08
「ソ、ソフィー……?」
ヨハンさんとともに帝都へ異動が決まって数日。すぐに支度を終えた私たちは、ユーイン様と筆頭補佐官のクラウス様が出立するのと同時に、今までお世話になっていた騎士団を出た。
「あ……ヨハンさん……はは……」
性癖が「ナイスバディな雄っぱい」のヨハンさん、彼がまだマイルドなのを私は帝都に入って思い知ったのは言うまでもない。帝都に一緒に戻っているユーイン様とクラウス様の性癖は見られないが、ほかの人たちや住人たちの性癖は、見事に視界にこんにちはである。
「大丈夫か? 顔が引きつってるぞ?」
「は、はは……ヨハンさん、世の中には知らなくていいことがたくさんあるんですよ。本当に」
「お、おう……急にどうした……すげぇ、実感籠ってるけど……」
騎士であるヨハンさんは、私の乗っている馬車の隣を馬に乗って移動している。魔法治療師の私は、馬に乗った経験がないので、馬車移動なのだが。もちろんユーイン様たちとは違う馬車、かつ一人で乗っている。要は荷馬車に座っているみたいなものだ。
「ソフィー、無理はするなよ」
「はい、ヨハンさん」
帝都の中心地にまもなく入る、そのための検問も今通過した。あんまり見たくないけど、一番人が多い街だから、性癖がたくさん並んでいるんだろうなぁ、なんて気が重たくなる。
「(足とかお尻とか胸になったら、もう可愛いと思える自分が嫌だ……)」
よく見かけるものに関しては、だいぶ慣れたのもあって気にせず流すことができるようになったが、たまにドギツイものが流れてくる。その中でもハーレムとか逆ハーレムはまだ可愛い方。
「(け、血液……青色の瞳って……身体の一部じゃん! 一気にヤバいよ……)」
そういう意味では踏まれたいとか、縛られたいとかも可愛い方かもしれない。いつか犯罪を犯さないか心配になる性癖の持ち主もいるけれど、大きな問題になっていなさそうなのだけは救いである。
「(あれ、でも……? 私、村にいた時はあんまり見なかったような……?)」
見たくなくても視界に入ってくる、道行く人々の性癖を見ていて、ふとそんなことを思った。私が村にいた頃は他の村人の性癖を見かけるのは少なかった。むしろ、自分よりも魔法適正が低い幼い子どもに多かったような。
あとは稀に外部へ出かけた際に見たくらいだ。外部の人たちは、私たち一族が使う魔法とは異なる魔術だから、私に見えたのかもしれない。
もしも、この性癖を見る力が、相手と自分の魔法適正及び魔術適性の高さの差で、見えるか見えないが決まるのならば。そうであるのならば、見える人と見えない人の差があるのは納得ができる。
あの人、ユーイン様は私よりも強い。それが、この仮説を裏付けるもの。元々騎士団に所属している、全騎士トップの人だ。純粋に戦闘力だけで見ても、私が敵う相手ではない。
一族の扱う魔法と普通の人の魔法は違う、それを表す言葉が魔法適正と魔術適正。根本から異なるものだから、私たちはそう表現してきた。
魔法と魔術なら、私たち魔法の方が強さを上回るけれど、単体火力なら、という前提。複数で攻められれば、勝てなくなってしまう。
だから、一族は過去の戦で負けた。どれほど個人の質が良くても、数に押し切られてしまったから。私は村にいた時から、一族の中でもトップクラスだとシスターから言われた。
そんな私が彼に勝てないのは、もはや魔法の分野だけではない。鍛えられた身体は、見ればわかるほどの圧を持ち、明らかに身体的な部分でも敵う相手だと、考えを持つことすらも、放棄するほど。
もし同じだけの体術や武術を何かできたならば、少しは違ったのかもしれない。ほんの僅かでも、勝機はあると思えたかもしれない。けれど、それはあくまでも仮定である。
私には、優れた身体的能力も、武術や体術もない。あるのは魔法、精霊師としての力だけだ。この中で一番の非力と言っても過言ではないだろう。それほどに、魔法や魔術という分野を加味しないなら、ユーイン様もヨハンさんも強い。
「すごい……」
「ソフィー?」
「あ、すみません……えっと、すごく栄えていたから……」
「ソフィーの村は、たしか……」
「はい、荒れた土地で、行商人なんか来ない。明日たべるものにも苦労する、完全自給自足スタイルな村ですね」
馬で並走するヨハンさんは、私に話かけてくれるおかげで、特に暇だと感じることもなく。過度な不安や緊張も、彼との会話で楽しみと言った前向きなものへと変わっていた。
「行商人も来ないのか」
「ええ……特産品どころか、やせ細った土地のせいで何も育ちませんから」
「それは、辛いな」
これ以上の犠牲を払いたくなかったから、滅びゆくことを選んだ一族。でも、まだ私よりも幼い子がいる。私が頑張れば、状況を変えられるかもしれない。その可能性があるのならば、やるしかない。
「ソフィー、行こうか」
「はい」
優しいヨハンさんは、私の話を聞いて胸が痛いという顔をしていた。しかし、軍の駐屯地と思しき場所につくと表情は一変。力強い目線で、前を見据えて門を開き、私と共に歩いてくれる。
そのすぐ前には、先に手続きを終えて入っていたユーイン様たちもいる。ここから、私の全てをかけた戦いが始まるのだ。




