声で凄むアリアに、王太子は怯んでしまった。



「貴方様は覚えていないでしょうけど、貴方が『醜い』と罵った時、周りの貴族たちの表情(かお)はどんなだったと思います?」


何も答えられない王太子を鼻で笑い飛ばして、アリアは話を続ける。


「『ああ、()()()()()を言われて可哀想に……。』そう、嗤ってたの。」


「そん、な……」


「公爵家の令嬢が本当に醜くても、下の者たちは口にできない。でも、()()()()()()()()。王族が言ったことは皆、口に出して言えるようになるのよ。」


この国の頂点に立つ者たちがそう言ったのならば、その話を下々の者がしようと、アリアや公爵家がとやかく言うことはできない。


王太子である自分が婚約をしたくないからとアリアを罵ったせいで、彼女は他の貴族達からも醜いと罵られるようになってしまったのだ。



「………すまない、」


「は?、王太子殿下に謝られる事ではないでしょう。貴方様はただ、本当のことを述べただけ………」



「違う!!!」



王太子の聞いたこともない大声にアリアの動きが止まり、二人の間に静寂が広まっていった。




「…………私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」




重たい口を開いた王太子が、ゆっくりと沈黙を破っていく。



「だから、君が醜いという噂は私が作ってしまった嘘なんだ。」


「嘘なんかじゃ……、だって、あの時確かにっ………」



「嘘だよ。王太子(わたし)から出る言葉は()()()()()()()()()()()()のだから。」



この国の上に立つものが、述べた言葉は何であれ本当になってしまうのだ。いや、嘘だと指摘した場合、忠誠心が無い反逆者になってしまうから、本当にしなければいけない、と言い換えたほうが良いかもしれない。



言葉と放った矢は二度と戻らない。

彼女に向けて射った(言葉)は抜けることなく、永遠に血を流させている。



「……この期に及んで、こんな事を言っても君を傷つけるだけかもしれないけれど、君が醜いなんてのは嘘だ。」


王太子は一歩一歩力強く踏みしめて狼狽えるアリアに近付いていく。


「私が吐いた嘘のせいで本当だと思われているだけで、君は醜くなんかない。」


せめて自分が放った矢を抜いて、いつかその傷が癒えるようにと、アリアの肩を抱いて見えない瞳と向き合うように見つめた。


「……醜くて愚かなのは私の方だ。自分の事だけしか考えず、ずっと君を苦しめ続けてきた。幾ら君に謝ったって、足りないと思うけれど、君に謝りたい。」


「……っ、」


「本当に、申し訳なかった。」


王太子はアリアを優しく抱き締め、彼女の心に届くように心を込めて言葉を放つ。


「……これからは、君が容貌を気にすることなく過ごせるように、誠心誠意尽くさせてほしい。」


「……………、それは、誰の為に?」


「勿論、()の為だよ。君が幸せに暮らす姿を見たい私のエゴだから。」


「……そう言われたら、何も言い返せないじゃないですか。」



アリアは潤む瞳を隠すように顔を王太子の肩に預け、そっと背中に手を回した。


心地良い体温と、王太子の暖かくて優しく真摯な言葉に、アリアの心が少しずつ解れていった。














「………正直な話、君の容貌が美人だった、とか、普通だったとか、思い出せてない。アリアが醜いと言われてもピンとこないんだ。」


「……ふふっ、なにそれ。」


「……それでも、私はアリアを好きになった。容貌に関係なく、君が愛しいんだ。だから今は、アリアの顔が一生このままでも良いかなとも思ってる。」



「え???、」



夢から覚めたような面持ちで、アリアは王太子が抱きしめる腕の中から抜け出し、混乱する頭を抱えるかのように尋ね始めた。



「ちょっ、ちょっと待って………、あ、なた……、私のことが()()、なの???」



「あれ、言ってなかった?。勿論アリアのことが好きで愛してるけど。」




「えっ、えっ????」


照れながらも愛おしそうに微笑みかけてくる王太子の顔と言葉にアリアの思考が追いつかず、口を陸に上がった魚のようにパクパクと動かし、




「ええええええええええええええええええッッッッ!?!?」





公爵邸内に響き渡る大声で叫び出してしまった。




























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