王太子が私を好き?嘘でしょ?!、お兄様。
「えっ!?、はっ??、ええっ!!、えっ、えぇ………」
「大丈夫か……?、というか、そんなに驚くことか??」
先程から、え、は、といった音しか発していないアリアを気遣うように王太子が尋ねた。
「………そう、そうよね!!、おおおお王太子殿下が私みたいな醜女を」
「醜女じゃない。さっき訂正したばかりだが君は醜女じゃない。」
言い終わる前に肩をつかんで物凄い圧を王太子がかけてきたため、アリアは慌てて咳払いをして話を戻そうとした。
「んんっ、……えっと、そう!!、私を好きだなんて……、そんなの、聞き間違……」
「そこも聞き間違いではなく、君が好きだと言いました。」
「え、本当に?」
「いや、あれ程動揺してたのに聞き間違いにすることの方がおかしくないか?」
それはそうだ。
「じゃ、じゃあ……」
「君が喋る前に訂正しておくが、家族や友人に対する愛情ではなくて、恋人や妻に寄せる方の愛情を君に向けてる。」
「な、」
「アリア、私は君に恋をしてるんだ。」
「@#$※℃☆○◆%〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
アリアの脳内では対処不能な回答が王太子の口から発せられたため、アリアは声にならない、いや、何と言っているのか全く判らない叫び声を上げている。
「アリアっ!!、今叫び声がしたがどうかしたのかっ!?」
妹の公爵邸に響く叫び声を聞いて慌てて駆けてきたジルベルトが、扉を思い切り開けてアリアの執務室に入ってきた。
「おっ、お兄様っ!?」
ジルベルトがアリアに目を向けると、王太子に肩を掴まれ、今にもソファに押し倒されそうになっている。
「なるほど、王太子殿下は俺に斬られたくてたまらないみたいですね。………よし、殺す。」
「まっ、待ってくれ!!、誤解!!!、誤解だっ!!!!」
鬼のような形相で剣の柄に手をかけたジルベルトに対して、王太子は慌ててアリアから離した両手で猛獣を宥めるように向かい合った。
「誤解??、妹の悲鳴で駆けつけてきたら、王太子殿下がアリアの肩を掴んで押し倒す寸前だったんですよ!?、これのどこが誤解ですかっ!!!」
「押しっ!?、いや私は押し倒すとか、そんな、破廉恥なことをするつもりはなくて!!、ただちょっと口論になっただけで……!!!」
何とかジルベルトの手を剣から離そうと真剣な面持ちで言葉を紡いでいく。
「私は、決してアリアに何も………、して、ませんっ!!!」
王太子は、本当に何もしてないと潔白を述べたかったのだが、アリアを抱きしめたことを思い出してしまったため、言葉が詰まってしまった。
「じゃあその間はなんなのですか!!!!」
「っ!!!、いや、あのっ……!!、本当に何も、……してなくて……!!」
「何もしてないと言う割には言葉が辿々しいですよ?、絶対してますよね?、したでしょ?、王太子殿下であろうが妹に手を出したんだ……、あの世で反省して……」
「お兄様ストップ!!!」
妹の勢いのある声でジルベルトの動きがピタリと止まった。
「私、王太子殿下に押し倒されたりとかしてないから!!、というか王太子殿下に何かされそうになってたら息してるわけ無いでしょう!?」
「それは………、確かにそうなんだが、」
口付けをしようとした王太子の頬骨を折ったアリアである。王太子が手を出していたら執務室が血の海になっていたはずだろう。
「でも、アリアの叫び声がしたんだぞ?、本当に……、何もされてないのか?」
兄を止めるためにソファから立ち上がっていたアリアの側まで駆け寄ったジルベルトは、肩を掴んで真剣な眼差しでアリアに訴えかけた。
「何も…………、されてませんっ!!!!」
「だからその間はなんなんだっ!!!」
つい先程まで王太子に抱き締められていた事を思い出して顔を赤く染めるアリアにジルベルトは思わず声を荒げてしまった。
「そそそそんなことより、お兄様っ!!!、大変なの!!!、王太子殿下が……っ、王太子殿下が………!!!」
「なっ、何かあったのか!?」
「あの人、私のことが好きだって言ってるのよ………!!」
「………、」
切迫した形相でアリアが訴えてくるものだから、王太子からこの国を左右するような重大な事でも聞かされたのかと思いきや、"王太子が妹を好いている"という、誰がどう見ても解りきっている事実を告げられたジルベルトは違う意味で衝撃を受けた。
「しかも、友人とか臣下としての親愛じゃなくて、私に恋をしてるって……!!、ありえない……、ありえないわ……!!」
お前の解釈の方が俺にはありえないものに見えるんだが。
まるで幽霊のような存在し得ないモノを見たかのようにガタガタと震えるアリアに対して、思わずそう呟いてしまいそうになったジルベルトはゆっくりと深呼吸をした後、妹にも解るように説明しようと口を開いた。
「………あのな、アリア。落ち着いて聞いてほしいんだが、」
「ええ、何かしら?」
「王太子殿下がアリアを好いているのは、見ればわかる。」
「「えっ、」」
ジルベルトからの思いがけない答えに、アリアと王太子の驚嘆の声が重なった。
「そもそもだな………、王太子殿下との婚約を破棄したのに、改めて求婚されている時点で考えてみろ。好きじゃなかったら婚約破棄した相手に結婚を申し込んだりしないんじゃないか?」
「ええっ??、てっきり私に対する盛大な嫌がらせかと思ってたんですけど……。」
「な…………、」
「なんでそうなる!?、」
「え、違うんですか?」
ジルベルトと王太子の予想外の驚きに、アリアは目をぱちくりさせた。
「……仮にだな、もしも嫌がらせだったら、王太子殿下はその嫌がらせをしてる相手と結婚する羽目になるんだぞ???」
「肉を切らせて骨を断つ位の覚悟で嫌がらせをしてきてるのかと。政治的に見ても私が王妃の方が良いし、嫌だけど相手にも苦痛を与えられるから、死なば諸共、みたいな?」
アリアの物凄く婉曲した求婚の解釈に王太子は大きく溜息をついた。
「何だその誰も得をしない求婚は………。そもそも、私は政略結婚が嫌で君を遠ざけていた、っていう忌々しい過去があるのに、何でまた政略結婚を私が企むと思ったんだ?」
「いや………、だって、私のことなんて好きじゃないと思ってたので。」
「だから、さっき私は君が好きだと………!、」
「確かに先程はそう言われましたけど、初耳だったから………。」
「「え、」」
アリアの言葉の意味を一瞬理解できなかった二人は声を揃えて聞き返し、続けて発せられた言葉で思考が亜空間に飛んでいった。
「だから、王太子殿下に今まで一度も好きだと言われたことがないんですって。」




