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 目が覚めたら、視界には見た事のない模様の天井が広がっていた。

 私はどうやらベッドに寝ていたらしい。

 着ているものもゆったりとしたものに変わっている。




 重い体を起こして周りを見渡すと、かなり広い部屋にいるようだった。

 パーティーで婚約を解消され、ショックで倒れたことは覚えているが、ここはどこなのか。



 見知らぬ広い部屋に一人。

 言いようのない不安が押し寄せた。




 コンコン




 その時急に扉がノックされて、無駄に体が跳ねる。




「失礼致します」




 入ってきたのはなんと侍女のマールだった。

 思わず凝視すると、彼女も私が起きているのに気付いたらしい。

 マールは公爵家の屋敷にいるはずなのにどうしてここにいるのか、そもそもここはどこなのか、聞きたいことはたくさんあったが、見知った顔に少し肩の力が抜けた。

 マールは私を見ると、ぽかんと惚けたように口を開け、次の瞬間には瞳に涙を溜めた。




「お嬢様!お目覚めになられましたか!お体の具合はいかがですか?」




「ええ、心配をかけてしまったわね、ごめんなさい。少し体がだるいくらいでなんともないわ」




「そうですか、丸一日眠ってらっしゃったので無理もないです、喉がお乾きでしょう、どうぞ」




 ではあのパーティーは眠っている間に終わってしまったのだろうな、そこも気になった。

 マールは持って来ていた水差しからコップに水を注ぎ、私に手渡す。

 口をつけると、自分で思っていたより喉が乾いていたらしい、すぐ飲み干してしまった。




「おかわりはいかがですか」




「もう結構よ。それより、ここはどこなのかしら」




 目が覚めた時からずっと思っていた疑問を口に出すと、マールは一瞬口を噤むと意を決したように言った。




「……ブランシェーラの王宮です」




「!?」




 ブランシェーラというと、竜族が治める国だ。

 私の出身国クロムウェルとは隣合っている。

 ……そして、アレンの出身でもある。




「……殿下を呼んで参ります」




 私の顔色が暗くなったことにマールは気付いたらしい。

 だがあえてそこには何も触れず、私を夜着から着替えさせるとアレンを呼びに部屋を出ていった。




 また一人になってしまった私は手持ち無沙汰になって、ベッドから下りると部屋の中を見て回ることにした。

 王宮だったらこの部屋の広さも納得だ。

 調度品も質がよく、そこはかとなく品がある。




 窓際へ近寄って景色を見ると、山と遠くに空を舞う数頭の竜がいた。

 クロムウェルではまず竜は見ない。

 信じたくはなかったが、どうやらここは本当に竜の国らしい。




 窓ガラスに映る尖った自分の耳を触ってみた。

 アレンは私を番だと言って竜にした。

 ……私は彼の妃になるしかないのかしら。





 ガチャッ




 そのままぼーっと立っていると、慌ただしく扉が開かれた。

 見ると、泣きそうな顔をしたアレンが立っていた。




 何故彼がそんな顔をしているのか。

 泣きたいのはこちらの方なのに。




「っリディア……っ」




 彼は絞り出すように私の名前を紡いだ。

 聞いているこっちが苦しくなるような声だ。

 体の調子を聞かれ、問題ないと答えると彼はあからさまにほっとしたようだった。




「私を何故ここに連れて来たの」




 私の言葉に彼は顔を引き締めた。

 聞かなくてももう答えは分かっていたが、彼自身の口から聞きたくてあえて質問した。




「俺の妃になってほしい」




 少し時間が経ったからか、パーティーの時ほどの怒りはもうなかった。




「どうして何も言わず竜にしたの」




「……事前に素直に言ったとして、お前は受け入れられるか?そうは思わなかった。だからああするしかなかった。俺には、どうしてもお前が必要だった」




 必要だった、その言葉を聞いて私はほだされてもいいような気がした。

 ここまで私を必要としてくれた人は今までいなかったからだ。

 今世では、私はゲームの中の'リディア'という人の人生を生きていて、'私自身' を見てくれた人は彼しかいなかった。

 クラリスはまた別として。




 扉から一歩だけ部屋に入った状態で立ち尽くした彼は下を向いて、白くなるほど拳を握り締めていた。

 怒られると思ってる?それとも断られると思ってるのかしら?

 私の逃げ場をなくしたのは自分なのに。




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